【経済ニュースを読み解く会計】 企業グループの「営業利益」はどこまで?<前編> 国際的な業績開示のルールが変わる!


小阪敬志(日本大学法学部准教授)

【編集部より】
話題になっている経済ニュースに関連する論点が、税理士試験・公認会計士試験などの国家試験で出題されることもあります。でも、受験勉強では会計の視点から経済ニュースを読み解く機会はなかなかありませんよね。
そこで、本企画では、新聞やテレビ等で取り上げられている最近の「経済ニュース」を、大学で教鞭を執る新進気鋭の学者に会計・財務の面から2回にわたり解説していただきます(執筆者はリレー形式・不定期連載)。会計が役立つことに改めて気づいたり、新しい発見があるかもしれません♪ ぜひ、肩の力を抜いて読んでください!

こんな記事を知っていますか? 

公認会計士や税理士を目指す方をはじめ、日商簿記検定などの資格取得を目指している方など、多くの方が「損益計算書」や「営業利益」といった用語には、なじみがあることでしょう。ただ、それらの用語は「日本の会計基準に基づいて」説明されます。

その一方で、「会計基準の国際的コンバージェンス」というキーワードとともに、日本の会計基準においてIFRS(国際財務報告基準)と同等の規定を設ける作業が進められています。

最近の受験学習でも、徐々にではありますが、IFRSに対する理解も求められるようになってきています(たとえば、令和4年度の公認会計士試験論文式試験では、IFRSに準拠して作成された在外子会社の財務諸表を連結するという論点が出題されています)。

そんな中、2024年7月10日の日本経済新聞に「『営業利益』ルール統一 国際会計基準、比較しやすく」という記事が掲載されました。IASB(国際会計基準審議会)から、新たな業績開示ルールを定めたIFRS18号「財務諸表における表示および開示」が公表され、これに伴う影響を考察したものです。

IFRSにおける業績開示ルールの変更は、IFRS採用企業の実務に影響することはもちろんですが、変更点を日本の会計基準と比較することで、受験上注目すべき論点を知る手がかりにもなります。

本コラムでは、IFRSにおける業績開示ルール変更点について、特に受験上のトピックになりそうな部分にスポットをあてながら解説します。

IFRS18号による新しい業績開示

IFRS18号の話を始める前に、そもそも現行のIFRSによる業績開示がどのようになっているのかを、簡単に整理しておきましょう。IAS1号「財務諸表の表示」は、すべての収益および費用の差額として純利益を表示することを求めています[1]が、日本の会計基準のような段階別の利益計算は要求されません(【図表1】)。だからといって、純利益以外の開示が禁止されているわけではなく、「営業活動の成果」にあたる利益区分を設けることは、企業の判断によって認められていました。

この「企業の判断」に任された結果、「営業利益」が複数の方法で計算・開示されるようになり、ある企業の営業利益には「X」という項目が含まれるが、別の企業の営業利益には「X」が含まれていないといった状況が生じ、結果として、業績情報に関する企業間の比較可能性が損なわれてしまうこととなりました。このような問題を解消するためにIASBが新たに公表した基準が、IFRS18号です。

IFRS18号では、収益・費用について、「営業」、「投資」、「財務」の3つの活動区分に「法人所得税」および「非継続事業」という2つの区分を加えた、5つのカテゴリーに分類します。各区分に属する収益・費用の差額によって段階別の利益計算を行い、「営業利益」、「財務及び法人税所得税前純利益」、「純利益」の3つの利益が計算されます(【図表1】)。

「投資」区分には、関連会社や共同支配企業への投資から生じる収益・費用が、「財務」区分には、借入金やリース負債、退職給付債務などから生じる利息などが表示されます。「法人所得税」は文字通りで、「非継続事業」区分については、すでに処分されたか、または処分の可能性が非常に高い事業に係る収益・費用が表示されます。

IASBは、上記のいずれにも分類されない収益・費用は、すべて「営業」活動から生じるものと捉えており、したがって、それらの収益・費用が「営業」区分において表示されます。

日本基準との主要な相違点

現行のIAS1号に比べると、IFRS18号に基づく業績開示は、日本の会計基準に接近しているように見えます。前述のように、現行のIFRSでは「営業利益」の開示が企業の任意で、しかも計算方法も区々となっているため、「営業利益」の統一的な開示方針が示された点は、非常に注目すべき点です。

他方で、損益計算の各段階は、日本基準とは少し異なっています。日本基準で「営業外」に位置づけられるような収益・費用は、「投資」や「財務」の活動に関連する項目に細分して表示されるような形になっています[2]。また、日本基準では異常な収益・費用については、特別損益項目として表示されますが、IFRS(IAS1号およびIFRS18号の双方)では、そのような異常損益項目の区分がありません。したがって、例えば減損損失は、IFRSでは「営業」区分に表示されます。

さらに、IFRS18号では「非継続事業」に係る収益・費用を他とは区別して表示することが求められます[3]。日本の会計基準では、例えば売却処分が決まっている事業に係る収益・費用だけが独立の区分として表示されることはないため、この点も相違点と言えます。

整理すると、IFRS18号では、「継続性」に関する分類が行われ、「継続事業」に係る収益・費用が、「営業」、「投資」、「財務」へと分類されるような形になります。これに対して日本の会計基準に基づく業績開示では、収益・費用は「正常性」という観点から分類が行われ、正常な項目についてはさらに「営業活動の枠内か否か」という観点から分類が行われるような構造になっています(【図表2】)。

「持分法投資利益」の表示

さて、ここまで整理してようやく本コラムの本題に進みます。現行のIAS1号では、「営業活動の成果」が企業の任意によって開示されています(「営業利益」のほか、「事業利益」といった名称も見られます)。

この「営業活動の成果」の中に含めるか否かが区々となっていた(前述の「X」にあたる)項目の1つに、「持分法投資利益」があります。新しく公表されたIFRS18号では、「持分法投資利益」が「投資」区分に表示されることとなりました。

次回<後編>では、「持分法投資利益」の性質を整理しつつ、この取り扱いの変化が、どのような影響を及ぼすのかを考えていきます。


[1] 厳密には、純利益にその他の包括利益項目を加えた、包括利益の表示が求められますが、本コラムでは純利益までの開示を検討対象とするため、包括利益については度外視しています。

[2] ほかにも、日本では退職給付費用(販管費)に含めて表示される「利息費用」が、IFRS18号では「財務」区分の費用とされるなど、細かい部分での相違もあります。

[3] 厳密には、収益と費用をまとめて、非継続事業からの損益として表示されます。


<執筆者紹介>
小阪敬志(こさか・たかし)
日本大学法学部准教授。中央大学在学中に公認会計士試験に合格。中央大学大学院を経て2012年日本大学法学部助教に着任。その後,専任講師を経て2018年4月より現職。主な研究テーマは企業結合。『検定簿記講義1級(商業簿記・会計学 上/下巻)』『テキスト上級簿記(第5版)』(いずれも中央経済社)等を執筆。
小阪敬志


関連記事

ページ上部へ戻る