【新春特別企画】長く・楽しく士業を続けるには~「ヒマ人のススメ」 弁護士・辻千晶
- 2026/1/6
- コラム

【編集部より】
明けましておめでとうございます。本年も会計人コースwebをよろしくお願いします。
さて、士業のメリットとして定年がないことがあります。新春特別企画では、長く・楽しく士業を続けるをテーマに、ご執筆いただきます。
弁護士業47年!
私の修習期は31期。
もうすぐ修習50周年になります。
同期の裁判官や検察官は、とうに退職し公証人も定年。
でも、弁護士の方は、まだまだ活躍している人がたくさんいます。
私もその1人、この道47年の(大ベテラン、長老)弁護士です。
定年がないのを良いことに、(おつむやカラダが)元気なうちは、仕事を続けたいと思っています。
これまでのこと
私の略歴を簡単に紹介しますと、1976年(大学在学中)に司法試験と国家公務員上級試験に合格。
1979年に司法修習を終えて東京弁護士会に登録。山本栄則法律事務所で「イソ弁」としてキャリアをスタート。
1988年からはドイツに留学、1990年にはドイツ弁護士(日本法)の資格を取得し、現地事務所にて日本法に関わる弁護士業務、ドイツの司法制度について調査研究。
1992年帰国、山本事務所に戻り日本の弁護士業務再開。
2001年には吉岡・辻総合法律事務所を開設。2004年から2018年までは山梨学院大学法科大学院教授として民事実務を担当し、後進の育成にも携わりました。
近年は企業ガバナンス分野にも活動の場を広げ、複数の上場企業で社外取締役を務めています。
現在は法律事務所キノール東京のパートナー弁護士として、企業法務・訴訟・ガバナンス支援を中心に活動しています。
生存戦略は「ヒマ人」
弁護士は本当に忙しい。
複数(20~30件)の相談案件や訴訟事件が同時進行し、どれも大事で、どれも忘れてはならないこと。さらに扱うのは人様の困りごと。
依頼者のストレスを引き受けながら、相手方、裁判官など敵(思い通りにならない人々)と戦わなければならず、ついつい弁護士もストレスを抱え込みがちになります。
そんな中で、どうやって40年以上も仕事を続けてこられたか、しかも第一線で、かつ、楽しく続けられたのはなぜか、と考えてみたときに、真っ先に思い浮かんだのが、「常に時間的余裕を持つように心がけてきたこと」でした。
そういえば弁護士になった最初から、「時間的余裕があるように見せよう」と頑張ってきましたし、いまもずっとそうしています。
いわば「ヒマ人のススメ」です。
忙しいのにヒマそうに見せるという技術
私は「ヒマ人=かっこいい」と思っています。
忙しそうに走り回る弁護士ではなく、涼しい顔で楽々仕事をこなす弁護士を最初から目指していました。まあ、私の美学みたいなものです。
この妙な美学のおかげで、私は“忙しさを顔に出さない”という癖を若い頃から身につけました。
不思議なもので、外観が整うと中身もついてきます。
「ヒマそうに見えるように工夫する」と、本当に心に余白が生まれ、段取りが回り始めるのです。
そして、ヒマな所に仕事が集まり、自分の糧となり、新しい世界が広がり、次の仕事につながり、常に第一線で継続して活躍することができる……そんな経験を少しお話ししますね。
イソ弁時代、仕事の山に押しつぶされそうな時
最初の10年間、イソ弁時代は手書き起案での書面作成(清書は和文タイプ)、事務所事件、(刑事)国選事件と、実際はまったくヒマではありませんでした。
それでも私は「ヒマ人の美学」に従い、余裕のある外観を崩さないよう努めました。
実際には山のような仕事が来て、押しつぶされそうになった時(その頃、実際に押しつぶされる夢を何度も見ました(笑))の対応は「面倒なことは後回し」です。
ポストイット1枚に、やるべきこと1件を書いて貼り出して、済んだら剥がして捨てます。
そして片付ける順番は、簡単なもの、時間のかからないものから。
期日の調整、簡単な答弁、出欠の返事など。訴状、最終準備書面や控訴理由書、意見書など、難しいことや大変な作業は全部後回し。でもこの時点では10件の仕事のうち9件は終わっているから、集中できます。
これだけで心の負担は大幅に減り、忙しさに飲まれずにすみます。
そして、事務所のボスの目には「いつもヒマそうにしているイソ弁」(でも仕事はこなす)と映り、より重要な仕事、難しい案件を任されるようになりました。
ロースクール時代の“月月火水木金金”
ロースクール教授として過ごした15年間は、人生でもっとも忙しい時期でした。
週に2日は甲府(泊まり)で、残りの3日は東京で弁護士業務。土日は講義の準備・採点など。月月火水木金金のような生活でした。しかし私はここでも「ヒマそうに見せる美学」を貫きました。
するとロースクールのトップ(研究科長)から「辻さん、ヒマでしょ?」と言われるようになりました。私は内心「やったあ!」と思って、「はい、ヒマです。」と答えると、どんどん新しい仕事を仰せつかることに……原稿執筆、シンポジウムのパネリスト、公的委員会の委員など。
実際には寝る時間を削っていましたが、「辻さん、ヒマでしょ」の言葉は私にとっては最高の褒め言葉。余裕のある人には仕事が集まると、実感しました。
おかげで、その後の社外取締役、メディア出演など、新しい世界へ自然に足を踏み入れることができたのです。
本当にヒマだったドイツで育った“未来の種”
私の弁護士人生の中で、ヒマを装う必要のないとき、そう、本当にヒマなときもありました。
ドイツにいた頃、現地の事務所で日本弁護士の看板を出してみたものの、知名度ゼロ、事件は月1件未満という本物の“ヒマ”がありました。
その間(実質2年くらい)、私は、頼まれたわけでもない原稿を書いていました。
事務所の同僚(ドイツ人弁護士)が、ヒマな私を気にかけて、裁判所に連れて行ってくれたり、気安い依頼者の相談に立ち会わせてくれたり、さらに、ランチのときの雑談などでも、びっくりすることや日本との違いを痛感することにたくさん出会いました。
例えば、権利保護保険や弁護士費用の敗訴者負担制度など。その驚きをもとに、好奇心の赴くままに、ドイツの制度、法的根拠、日本の制度との比較など、調べたり考察したりしていくうちに、いくつかの論文がまとまり、それがジュリスト、判例タイムズ等の法律専門誌に掲載されました。
すると、研究者の面も評価され、ロースクール教授へ、そしてマスコミ出演(新聞の取材やテレビ番組への専門家出演)へと広がっていきました。思えばすべての種はあのヒマな時期に蒔かれていたのです。
「ヒマそうな生き方」は、多分(笑)最強
士業を長く続けるために必要なのは、根性や気合ではありません。
忙しさをそのまま受け取らず、うまく受け流す工夫です。
段取りで自分を守り、ヒマそうに装い、余裕があるように見せる。
すると、本当に中身も落ち着き、第一線で走り続けることができる。
ヒマ人とは、怠け者ではありません。自分のペースを守り、余裕の外観を作り、その外観がやがて現実になる……そんな“生き方の技術”なのです。
どうか今年も、自分のペースで軽やかに歩き始めてください。
そして、時間ができたら“頼まれもしない原稿”を書いてみてください。受験生にとっては、受験科目ではない科目の勉強でしょうか。未来の種が、きっとそこで芽を出します。
【著者プロフィール】
弁護士 辻 千晶(つじ・ちあき)
新しいものが大好きな弁護士。【パソコン】はWindows3.1の頃から使い始め、弁護士会が【検索サイト】を立ち上げた際には真っ先に顔写真入りで登録。この検索サイトと自作の【ホームページ】で「PCに詳しく、ネットに強い弁護士」として知られ、一般民事からプログラムやネット関連の著作権問題まで、全国から相談が集まりました。【ブログ】では「司法試験対策」などの検索ワードで1位になったことも。今いちばん夢中なのは【AI】。この原稿もテーマ選びから誤字チェックまで”私のAI”と一緒に仕上げました。





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