まずはココだけ押さえたい! 経理・財務の業務フロー【第3回】現金預金の残高管理②


菅 信浩

【編集部より】
「簿記や財務諸表論などの問題は解けるけれど、実際の業務はどう進むの?」、「監査のために、仕事の流れが知りたい」という方も少なくないはず。本連載では、受験勉強だけでは得られない現場の経理・財務の業務プロセスについて、『業務をまるごと見える化する 経理・財務のフローチャート40』の著者、菅信浩氏に解説してもらいます(全5回予定)。
本連載を読めば、まだ働いたことのない受験生や各試験合格者も、「入社前に知ることができてよかった」、「業務プロセスのイメージがついた」と自信がつくはず!
もちろん、すでに業務についていて、より理解を深めたい経理・財務パーソンにもおすすめです♪

預金の残高管理(確認)

預金は定期的にその実際の在り高を記載した銀行残高証明書等と帳簿残高を照合して、実在性を確認する必要があります。

銀行残高証明書等と帳簿残高の照合を適切に行わないことによるリスク

預金について外部証憑と会計残高との照合を行わないと、入出金の担当者や管理者による預金の横領が発見されないリスクが高まります。
また、横領等を行った悪意のある担当者が預金照合作業を適切に実施せず、残高証明書やシステム帳票を改ざんしてから検証者に回付し差異を隠蔽するリスクがあります。

業務フローチャート

具体的な業務処理をフローチャートと比較しつつ確認していきましょう。

年度末ないし四半期末については、銀行残高証明書と預金残高明細の照合を行います。

経理部門は預金残高明細に基づいて取引のあるすべての銀行に対して銀行残高証明書の発行依頼を行います(IB、Web、郵送ないし窓口にて)。銀行は一定の手数料を取って銀行残高証明書を発行し、経理部門に返送します。

経理部門では銀行残高証明書と預金残高明細を照合するとともに、会社が認識している銀行借入金やデリバティブ取引等と銀行残高証明書の記載が合致しているかも合わせて確認します。

照合は銀行勘定調整表を用いて行い、照合差異がある場合は差異原因を記載して報告します。

監査法人による監査を受けている会社の場合は、監査法人が「確認」という監査手続に基づいて銀行残高証明書を必ず入手するので、その写しを監査法人から共有してもらうことで自社独自での銀行残高証明書の入手を省略することも可能です。

なお、銀行勘定調整表は作成するのが原則ですが、最近は小切手や手形を使わない会社も多くなり、夜間金庫預入を実施しない会社も多いので、現実には照合差異がほとんど生じない会社もあります。そのような会社は差異が生じたときのみ銀行勘定調整表を作成するか、差異原因を預金残高明細に直接記載する「ルール」を規定することで銀行勘定調整表を使用しないことも許容されます。

まとめ

現金預金の残高管理に共通して言えることは

① 実在性を確かめることが重要であること
② 現金預金はお金そのものなので横領リスクが高く定期的なチェックが不可欠なこと
③ 入出金を担当している者以外の者が関与すること

が重要なプロセスということです。

現金預金は会社が有する資産の中でも特にリスクが高いため、会社では比較的上位の者がその承認やチェックのプロセスに関与します。
他方で、リスクが大きい科目であるにもかかわらず、その単純さから監査法人では新人が担当する登竜門的なプロセスとなっています。

「実査」「確認」は難しくはないですが適切に行わないとリスクが高い重要な監査手続となります。単に前年度の手続をなぞるだけではなく、会社に改善の提案をして(指導的機能を発揮して)バリューを出すためには、あるべき現金預金の残高管理の業務フローを理解することが必須ですので、本稿がご参考になれば幸いです。

【執筆者紹介】
菅 信浩(すが・のぶひろ)
上場準備中の不動産デベロッパー(現在は東証プライム上場)にて営業経験を積んだのち、当該会社の上場を契機に公認会計士を目指す。合格後に朝日監査法人(現有限責任あずさ監査法人)へ入所し、100社超の監査業務、IPO支援、JSOXアドバイザリー等を担当。その後、大手総合商社へ転職後、数多くのM&AやPMI、内部統制構築に携わり、現在は台湾の海外子会社にCAOとして駐在。著書に、『チェックリストでリスクが見える 内部統制構築ガイド』『業務をまるごと見える化する 経理・財務のフローチャート40』(いずれも中央経済社刊)。


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