【税理士試験】今年の簿記論はどうだった? 渡邉 圭先生が予想するボーダーラインと学習アドバイス


渡邉 圭(千葉商科大学准教授)

【編集部より】
2024年8月6日(火)〜8日(木)の3日間にわたり、令和6年度(第74回)税理士試験が実施されました。
そこで、本企画では、「簿記論」・「財務諸表論」・「法人税法」・「相続税法」・「消費税法」について、各科目に精通した実務家・講師の方々に本試験の分析と今後の学習アドバイスをご執筆いただきました(掲載順不同)。ぜひ参考にしてください!

全体的な難易度とボーダーライン

第74回の税理士試験簿記論ですが、過去問と比較して、一部難易度が高い問題(第一問)がありましたが解きやすい問題が出題されました。第一問ですが、退職給付会計の給付算定式基準と期間定額基準が問われています。給付算定式基準の金額を算定するのは難しいため、勘定科目や期間定額基準の金額を解答など、問題の捨拾選択が求められます。また、包括利益に関する問題も出題されましたが、投資有価証券の売却、包括利益の金額が正答できれば良いと考えます。

第二問では、基本的な問題が出題されました。有形固定資産、新株予約権が出題されました。これらは答練を多く行っているため8割以上正答したいです。

第三問については、問題量が多い印象ですが、解きやすい問題でした。合格には6割以上の正答が必要だと考えます。そこで、全体的な難易度B、ボーダーライン予想64点以上、合格確実ライン予想72点以上と予想します。この点数以外に、各専門学校が公表する解答速報も参考に自己採点をしてください。

<予想ボーダーライン>
〔第一問〕13点
〔第ニ問〕21点
〔第三問〕30点
 合 計 64点

税理士試験は日商簿記検定の試験範囲外の論点も出題され、理論などの考え方が問われます。例えば、過去問には商品売買の記帳方法の1つである小売棚卸法や特殊仕訳帳が出題されました。

現行の会計基準上、削除された論点であっても、企業会計原則や連続意見書といった伝統的な会計諸原則が存在しているため、これらを踏まえて学習することをオススメします。

なお、本記事は問題の難易度について次のような基準を設定します。
・難しい:A 
・普通:B
・易しい:C

〔第一問〕退職給付会計・その他包括利益(連結会計、一部個別会計)

 難易度:A ボーダーライン予想13点以上、合格確実ライン予想15点以上

本問は退職給付会計とその他包括利益(連結会計)に関する問題が出題されました。退職給付会計は給付算定式基準と期間定額基準に基づき退職給付の処理や金額の計算が問われました。

過去の本試験と比較して難易度は高いと考えます。退職給付引当金及び退職給付費用の残高、次期繰越といった論点は解答できなくもよいでしょう。一方で、勘定科目、退職給付見込額の各年度の帰属額については正答が求められます。

その他包括利益については出題内容が読み取りにくいため、個別会計上の仕訳、連結財務諸表の表示科目については部分的に正答できれば問題ないと思います。

上記を内容を踏まえてボーダーラインは13点以上と予想します。15点以上正答できていれば合格確実ラインと考えます。

〔第二問〕有形固定資産(減価償却、資産除去債務)・新株予約権(自己新株予約権)

 難易度:C ボーダーライン予想21点以上、合格確実ライン予想22点以上

本問は有形固定資産の減価償却、減価償却方法の変更、資産除去債務、セール・アンド・リースバック取引と新株予約権の行使、自己新株予約権の取得と消却の仕訳と勘定記入が問われました。

過去の本試験と比較して基本的な難易度と考えます。資産除去債務については金額の算定でケアレスミスを引き起こす可能性があるため解答できなくもよいでしょう。それ以外の問題は正答が求められます。自己新株予約権が正答できると合格確実ラインに近づくと予想します。

上記の内容を踏まえてボーダーラインは21点以上と予想します。22点以上正答できていれば合格確実ラインと考えます。

〔第三問〕決算整理後残高試算表の作成(総合問題)

 難易度:C ボーダーライン予想30点以上、合格確実ライン予想35点以上

本問は、決算整理後残高試算表を作成する問題です。現金預金、為替予約、棚卸資産、有価証券、有形固定資産、借入金、金利スワップ、新株予約権付社債、貸倒引当金、賞与引当金、自己株式、剰余金の配当が出題されました。全体的に過去問と比較して難易度は基本的な問題です。

決算整理後残高試算表の現金、売掛金、繰越商品、その他流動資産、自己株式、投資有価証券、商品評価損、賞与引当金繰入、商品評価損(火災)、貸倒引当金繰入(貸倒懸念債権)、雑損失、投資有価証券評価損、短期借入金、未払消費税等、リース債務、減価償却累計額、その他資本剰余金、利益準備金、繰越利益剰余金、その他有価証券評価差額金、新株予約権、有価証券利息、受取配当金は確実に正答したいです。

当座預金、前払費用、買掛金、その他営業費、支払利息、雑収入が正答できるとより合格に近づけるでしょう。以上のことから、解答時間も踏まえてボーダーラインは32点以上、合格確実ラインは35点以上と予想します。

次回の税理士試験に向けて

ボーダーラインまたは合格確実ラインを超えていれば次の科目へ
ボーダーラインまたは合格確実ラインを下回る場合は受験科目の復習

自己採点の点数に応じて9月からの試験対策が異なります。

各専門学校が公表しているボーダーラインまたは合格確実ラインを超えていれば、9月から開講される新たな科目の講座を受講して、来年度の試験に向けて対策をしましょう。

ボーダーラインまたは合格確実ラインを下回る場合は合格発表まで応用問題集などを使い復習をしながら習得した知識を維持してください。応用問題集は月に1冊終わらせるペースで構いません。財務諸表論が未学習であれば9月から講座を受講して簿記論の復習と合わせて学習するのも効果的です。

財務諸表論は簿記論とは異なり理論の学習があります。理論問題集の範囲を5月ゴールデンウィークまでに完了するように学習を進めてください。5月以降は直前予想問題集や各専門学校で模試の答練が開始されます。

模試などではじめて問われる問題もありますので、理論問題集の学習が完了していないと勉強量が増加してしまいます。そのため、上記の学習期間を参考に理論学習の計画をたててください。

次回の受験科目が税法科目の場合は、学習量の関係から9月から講座を受講して学習することをオススメします。自己採点から次のステップを判断するのは難しいと思いますが、本記事が1つの判断材料になれれば幸いです。

さいごに

本試験の受験、本当にお疲れ様でした。

自己採点をしてボーダーラインの方は過去の自分を褒めてあげてください。次の受験科目を受験される方は、今回の本試験で活用した学習計画を活かして、さらにステップアップをしましょう!

ボーダーライン以下の方も、合格発表まで結果はわかりません。上記の講評はあくまで参考資料ですので一喜一憂せず、過去の自分を振り返り、学習過程の反省点があれば改善策を練りましょう。

私が簿記論に合格した時は、本試験で余裕がなく自己採点をするための資料を作成できませんでした。本試験中は基本的な論点が出題されたら確実に正答するように心掛けて解答を作成しました。後で振り返ると、その姿勢が良い結果をもたらしてくれたのかなと思います。

また、家庭、仕事、学業と両立しながらの受験勉強は大変だったと思います。また、猛暑も続いていますので体調を崩されないようにご自愛ください。

勉強で遊びの誘いも断ってきたと思いますので、ご家族、友人とお付き合いをする時間も大切にしながら余暇をお過ごしください。!(^^)!

【執筆者紹介】
渡邉 圭
(わたなべ・けい)

千葉商科大学准教授。基盤教育機構・瑞穂会に所属。
2022年3月、千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了、学位取得(政策博士)。
瑞穂会では千葉商科大学学生を対象にした日商簿記検定3級から1級講座、税理士試験講座の運営および学生指導に従事し、2024年6月現在卒業生も含めて、日商簿記検定1級合格者214名(累計)、税理士試験簿記論合格者72名(累計)・財務諸表論合格者45名(累計)の輩出に貢献している。


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