難易度が高めな非定型的取引…経理部員としてどう対応する?


國見 琢(公認会計士)

【編集部より】
経理部の仕事では、普段どおりのルーティン業務だけでなく、専門的な知識が必要となる突発的なレアケースもあり、「調べる力」や「説明する力」も求められます。
では、それらに対応するためにはどのような準備をするとよいでしょうか。自分なりの引き出しを増やすコツとして、参考となる書籍などへのアプローチの仕方などを、公認会計士の國見 琢先生にお聞きしました。ぜひ実践して、さらなるスキルアップにお役立てください!

はじめに

経理業務では、毎決算実施する定型的な業務のみならず、非定型的取引への対応が必要になることがあります。

連結決算業務における非定型的取引への対応の例としては、連結グループ内の新たな商流への対応やM&Aによる連結範囲の変更への対応などが挙げられます。

非定型的取引への対応は難易度が高いことも多い一方で、特にM&Aなどでは情報漏洩防止の観点からなかなか経理部門に情報が回ってこず短期間での対応が求められることもあります。

そこで本稿では、難易度が高めの非定型的取引へ短期間で対応する方法について、連結決算業務を例にご紹介します。

平時の準備

先述のとおり、非定型的取引は難易度が高く、しかも短期間での対応が求められることが想定されることから、いざというときのために平時からしっかりと準備しておくことが肝要です。

書籍の活用

会計基準や監査法人の書籍などを活用して有事に備えることが考えられます。
監査法人の書籍は単なる会計基準等の解説にとどまらず実務に即しているため実務の参考になるものが多いです。

私が連結決算業務で活用している主な書籍は下記のとおりです(すべて中央経済社刊行)。

ケースから引く組織再編の会計実務』(新日本有限責任監査法人 編)
設例でわかる資本連結の会計実務』(新日本有限責任監査法人 編)
そこが知りたい!「のれん」の会計実務』(EY新日本有限責任監査法人 編)
為替換算調整勘定の会計実務〈第2版〉』(新日本有限責任監査法人 編)
こんなときどうする? 連結税効果の実務詳解』(新日本有限責任監査法人 編)
連結手続における未実現利益・取引消去の実務』(新日本有限責任監査法人 編)
持分法の会計実務』(あずさ監査法人 編)
設例でわかる包括利益計算書のつくり方〈第2版〉』(新日本有限責任監査法人 編)
設例でわかるキャッシュ・フロー計算書のつくり方Q&A』(新日本有限責任監査法人 編)
ケース別債務超過の会計実務―個別・連結上の論点と組織再編・繰越欠損金の取扱い』(新日本有限責任監査法人 編)
M&A・組織再編会計で誤りやすいケース35』(EY新日本有限責任監査法人 編)
現場の疑問に答える会計シリーズ/8 Q&A組織再編の会計実務』(EY新日本有限責任監査法人 編)
連結財務諸表の会計実務〈第2版〉』(新日本有限責任監査法人 編)
ケースでわかる売り手からみたM&A・組織再編の会計実務』(EY新日本有限責任監査法人 編)
組織再編会計ハンドブック』(有限責任監査法人トーマツ 編)
決算期変更・期ズレ対応の実務Q&A』(新日本有限責任監査法人 編)

ただ、これらの書籍や会計基準を隅々まで読み込むのは時間の制約から非現実的です。

そこで私は上記書籍や会計基準の適用指針等に収録されている設例の中から毎日1問選んで解くようにしています。

そして、その中で理解不足が明らかになった論点について、会計基準や書籍の本文に戻って確認しています。

こうすることで、その書籍や会計基準等にどんなことが記載されているかを概ね把握することができることに加え、有事の際に短期間で対応するための“切れ味”を効率的に維持・向上させることができます。

雑誌の活用

書籍は会計基準の改正等により陳腐化してしまうことがあります。

そこで、最新の動向を適時に把握するために雑誌の定期購読を活用することが考えられます。

私が定期購読している『旬刊 経理情報』(中央経済社)には、会計基準等の最新の動向に加えて、専門家によるニッチな論点の実務解説なども掲載されており、所有している書籍でカバーできていない穴を埋めるのに有用です。

SNS・ブログの活用

書籍や雑誌で参考になった点や気になった点を備忘録に記録しておくと、有事の際に役立ちます。

私は備忘録をブログ「優游会計」として公開することで、自分だけでなくほかの方にもご利用いただけるようにしています。

また、最近はちょっとした気付きや疑問についてはX(@yuyukaikei)に投稿するようにしています。

Xも備忘録として使えるうえに、フォロワーの方から頂戴するリプライで疑問が解消したり理解がより一層深まったりすることもあるので有用です。

有事の対応

いざ難易度の高い非定型的取引に遭遇した際には、まず備忘録からあたりをつけて対応することが考えられます。

ただし、実際の非定型的取引は当然ながら書籍や適用指針の設例よりはるかに複雑です。

複雑なものをそのままの形で考えても理解が難しく、検討に時間がかかってしまうことも想定されます。

このような場合、複雑な取引を分解・単純化して理解可能な形にしたうえで検討するのが有用です。

私は書籍や適用指針等の設例をもとに自分で単純な数値例を作成し、それに少しずつ条件を追加して実際の取引に近づけていくことで複雑な非定型的取引を理解するようにしています。

このような方法は一見時間がかかってしまうように思われるかもしれませんが、横着して複雑なものを一発で理解しようとするよりも結果として短い時間で済むことも多く、また、小さな理解を積み重ねることで自分の検討結果に自信が持てるようになるのでおすすめです。

また、書籍や適用指針の設例とは異なり、実際の実務で仕訳を起票する際にはシステムにより起票される自動仕訳も考慮に入れる必要があります。

連結会計システムを使用する場合の連結修正仕訳の考え方については、拙稿「【実務で使える!】連結決算実務の思考プロセス(連結修正仕訳編)」(note)をご参考にしていただければ幸いです。

おわりに

難易度の高い非定型的取引に対応するためには、まず、平時にしっかりと準備することが有用です(継続は力なり)。

また、実際に難易度の高い非定型的取引に遭遇した際には、分解・単純化して理解可能な形にすることが有用です(急がば回れ)。

本稿が皆様の今後の経理実務においてお役に立てれば幸甚です。

<執筆者紹介>

國見 琢

公認会計士。監査法人、一般事業会社を経て現在㈱ディーバに在籍。連結決算・開示業務に強みを持つ。趣味は、会計関連の書籍や雑誌を読むこと、連結会計の計算問題を解くこと、IFRS会計基準やアジェンダ決定を英語原文で読むこと、ASBJ・IFRS財団のYouTube動画の視聴、公開草案へのコメント提出など。最近はX、ブログ、noteでの発信にも力を入れている。
・X:@yuyukaikei
・ブログ:優游会計
・note:https://note.com/yuyukaikei


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