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【編集部より】
話題になっている経済ニュースに関連する論点が、税理士試験・公認会計士試験などの国家試験で出題されることもあります。でも、受験勉強では会計の視点から経済ニュースを読み解く機会はなかなかありませんよね。
そこで、本企画では、新聞やテレビ等で取り上げられている最近の「経済ニュース」を、大学で教鞭を執る新進気鋭の学者に会計・財務の面から2回にわたり解説していただきます(執筆者はリレー形式・不定期連載)。会計が役立つことに改めて気づいたり、新しい発見があるかもしれません♪ ぜひ、肩の力を抜いて読んでください!
西武文理大学・サービス経営学部准教授 浅石梨沙
みなさん、こんにちは。
西武文理大学で簿記や管理会計を教えている浅石梨沙です。
今回のコラムでは、2回にわたって事業承継と管理会計の関係についてお話しています。前回は、事業承継とはそもそも何を承継するのか?をみました。会社の株式や事業用資産だけでなく、経営者としての能力や、従業員との信頼関係、そして会社の経営理念まで、承継すべき資産はさまざまです。
今回は、こういった資産の承継に、「管理会計システムがどのように関わっているか?」をみていきましょう。
誰もがカリスマにはなれない
会社を立ち上げて、次の代につなぐまで生き延びさせるというのは、とても大変なことです。そのためか、創業者と呼ばれる人たちには、どうも独特な魅力や勢いがあります。(良くも悪くも)カリスマ性があって、人を巻き込んでどんどん前に進んでいくパワーがある人も多いでしょう。
そんなカリスマ経営者からバトンタッチされる後継者も、もちろんパワーあふれる人たちです。
しかし、後継者がみんな、先代経営者のような「カリスマ性」で会社を束ねていけるかというと、必ずしもそうではありません。むしろ、先代のようなカリスマとは違うところに自分の強みを見出して、新たなリーダーシップを発揮していく後継者も少なくありません。
会計数値を武器に、事業を前に進める
事業承継を機会に、仕事をしっかり数値化し、数字を使った事業の提案、数字を使った従業員とのコミュニケーション、そして数字にもとづいた仕事の評価に舵を切ることで、先代経営者とは違ったリーダーシップを確立する後継者は、国内外問わず存在します。
たとえば、サレルノ大学のビゾーニョ准教授とヴェネチア大学のヴァイア准教授は、イタリア企業の事業承継に関する研究結果を公表しました。彼らの研究では、事業を承継した後継者が、数値に基づいた事業提案で関係者を説得し、これまで周囲から反対されていた製品アイディアを展開していった様子が紹介されています(Bisogno and Vaia (2017))。
また、日本でも法政大学の近藤大輔教授らが日本企業の事業承継事例について研究を進めています。アメーバ経営と呼ばれる管理会計システムを通じて後継者が利益に対する意識を高めたこと、そういった経営者の利益に対する意識の高まりが、「社長のこだわりを実現するためにアシストしなければ」という従業員の気持ちを喚起したことが紹介されています(近藤ほか(2022))。
後継者は、新たな経営者として、自分なりのビジョンを持って会社を引っ張っていかなければなりません。その中では、よく「伝統と革新」と表現されるように、新しい展開を提案していくことも重要です。後継者が自分の代でそのような革新を生めるかどうかは、事業承継の成否にも関わります。このとき、会計数値は後継者の心強い味方になってくれます。
会計数値にもとづくコミュニケーションが生む後継者の受容
後継者は、従業員との信頼関係を築くことも重要です。後継者が、新たな経営者として従業員から受け容れてもらえるかどうかは、長い目でみたときの事業承継の成否を左右するといっても過言ではないでしょう。
筆者らの研究では、後継者が主導した管理会計システムの導入が、後継者の従業員からの受容を促進したことを明らかにしました(浅石ほか(2024))。この事例では、それまでは「先代経営者の目配り」によって切り盛りされていたビジネスを、数字によって可視化していきました。このことは後継者本人にも「クリーンな経営をしている」という心地良さを与えたほか、従業員にも、「次の社長が新しいシステムを入れて、業績が伸びていることもわかるし、数値を使った説明もわかりやすい。これから会社は変わっていくんだ」という期待を感じさせました。
そして、こうした評価を積み重ねていくことが、従業員が後継者を新たな経営者として受け容れることにつながっていくと考えられます。
くわえて、後継者の交代を機に若い世代の活躍が期待できることは、会社に前向きな雰囲気を生みます。とはいえ、事業承継や新しいシステムの導入といった企業における大きな変化は、従業員の退職を生むことも少なくありません。
しかし、そういった出来事があっても、むしろ若い世代の活躍の機会につながるだろうと思えることは、事業承継を経て企業が続いていくためには重要でしょう。上述の従業員の期待からもわかるように、そう思えるような雰囲気を作ることにも、管理会計システムは貢献しているといえます。
事業承継と会計のつながりにかんする研究は続く…
事業承継における様々な資産の承継に、管理会計システムが貢献している事例をいくつか紹介しました。事業承継を円滑にするために管理会計システムが役に立つということは複数の研究で主張されていますが、事業承継×管理会計は、まだまだ研究の真っ只中にあるテーマです。管理会計システムがうまく役割を果たすためには、他の経営システムとの関係もよく検討する必要があります。
また、まだ知られていない管理会計システムの役割も、今後明らかになっていくでしょう。
ぜひ、今後の研究の動向にも関心を寄せていただければと思います。
<参考文献>
Bisogno、 M. and G. Vaia (2017) “The Role of Management Accounting in Family Business Succession、” African Journal of Business Management 11(21): 619-629.
浅石梨沙・近藤大輔・黒木淳(2024)「親子間事業承継に管理会計システムが及ぼす影響―アメーバ経営の導入企業を例としてー」『管理会計学』32(1): 185-200。
近藤大輔・浅石梨沙・黒木淳(2022)「事業承継と管理会計―六甲バター株式会社の後継者を育成したアメーバ経営―」『管理会計学』30(1): 73-88。
浅石 梨沙(あさいし りさ)
西武文理大学サービス経営学部准教授、博士(商学)。
一橋大学大学院商学研究科博士後期課程修了後、一橋大学ジュニアフェロー、西武文理大学サービス経営学部専任講師を経て現職。製造業のサービス化における管理会計手法の変化や、製品・サービスのプライシング・マネジメントにおける会計情報の役割、事業承継におけるアメーバ経営の役割などを研究している。日本会計研究学会、日本原価計算研究学会、日本管理会計学会に所属。詳しい著者情報はこちらを参照。著書に『アメーバ経営が事業承継を円滑にする ケースで読み解く後継者育成と信頼関係構築』(共著、同文舘出版)や『検定簿記講義』シリーズ(共著、中央経済社)など。











