
【編集部より】
12月16日、金融庁公認会計士監査審査会より「公認会計士試験における英語による出題について」が公表されました。令和9年第Ⅰ回短答式試験より、英語による出題を行われることになります。会計人コースでは、インタビューを行いました。
英語による出題がスピーディーに実現された理由は?
――このたび、6月の短答式試験と論文式試験のバランス調整において提示されていた英語による出題が、スピーディーに実現されることが公表されました。その背景はどのようなものでしょうか。一緒に提示されていたサステナビリティとITについてはどうなるのでしょうか。
審査会 6月に公表した試験のバランス調整の中では、公認会計士の業務や求められる能力の拡大に応じた出題の見直しとして、英語による出題のほか、サステナビリティ情報の開示・保証と、監査業務でのITの活用について掲げていました。
この中で、サステナビリティ情報の開示・保証については、今まさに金融審議会のワーキンググループで制度化に向けた議論が行われているところです。今後、開示や保証が制度化されれば、その導入状況や教育機関での教育状況等を踏まえ、具体的に出題を検討する必要があると考えられます。
監査業務でのITの活用につきましては、監査法人の業務の中でAIの活用が急速に進んでいること等を踏まえ、監査業務におけるテクノロジーの活用を監査基準等にどのように反映していくか、国際監査・保証基準審議会(IAASB)で検討 されているところと認識していますので、日本で制度化されるのは更にもう少し先になるのではないかと考えられますが、日本の監査の基準にどのように影響があるのか注視しているところです。
英語については、IFRS適用企業の拡大、東証プライム上場企業に対する英文開示の義務付け、グループ監査の基準改正によるグローバルベースでの監査対応の強化等、様々な制度改正等により公認会計士の業務と英語との関わりが拡大しているという状況の変化が既に起きていること等を踏まえ、公認会計士試験における対応として、今般、令和9年第Ⅰ回短答式試験から英語による出題を行うこととしたものです。
なぜ短答式試験での導入?
――6月に出た「運の要素を減らす」という 調整で喜んだ受験生も多かったと思いますが、今回の英語で、少しダメージを受けた方もいるのではないでしょうか。
審査会 短答式試験と論文式試験における合格率の調整については、6月に公表した試験のバランス調整に基づき、今後実行に移していくことになります。
この6月に公表したバランス調整の中でも示していますが、公認会計士試験においては、公認会計士に求められる資質や能力の変化に応じて出題内容も適切なものとしていく必要があります。今般の英語による出題についても、公認会計士の業務と英語との関わりが拡大し、求められる資質・能力が変化してきていることに適切に対応するということが根本的な考え方となります。
公認会計士試験は短答式試験と論文式試験がありますが、論文式試験においては、思考力、応用能力、論述力等を問う問題を出題することとなります。これに対して短答式試験においては、基本的な問題を幅広く出題することとなります。英語による出題については、「会計・監査分野の基本的な事項」についての理解を問うものとして短答式試験において出題を行うこととしています。なお、出題の規模感としては、短答式試験の総点数の1割程度としています。
「資格で一発逆転」を狙いにくくなる?
――「英語出題の難易度は英文を読む負担に配慮した出題」とされていますが、その場合、外国人やUSCPA保有者、帰国子女とかに有利になったりしないでしょうか。逆に、「学歴は低いけれども資格で一発逆転」を狙うような方には不利になることも感がられますが…。
審査会 公認会計士試験には、学歴等の受験要件は設けられておらず、一定の能力等を満たせば公認会計士試験に合格することは可能であり、誰にとっても公平な試験であるという大前提は変わりません。一方で、公認会計に求められる資質・能力に対応した出題を行い、求められる能力等の水準を満たした者を選考していく必要があります。この求められる資質・能力は社会経済情勢によって変わり得るものであり、出題もこの変化に対応していく必要があると考えています。今回の英語による出題については、誰かを優遇する・不利にするという意図を持って行うものではなく、あくまで公認会計士に求められる資質・能力の変化に応じて行うものです。受験者の負担も当然考慮する必要があると考えていますので、英語による出題の出題範囲は日本語での出題範囲と同じとする、難易度は英文を読む負担を考慮したものとする等、そういった考慮を行った形としています。
国家資格における英語の導入は他にある?
――英語が国家資格として出題されるのは珍しいのではないですか?会計士試験で先陣をきった形になりますか?
審査会 例えば、中小企業診断士試験や医師国家試験でも英語での出題があると承知していますので、そういった他の試験も参考にさせていただきつつ、検討を行ってきました。
――法律資格でいう一般教養・基礎知識のレベルを問う意図でしょうか?
審議会 出題の方向性とあわせて公表しているサンプル問題をご確認いただければと思いますが、一般教養的な英語の長文を読んで解いてもらうような問題ではなく、あくまで会計・監査に関して日本語で学んできた知識を英語で問うというものになります。会計・監査に関する専門的な英単語等には新たに慣れていただく必要はあると思いますが、学習範囲が大幅に拡大するものではないと考えています。
出題内容はどうなる?
――財務会計論・管理会計論・監査論、各科目について実務的に英語が必要な箇所が出題されるイメージでよいでしょうか。
審査会 公表文書においても、「公認会計士の業務と英語との関わりを意識しつつ、会計・監査分野の基本的な事項についての理解を問う問題を出題する」としています。こちらもサンプル問題を実際に確認いただければと思いますが、会計・監査に関する基本的な問題を中心に作成しつつ、例えば、監査論では、監査報告書の記載内容や、より実務に近いグループ監査の問題も示しています。こうした点では、従来の日本語での問題より、監査業務との関わりを意識した問題も示しています。もっとも、サンプル問題は様々な有識者のご協力をいただきつつ審査会事務局で作成しているのに対し、実際の試験問題は試験委員が作成することとなりますので、サンプル問題はあくまで出題の一例を示すものという点についてはご留意ください。
会計大学院による免除との関係は?
――ちなみに、会計大学院で免除を受けると、英語を回避できることになりますが、その点についてはどうでしょうか。
審査会 会計大学院においては、会計・監査に関する学習をしっかりと行っていただいていることから短答式試験3科目の免除を設けていますが、英文会計や英語の文献を読むような科目を設けられている大学院もあると伺っていますので、会計大学院でも是非そういった科目をしっかりと勉強いただきたいと考えています。なお、今回の英語により出題を行う3科目については、あくまで公認会計士の業務との関わりという観点を踏まえて決定をしたものです。
英語のレベルはどの程度?
――英語自体の難易度は英検・TOEICで言うと、どのレベルでしょうか。
審査会 サンプル問題をご確認いただければと思いますが、様々な出題形式や出題内容を示しており、難易度としても様々に感じられると思います。それぞれの問題の英語が、英語の資格試験等のどのレベルに対応する難易度なのかということをお示しするのは難しいですが、会計・監査に関する専門的な英単語等には新たに慣れていただく必要はあるものの、ベースとなる会計・監査の知識は学習されているはずですので、そういった知識を前提として読むと、大学受験や英語の資格試験等で出題されるような英語の問題よりも読みやすいのではないかと思います。
――テクニカルタームの勉強で十分対応できるということですね。
審査会 サンプル問題を見ると、最初はもちろんわからない専門的な英単語もあるかもしれません。ただ、「減価償却」を英語で何と言うかなどは、仕訳の時にDepreciationを略して、DEPと書く人もいるかと思います。そういった英単語に少しずつ慣れていっていただければ、ベースとなる知識は学習されていると思いますし、 英語による出題の出題範囲は日本語での出題範囲と変わりませんので、対応いただけるものと思います。また、難易度についても、試験ですので当然問題ごとに難易度は異なり得ますが、英語による出題については、英文を読む負担を考慮した難易度とすることとしています。
受験生に向けて
――受験生の皆さんにメッセージをお願いします。
審査会 現状では、公認会計士試験の合格者の8割程度は大手・準大手監査法人に就職しています。大手・準大手監査法人では、東証プライム上場企業をはじめとする国際的に活動する企業の監査が多く行われています。こうした会計監査の現場で活躍していただくにあたり、企業活動がグローバル化する中で、資本市場のインフラである公認会計士の業務もグローバル化し、英語との関わりが拡大している状況にあります。このため、公認会計士の英語能力の向上は欠かせません。公認会計士の英語能力の向上は、日本の資本市場の国際競争力の強化にもつながるものと考えております。公認会計士試験の受験生の方々が試験勉強の中で英語にも触れることは、合格後の実務につながってくるものとなりますので、将来も見据えてぜひ 頑張っていただきたいと思います。
――ありがとうございました。









