諸角 崇順(かえるの簿記論・財務諸表論講師)
【編集部より】
2024年8月6日(火)〜8日(木)の3日間にわたり、令和6年度(第74回)税理士試験が実施されました。
そこで、本企画では、「簿記論」・「財務諸表論」・「法人税法」・「相続税法」・「消費税法」について、各科目に精通した実務家・講師の方々に本試験の分析と今後の学習アドバイスをご執筆いただきました(掲載順不同)。ぜひ参考にしてください!
前編では今年の財務諸表論に関する講評をまとめました。後編では、再チャレンジとなりそうな受験生へ向けて、今後の学習アドバイスをお伝えします。
税法科目の勉強を始める人へ
これは私の長年の講師経験から言えることなのですが、税法科目に進むと簿・財との勉強量の差に愕然とすると思います。そして、いくら講師が「財務諸表論の勉強も時々しておいてよ!」とお願いしても、日々、税法理論の暗記に追われ、「財務諸表論の復習なんかしている時間がない!!」というのが現実となってきます。
ならば、いったん財務諸表論のことはあっさり忘れて、新しい税法科目をしっかりと学習してください。その際、比較的ボリュームの少ない税法科目、かつ、12月末までで全範囲の学習が終わるコースを選択しておくといいと思います。
そうすると、財務諸表論に合格していた場合、年内の学習していた税法科目についてはそのまま年明け以降、受験経験者コースに合流し、さらに知識に磨きをかけることができます。
また、財務諸表論に不合格となった場合に財務諸表論に戻ることになったとしても、その税法科目の一部分のみをつまみ食いした状況ではなく、12月末までにその税法科目の全範囲の学習を終えていることになるので税法のボリューム感を把握でき、今後本格的に他の税法を学習する際の大きなアドバンテージになるからです。
税法科目を始めず、財務諸表論の勉強に戻る人へ
合格発表まで、今の実力を落とさないようにすべきです。そのために実行することを、理論と計算に分けて書いていこうと思います。
理論
月1回のペースで、財務諸表論(会計学)の基本書(例えば、『エッセンシャル財務会計』(井上達男・山地範明、中央経済社)など)の通読をしてください。今までは、「暗記!暗記!ひたすら暗記!!」と前のめりになってしまい、「木を見て森を見ず」の状況になっていた可能性があります。
「本試験日まであと○日!!」といった焦りを感じずにいられるこのタイミングで、財務諸表論の全体を何度も繰り返し俯瞰しておくのはかなり効果的だと思います。そうすることで、今まで点の知識(「ここはこう!」といった丸暗記の知識)だったものが、線(「あ! この論点がこっちの論点の結論にこんな影響を与えていたのか~」といった理解)としてつながり始めます。
<基本書を通読する際の注意点>
1冊の基本書を1ヵ月(30日)かけてじっくり読むのではなく、休日1日を基本書の通読にあてるなど、短期間で一気に通読してください。そうしないと、基本書の前半に書いてあった内容と後半に書いてある内容がつながる論点の場合に、そのつながりに気付けないことがあるからです。
そして、毎年のようにたくさん質問されることとして、「暗記した理論を忘れないようにする努力はしておいたほうがいいですか?」というものがあります。この質問に対する私の回答は「しなくていいよ」となります。というか、「しないでください」と言いたいぐらいです。
意外に思われるかもしれませんが、これにはちゃんとした理由があります。
本試験から合格発表まで約4ヵ月ありますが、この約4ヵ月という時間の流れの中で、あえて記憶のメインテナンスをしないことで丸暗記に頼っていた部分がそげ落ち、理解を伴って記憶していた部分だけが残ることになります。
万が一、合格発表での結果が思わしくなかった場合、仕切り直してリスタートとなるのですが、そのときになっても丸暗記した部分を残しておくと、次の年も結局、丸暗記に頼った受験をしてしまうことになります。
そこで、あえて合格発表までの4ヵ月を「基本書の通読」という知識の連結に使うことで、合格発表後の理論の「理解」につなげていってほしいと思っています。再暗記よりもこちらの方法のほうが、きっと得点力は上がるはずです。
【参考】
「【税理士・財務諸表論】理論が1本の線になる! かえる先生が教える「基本書」の読み方」
計算
可能であれば、毎週1問は総合計算問題を解きましょう。特に簿記論の受験が終わっている場合は、絶対に実行していただきたいと思います。
計算に関しては、仕訳を丸暗記している方はほとんどいないと思います。よって、理解した上で解いているはずですが、皆さんが生まれたときから慣れ親しんでいる日本語を使う理論とは異なり、普段の生活で計算の知識はまず使わないはずなので、合格発表までの約4ヵ月、ほったらかしにしていると確実に知識が抜けていってしまいます。
また、本試験後のこの時期は、比較的心に余裕のある状態で問題に向かい合えるので、いろいろなことを試してもらいたいと思います。
まず、「解き方」については、たとえば、計算用紙に仮計を作るor作らない、最初から解くor解けるところから解くなど、ネットなどで他の受験生の勉強方法を知る機会もあったと思います。
次に、「時間配分」について、手元には受験前に解いた総合計算問題がたくさんあると思います。模試形式だと良いのですが、問題集形式の場合、標準解答時間(解答の目安となる時間)があらかじめ記載されているかと思います。前編でもお伝えしたとおり、その場合はまずそれを消し込みましょう。すでに一度は解いた問題、時間内に解けるに決まっています。
そして、消し込みが終わり総合計算問題を解く際は、1~2分使って「今の自分の実力だと何分で解けるかな」と予想してから解きましょう。解答後、自分で予想した分数と±20%以上ズレるなら、本当の意味での実力(素養)が備わっていないと判断できます。
計算力というものは、ただ単に問題が解けるだけではなく、問題文を見た瞬間に「あ、この資料は○分で解けるな」と判断する力も含みます。この判断が受験を経験していても正しく機能しないのは単純に問題演習不足です。ズレてしまう方は週に2問、3問と総合計算問題を解いておくようにしましょう。
受験後、受験前に解いた問題を、上記のプロセスで解き直したとします。その後、同じ問題をもう一度解き直す際、2回目以降は受験後1回目の解き直しにかかった時間の3分の2の時間で解き直しましょう。焦ると自分がやらかすミスが浮き彫りになります。
他には、あえて騒がしい場所で解いてみる、完全に真っ白な紙を解答用紙にして解答してみるなど、本試験直前には試すことができなかったことをこのタイミングで試して、自分にとって最善の勉強方法を見つけてもらいたいです。これはきっと、税法科目の学習に進んだときにも役に立つことでしょう。
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本試験、本当にお疲れさまでした。
特に悔しい気持ちで受験を終えた方は、捲土重来を期すため、すぐに勉強に戻るかもしれませんが、少しは頭と身体を休めておかないと、次の1年が持ちません。
短い夏とはなりますが、受験生活に協力をしてくださったご家族や恋人、友人などとの楽しい時間を過ごして、心身共にリフレッシュしておいてください。
<執筆者紹介>
諸角 崇順(もろずみ・たかのぶ)
大学3年生の9月から税理士試験の学習を始め、23歳で大手資格学校にて財務諸表論の講師として教壇に立つ。その後、法人税法の講師も兼任。大手資格学校に17年間勤めた後、関西から福岡県へ。さらに、佐賀県唐津市に移住してセミリタイア生活をしていたが、さまざまなご縁に恵まれ、2020年から税理士試験の教育現場に復帰。現在は、質問・採点・添削も基本的に24時間以内の対応を心がける資格学校を個人で運営している。
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