残業月80時間のサラリーマンが、会計士試験にほぼ独学で合格した話 


【編集部より】
社会人が公認会計士試験に合格することは可能なのでしょうか? 当社刊行書籍『公認会計士試験 社会人合格者のリアル』も好評をいただいていますが、社会人の関心は高いようです。仕事・子育て・勉強をどう両立するかは難しいところです。ここでは、キャリアに悩む社会人に向けて、合格体験記を取り上げさせていただきます。

経営コンサルで働きながら合格

はじめまして。森田佳祐と申します。
2021年の公認会計士論文式試験に働きながら合格しました。
少し前のことにはなりますが、私の経験が受験生の皆様に少しでも参考になればと考えまして、本記事を執筆させていただきます。

公認会計士試験の勉強を始めたのは2018年12月で、ちょうど30歳のときでした。
当時、経営コンサルで働いていたのですが、活況だったこともあり残業時間が月に80時間程度と忙しい状態、プライベートでは1歳の子供がいました。
それでも、妻の協力のおかげで、働きながら勉強を続けることができました。

1年間の勉強し、2019年12月に短答式試験に1回で合格できました。

しかし、2020年11月に論文式試験は不合格でした。
2021年8月に2回目の論文式試験でリベンジ合格できました。

合格後は、新卒から10年勤務した経営コンサルから、PEファンドに転職しました。

経営コンサルで、会計の魅力に気付く

元々、ストリートダンスサークルでロボットダンスの練習ばかりしているやりたいことのはっきりしない理系大学生でした。

ぼんやりと理系的な領域に関心があることは確かなものの、特に決まった専門領域に情熱も持てず、アカデミックや企業内の研究者の待遇にも希望が持てず、自分のキャリアをどうしたものかと悩んでいる状況でした。

そんな中で、数理工学(最適化数理)に出会いました。数理工学は、GPSで最短経路を探し出す仕組み、トラックに荷物を余すことなく詰める仕組みなど各種産業に幅広く用いられている技術です。
会計士の世界で言うと、リニアプログラミングが該当します(最適なセールスや生産ミックスを数学的に導き出す仕組み)。

数理工学はなかなか面白かったのですが、もう少し人と関わる仕事をしたかったこと、最適化の対象として経営が面白いと思ったことなどもあり、経営コンサルの会社に入社することにしました。
良くわからないけれども、コンサルはかっこよさそう、給料が良さそう、いろんな会社を見ることができて面白そうというミーハーな考えも多分にありました。

入社後、「船着き場の利益を最大化する」案件に出会いました。
いわゆる最適セールスミックス問題を取り扱う案件です。
その仕事の中で、会計の魅力に気づきました。

船着き場の利益を最大化するとは?
船着き場の賃料は船の運航会社と港で交渉して決めるのですが、船着き場にクレーンを置く、船が痛まないようにクッションを付けるなど船着き場の機能を強化することで賃料アップ可能です。
その一方で設備投資のためには、資金調達が必要です。
港には複数の船着き場があり、それぞれに営業社員が配置されており、各社員の裁量で価格交渉を行います。
クライアント内では、このプライシングが調達金利まで含めた視点で全体最適化されていませんでした。
そこでプライシング戦略を立案し、管理会計制度構築、最適セールスミックスを円滑に提案可能な経営シミュレーションツールの構築を行いました。

そこから、テレビ番組、飛行機、お酒、発電プラント、電力小売り、SIerなど様々なビジネスの最適ミックス問題に取り組みました。

日商簿記2級・1級や税理士試験の簿記論・財務諸表論を取得

会計に興味を持ち、「せっかくだから座学にも取り組もう」と考えました。

そこで、日商簿記2級、1級に挑戦して合格しました。
学習内容が面白く、税理士試験の簿記論・財務諸表論にも合格しました。

半ば趣味的に続けてきた会計の勉強ですが、「今の仕事を辞めるつもりはないし、この先どうしようか」と色々悩みました。

その中で、会計士試験に社会人合格した方に話を聞いたりし、「自分でも働きながら会計士を目指してみよう」と思い、勉強を始めることにしました。

財務会計論免除も活用し、短答式試験に独学合格

短答式試験では、簿記論・財務諸表論の合格実績を活用して、財務会計論の免除を申請しました。

予備校やテキストについては、中央経済社のスタンダードテキストなど、市販テキストを用いれば合格できそうだと感じましたので、予備校には通わず独学することにしました。

毎週20時間の勉強を1年間、合計50週×20時間=1,000時間を投入しました。

この毎週20時間は、自分にとっては無理せず勉強できるギリギリの時間でした。
平日は1日2時間(行きの電車で30分、ご飯食べながら60分、帰りの電車で30分)、休日は1日5時間の勉強を行いました。

仕事が忙しくて終電がなく、タクシーの中で勉強していたことなどもありました。
結果、2019年12月の短答式試験に一発合格することができました。

A・B論点中心で論文式試験に合格

論文式試験では、さすがに予備校なしでは厳しいと考え、CPA会計学院に入りました。

しかし結局のところ、忙しさのあまり講義は一つも視聴せず、答練は一度も受けませんでした。
2回ある模試だけは受けましたが、それ以外は送られてきたテキストの基本例題のうちA・B論点の部分ばかり解いていました。
結局、独学のようなものだったと思います。

短答式試験に引き続き、毎週20時間の勉強を続けました。

結果、2020年に受験した試験は不合格となってしまいました(経営学のみ科目合格)。

不合格の結果を見たとき、ちょうど2人目の子供が生まれるタイミングだったことや、仕事では管理職になるタイミングだったこともあり精神的に余裕がなく、かなりショックを受けました。
それでも、敗因を分析しタスクに落とし込み、習慣化することで何とか週20時間の勉強を再開しました。

学習再開後も勉強方針は変えず、講義は視聴しない、答練も受けず、テキスト例題(A・B論点)を解くことを続けました(ただし、財務会計論と租税法の答練だけは解いたほうがよいと考え、過年度の教材ではありますが解きました)。

結果、2021年に受験した論文式試験にて合格することができました。
論文式試験に投入した時間は1,800時間でした。
短答式試験と論文式試験あわせて2,800時間になりました。

下図は論文式試験におけるR2年度(2020年度)とR3年度(2021年度)の比較です。青はR2年度、赤はR3年度、棒グラフが投入時間(H)、折れ線グラフが偏差値をあらわしています。

R2年度とR3年度の比較

さいごに

社会人受験生の中には、仕事や家庭の事情でなかなか勉強時間が確保できなかったり、あまりの難易度に心が折れそうで継続が難しかったりする方もいらっしゃると思います。

2024年現在の試験難易度は、2021年当時とは異なっているのかもしれませんが、私のように、すきま時間で無理のない範囲で週20時間の勉強を継続して合格した人もいます。

皆様のモチベーション維持の一助になればと思います。

<執筆者紹介>
森田佳祐(もりた・けいすけ)

愛媛県松山市出身。
2010年に大阪大学 基礎工学部 システム科学科を卒業後、2012年に京都大学 情報学研究科 数理工学専攻修了。
大学院修了後、2012年より経営コンサルティング会社に勤務。業務の傍ら公認会計士試験に合格。会社では民間企業向けに業種を問わず戦略策定支援、管理会計高度化支援、業務改革支援など幅広くサービスを提供。飲料メーカーのマーケティング部に出向し、FP&A業務を担当した経験も有する。
公認会計士試験合格後、国内の魅力ある企業へ投資を行う仕事への関心が高まり、PEファンドに転職。現在は国内企業の事業承継、上場企業の子会社カーブアウト、非公開化などに取り組む。
プライベートでは2児の父。管理会計学会所属。趣味はストリートダンス、サッカー、YouTube鑑賞。

 


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