【経済ニュースを読み解く会計】 暗号資産の誕生と法的規制


【編集部より】
話題になっている経済ニュースに関連する論点が、税理士試験・公認会計士試験などの国家試験で出題されることもあります。でも、受験勉強では会計の視点から経済ニュースを読み解く機会はなかなかありませんよね。
そこで、本企画では、新聞やテレビ等で取り上げられている最近の「経済ニュース」を、大学で教鞭を執る新進気鋭の学者に会計・財務の面から2回にわたり解説していただきます(執筆者はリレー形式・不定期連載)。会計が役立つことに改めて気づいたり、新しい発見があるかもしれません♪ ぜひ、肩の力を抜いて読んでください!

駒澤大学・経済学部准教授 李焱

はじめに

近年、デジタル技術の進展とともに「お金」の概念が大きく変容しています。

その中心にあるのが「暗号資産」です。かつては「仮想通貨」と呼ばれていたこのデジタル資産は、現在では単なる投資対象にとどまらず、特定の国においては法定通貨として採用されるなど、通貨としての役割も担うようになっています。

サトシ・ナカモトとビットコインの誕生

暗号資産の歴史は、2008年10月にインターネット上に公開された論文から始まりました。「サトシ・ナカモト」を名乗る正体不明の人物が発表したこの論文のタイトルは、「Bitcoin: A Peer-to-Peer Electronic Cash System(ビットコイン:ピア・ツー・ピアの電子キャッシュシステム)」というものでした。中央管理者を介さずに個人間で直接価値をやり取りできる仕組みが提案されました。

当時、世界はリーマン・ショックに端を発する金融危機に揺れており、中央銀行や既存の金融システムに対する不信感が高まっていました。

サトシ・ナカモトは、銀行などの第三者機関を介さずに、個人間で直接かつ安全に価値を取引できる仕組みを提案しました。これが世界初の暗号資産である「ビットコイン」の理論的基盤となりました。

2009年1月、サトシ・ナカモト自身によってビットコインの最初のブロック(ジェネシス・ブロック)が生成され、ネットワークが稼働を開始しました。

「仮想通貨」から「暗号資産」への発展と変遷

ビットコインが誕生した頃、それは一部の技術者や限られた人々の間でのみ取引されていました。しかし、2010年にアメリカでピザ2枚と1万BTCが交換されたことを契機として、実体経済における価値が初めて認識されることとなりました。

その後、ビットコインの基盤技術である「ブロックチェーン」の透明性と改ざんの困難性が注目され、多くの代替通貨(アルトコイン)が登場しました。

日本国内において、当初は「仮想通貨」という呼称が一般的でした。しかし、2020年施行の改正資金決済法等により、国際的な動向に合わせて呼称が「暗号資産」へと変更されました。これは、法定通貨との混同を避け、資産としての法的性質を明確にするための措置であり、このことが暗号資産の会計および税務上の取扱いにも影響を及ぼすことになります。

発展の過程では、取引所の流出事件や価格の激しい乱高下など、多くの課題に直面してきました。しかし、その一方で、国境を越えた迅速な送金手段としての利便性や、発行上限が定められていることによる「デジタル・ゴールド」としての希少性が評価され、機関投資家や企業の参入が相次ぐようになりました。

通貨としての利用例

暗号資産を通貨として活用する動きは、主に新興国を中心に見られます。エルサルバドルでは、2021年9月に世界で初めてビットコインを法定通貨として採用しました。同国がこの決断に至った背景には、国民の多くが銀行口座を持っていないという問題の解決や、国外居住者からの送金手数料の削減、経済活性化の狙いがありました。

また、中央アフリカ共和国でも、2022年4月にアフリカ大陸で初めてビットコインを法定通貨として導入することを発表しました。自国通貨の脆弱性からの脱却を目指した動きでしたが、その後、規制面や運用面の難しさから、2023年には法定通貨としての地位を取り消すなど、新興国における導入は依然として模索と試行錯誤が続いています。

51%攻撃

ブロックチェーンにおける51%攻撃とは、ネットワークの全計算能力(ハッシュレート)の過半数を特定の個人やグループが支配することで、不正な操作を行う攻撃手法です。この状態に陥ると、攻撃者は自身の取引を無効にする「二重支払い」の実行や、特定取引の承認拒否が理論上可能になります。

ただし、ビットコインのような巨大なネットワークでは、51%の計算資源を確保するためのコストが天文学的になるため、実行は現実的に不可能と考えられています。

法規制

当初、ビットコインなどの「仮想通貨」には明確な法定義がありませんでした。しかし、2014年のマウントゴックス事件と呼ばれる取引所の破綻や国際的なマネーロンダリング対策の要請を受け、2017年に施行された改正資金決済法により、世界で初めて交換業者への登録制が導入されました。

その後、2018年のコインチェック事件と呼ばれる巨額流出を受け、利用者保護を一層強化するため、2020年には同法が再改正されました。呼称が国際基準に合わせた「暗号資産」へと変更されたのはこのときで、顧客資産の分別管理の厳格化や、暗号資産カストディ(保管)業務への規制が追加されました。さらに、投資性の強い取引については金融商品取引法の対象とするなど、多角的な法整備が進んでいます。

現在、暗号資産は日本の法律上で以下の性質を持つと定義されています。具体的には、資金決済法が支払い手段としての側面を規制し、金融商品取引法はデリバティブ取引やICO(資金調達)など、投資商品としての側面を規制しています。これらの法律により、日本では現在、厳格な審査を通過した登録業者のみが暗号資産交換業を行うことが認められています。

おわりに

サトシ・ナカモトが提示した「分散型」の理念は、ビットコインという形を通じて世界の金融のあり方を根本から問い直しました。暗号資産は、初期の「怪しいもの」というイメージから脱却し、今や国家の通貨戦略や企業の資産運用における重要な要素となりつつあります。

今後も技術革新と制度整備の動向を注視しながら、暗号資産の役割を多角的に捉えていくことが重要です。

李 焱(り えん)
横浜国立大学大学院国際社会科学研究科博士課程前期を経て(修士(経営学))、2015年3月、同課程後期単位取得満期退学後、同年9月博士(経営学)。
南山大学経営学部専任講師、駒澤大学経済学部商学科専任講師を経て、現在、同准教授として在籍。主たる研究テーマは金融商品会計、ヘッジ会計。日本会計研究学会、国際会計研究学会、税務会計研究学会、非営利法人研究学会に所属。


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