【経済ニュースを読み解く会計】企業の最適雇用水準の観点から従業員に関する報道を考える


専修大学商学部・准教授 太田裕貴

【編集部より】
話題になっている経済ニュースに関連する論点が、税理士試験・公認会計士試験などの国家試験で出題されることもあります。でも、受験勉強では会計の視点から経済ニュースを読み解く機会はなかなかありませんよね。
そこで、本企画では、新聞やテレビ等で取り上げられている最近の「経済ニュース」を、大学で教鞭を執る新進気鋭の学者に会計・財務の面から2回にわたり解説していただきます(執筆者はリレー形式・不定期連載)。会計が役立つことに改めて気づいたり、新しい発見があるかもしれません♪ ぜひ、肩の力を抜いて読んでください!


はじめに

みずほフィナンシャルグループが人工知能(AI)を業務に活用し, 全国に約1万5,000人いる事務職員を今後10年間で最大5,000人減らす方針を固めました(2026年2月27日付読売新聞朝刊)。最新のAIを使うことで, 書類確認などの手間を大幅に削減するようです。このように, 従業員の雇用削減や採用に関する話題がメディアでたびたび報じられます。

従業員をどの程度採用するのか, 従業員にどのような教育をどの程度行うのか, 従業員を解雇せざるを得ない場合に, どのような方法を採るか。こうした従業員をめぐる企業の意思決定は, メディアだけでなく, 会計学のアカデミックの世界でも近年大きな注目を集めています。

今回は労働投資の効率性の観点から, 従業員という重要な経営資源を捉えてみたいと思います。

労働投資の重要性が高まっている

財務省「法人企業統計調査(年次)」によれば, 2024年度の付加価値額は3,571,136億円であり, そのうち人件費(役員給与・賞与, 従業員給与・賞与, 福利厚生費)は2,293,515億円と, 付加価値の64.2%を占めます。2024年度の設備投資は555,159億円であり, 人件費は設備投資の約4倍に達しています。

労働投資はコストの側面で大きな比重を持つだけでなく, 生産要素としての戦略的な重要性も増大しています。グローバル競争の激化と技術革新のスピードアップにより, プロセスイノベーションや品質向上は優れた設備だけでなく, 高度な技能と創造性を持つ従業員によって初めて実現されると考えられます。

非効率な労働投資とは?

日商簿記1級の範囲で学習する正味現在価値(NPV:Net Present Value)の観点から投資の効率性を捉える方法が会計学やファイナンスの研究領域で提唱されています。NPVは投資計画を実行することで将来生み出されるキャッシュフローの割引現在合計から初期投資額を引いた額です。投資の意思決定に活用する指標であり, NPVが正を示す場合は投資計画を実行することになります。

非効率な投資とは何か?
それはNPVが負を示すにもかかわらず実施される投資(過大投資)やNPVが正を示すにもかかわらず実施されない投資(過小投資)のことを指します。メルボルン大学のビドル教授らが行った研究では, 経営者と資本提供者の間に情報の非対称性やエージェンシー問題が存在すると, 最適投資から乖離して過大投資や過小投資が生じることを明らかにしました(Biddle et al. (2009))。

こうした物的資本への投資を労働投資に当てはめて考えたのが, ハワイ大学のジャン教授らの研究です(Jung et al.(2014))。彼らの研究によると非効率な労働投資とは, ①必要以上に雇ってしまう(過大雇用), ②必要なはずなのに雇わない(過小雇用), ③必要以上に減らしてしまう(過大解雇), ④減らすべきなのに減らさない(過小解雇)といった形で, 雇用が最適水準から乖離することを言います。

非効率な労働投資は企業の将来業績を悪化させる可能性があり, 投資家などの資金提供者から見ると好ましいものではありません。

最適な雇用水準は?

冒頭で述べた事例は雇用水準を減少させるものであり, 基本的にネガティブな印象で報道されているように思います。しかしながら, これまで同社が雇用の最適水準を大きく超えた状態にあったのであれば, 従業員の雇用削減に対する報道は少なくとも資金提供者にとっては好意的に受け止められる可能性があります。

このように, 企業の最適な雇用水準の観点から従業員の雇用削減や採用に関する報道を考える必要があります。それでは, こうした雇用の最適水準をどのように定量化すればよいのでしょうか。

次回はこの点について書きたいと思います。

【引用文献】
Biddle, G. C., G. Hilary, and R. S. Verdi. 2009. How does financial reporting quality relate to investment efficiency? Journal of Accounting and Economics 48(2-3): 112-131.
Jung, B., W-J. Lee, and D. P. Weber. 2014. Financial reporting quality and labor investment efficiency. Contemporary Accounting Research 31(4): 1047-1076.

太田裕貴(おおた・ゆうき)
専修大学商学部准教授、博士(経営学)。

大阪市立大学大学院経営学研究科後期博士課程修了後、静岡産業大学情報学部専任講師、静岡産業大学経営学部准教授を経て2025年4月より現職。著書に『はじめよう!会計ファイナンス』(上野雄史氏との共著、2025年、有斐閣)や『会計学の実証分析入門』(黒木淳氏、井上謙仁氏との共著、近刊、中央経済社)がある。


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