【編集部より】
新年度が始まり、生活環境が変わった人も多いのではないでしょうか。中には、キャリアチェンジやスキルアップのために資格試験への挑戦を検討する人もいるかもしれません。
一方で、公認会計士試験受験生も税理士受験生もこの時期は「直前期」。本試験に向けてスパートをかける人も多いでしょう。
そこで、プロ野球選手から公認会計士へのキャリアチェンジという異色の経歴の持ち主である池田駿先生(CPA会計学院講師)に、社会人が資格試験に臨む時のヒントやモチベーションとの向き合い方について伺いました!
公認会計士を目指したきっかけ
―プロ野球選手から公認会計士を目指され、令和5年公認会計士試験で合格。現在はCPA会計学院で租税法講師を務めていらっしゃいますが、まず受験のきっかけを教えてください。
池田先生 プロ野球選手時代に顧問税理士に確定申告の相談をするなかで、税金のしくみに興味をもったのがきっかけです。
野球選手の収入である年俸は、税法上、事業所得となり、経費を差し引くことができます。そこで、「何が経費になるか」を考えることになりますが、例えば、家賃15万円で3つある部屋の一つをトレーニングやデータ解析用の部屋とすれば、3分の1程度を経費に計上できるなど、税金にまつわるいろいろなことを教えてもらいました。
そんな野球選手ならではの話も面白くて、将来は野球選手の納税をサポートする側になりたいと考えました。
―結果として、税理士ではなく公認会計士を目指したのはなぜでしょうか?
池田先生 今は税理士試験の受験資格が変わりましたが、私が受験を考え始めた当時、税理士試験の受験資格を満たしていませんでした。
もし受験資格を取得してから税理士試験に挑むとなると、「合格した時、何歳になってる!?」と思ったのです。
それと同時に、公認会計士のことを知って、要件を満たせば税理士登録もできると聞きました。自分でも調べた結果、公認会計士試験には受験資格がないことがわかったので、「会計士にしよう!」と決意しました。
受験勉強で大変だったこと・面白かったこと
―トレーニングの日々から勉強中心の生活になって、大変だったことは何ですか。
池田先生 「野球をしていたから体力あるんですよね」と受講生からもよく言われますが、正直言って、それとこれとは全く異なります。確かに、体力はある方でしたが、いざ勉強となると1日9時間も10時間も椅子に座っていなければならず、最初は本当に苦痛でした。
ペンを握る習慣もなかったですし、変に力も強いから、強く握りすぎて炎症を起こしたり、指にもすぐペンだこができたりしていました。
野球って基本的にずっと立っている仕事なので本当に正反対で、ギャップがすごく大きかったです。
―勉強用の体力はまた別なのですね。たとえば、動きながら勉強などもされていましたか。
池田先生 そうですね、ランニングマシンで歩きながらテキストを読んだりもしていました。その姿を見た家族に「二宮金次郎みたい」って言われましたけど…(笑)。
―どんな姿だったか目に浮かびますね! 他に精神的な苦しさはありましたか。
池田先生 一般の方から見たら、正直、プロ野球選手ってキラキラした存在ですよね。そういった華やかなイメージから、勉強という日の当たらないところで、誰にも見られずに黙々と取り組む姿にも、ギャップがありました。
しかも、私は仕事も全くせずにずっと勉強だけしていたので、そのキラキラした世界から暗いところへと移ったというギャップと、さらに30歳目前で、仕事もせずに勉強していることに対する後ろめたさや、家族もいたので社会的にもマズイなという状況で苦しかったですね。
―社会人受験生の中には、家族の理解をどう得るかで悩まれる方も多いと聞きます。そのあたりで工夫されたことは何かありますか。
池田先生 もし野球選手を辞めるきっかけが、球団から「来年は契約しない」と戦力外通告で、それから突然、「公認会計士を目指すぞ!」と宣言していたら、家族の理解を得るまでには時間がかかったと思います。
私の場合、比較的早い段階から公認会計士を目指すという考えを持っていて、野球と勉強を両立させていたことと、野球を辞める時も、「公認会計士を目指すので辞めさせてください」と、自ら引退の道を選びました。
自分が真剣に取り組み、自分の覚悟を家族に伝えることが重要で、実際にその姿を見せていたので理解してもらえたのではないかと思います。
―そのようにして家族のサポートも得ながら受験に臨まれたとのことですが、勉強面で面白かったことはありますか。
池田先生 それこそ、租税法では、法人税・所得税・消費税について学びますが、中でも所得税と消費税に関しては現役時代の確定申告の話と勉強内容がつながって、「人生の役に立っているな」と思えて楽しかったです。
―今、まさにその租税法の講師をされていますね!
池田先生 はい、実際に授業でも所得税や消費税に関しては野球の例を挙げながら伝えることもあります。
租税法が苦手な受験生もいますが、嫌いになってしまったら、勉強を続けること自体がキツイと思います。私自身は、監査論が苦手でしたが、好きになることは無理でも、「嫌いという要素をいかに薄めるか」を考えながら勉強を続けてきたので、講師として、少しでも楽しい要素を伝えられればなと思っています。
「直前期」の過ごし方
―8月論文式試験に向けて、いよいよ直前期です。追い込みをかける人も増える時期だと思いますが、池田先生はどういったことを実践されていますか。
池田先生 皆さんよく、「直前期だから追い込む」といいますが、私はそうではなく、普段からしっかりと取り組んでいれば追い込む必要はないと考えていました。
スケジュールについても、「週6で勉強して1日休むのがよい」と聞いていましたが、私は基本的に休みを取らず、ずっと同じペースで取り組んでいました。
野球選手って、例えば試合のシーズン直前だからといって練習をめちゃくちゃ追い込んで、今までと違うことをするか、といったら全然そんなことはありません。
ずっとやってきたことを続けて、そのままシーズンに入っていくからこそ、結果が出るものだと思っています。
だから、「直前だから」ということはあまり意識していなかったですし、それまでと変わったこともしていませんでした。
―カリキュラムが進むにつれて難易度も上がっていくと思いますが、それについていくという感覚でしょうか。
池田先生 そうですね。授業の回数も、答練の回数も多いので、わからないなりにもまずはしっかりとカリキュラムについていくことが重要です。ついていくことで初めて合格のチャンスが見えてくると考えています。
一度でも遅れるとそれに慣れてしまって、次のテストが迫っても、「まだ復習が追いついていないから、やらなくてもいいや」と思ってしまうかもしれません。でも、それは本試験も同じで、復習が追いついていないからといって、受験しないということはありません。
極論を言えば、試験範囲が広すぎるので、復習が完全に追いつくことは基本的に不可能です。
誰にだって「ここが試験で出たら嫌だ」と思う論点はあるでしょうし、それらを抱えながらも、自分が理解している部分で戦っていく試験だと捉えています。
ですから、とにかく「ついていくこと」を最優先に考えていました。
―すると、スケジュールはどのように組まれていたのでしょうか?
池田先生 特にスケジュールも組んでいませんでした。実は一時期、1週間のスケジュールを立ててみたのですが、私の場合、予定をキツキツに組みがちで、なかなか予定通りに進まなかったんです。
それが嫌で、私はスケジュールを組まずに、朝起きてから、「今日はここからここまで」とその日のペースで決めて、目の前のことだけをやるというようにしました。
もちろん、感覚的に好きな科目だけ勉強するわけではありません。カリキュラムから逆算して、その日ごとに決めて勉強していました。
「緊張」との向き合い方
―試験が迫ってくると、やはり緊張しましたか。
池田先生 試験1週間前だからと言っても、やること自体は変えていませんが、確かに、緊張はします。
プロ野球は1年に約140試合あり、もし1試合で失敗しても次があります。でも、公認会計士試験は違います。短答式試験は年2回、論文式試験は年1回という、ほぼ一発勝負といえる状況で、本当に緊張しました。
「失敗したらどうしよう…」など、いろいろなことが頭をよぎりますが、そもそも、緊張できるということは、それだけ真剣に取り組んできた証拠です。
もし全く勉強もせずに試験に臨んだとしたら、さほど緊張はしないでしょう。だから、緊張できている自分に対して自信を持って本試験に臨みました。
―そういった緊張との向き合い方など、スポーツ選手はメンタルコントロールもトレーニングされていると思いますが、役に立った考え方などはありますか。
池田先生 受講生にも、「野球選手は精神力が強いから受験勉強中もずっとモチベーションも高かったのですか」とよく聞かれるんです。
でも、そもそも野球選手って野球が仕事の人に過ぎません。学生だって、会社員だって、朝起きて「さぁ、学校だ‼」、「今日も仕事頑張ろう‼」とモチベーションを上げて出発する人はあまりいませんよね。
それと同じなのです。結局、モチベーションがあるわけではなく、ただ仕事をこなすという感覚です。
勉強に対してもモチベーションは関係なくて、さらに言えば、モチベーションなんて当てにするものではないです。
―なるほど! そういう捉え方をすると長く続けられそうですね。
それでは最後に、受験生へ応援メッセージをお願いします。
池田先生 公認会計士試験は三大国家資格の1つとして位置づけられているように、確かに難しいものです。しかし、天才しか合格できないのかといったら、絶対にそんなことはありません。
では、どういう人が合格できるかというと、「毎日コツコツと取り組んできた人」がはじめて合格する権利を得られると思っています。
コツコツと地道に努力することが、合格するための最短ルートなんです。
<お話をお聞きした人>
池田 駿(いけだ・しゅん)
1992年新潟県生まれ。新潟明訓高校にて甲子園出場。専修大学からヤマハ社会人野球へ。
2016年に読売ジャイアンツからドラフト4位指名。2017年からプロ野球選手として読売ジャイアンツ、楽天イーグルスにて活躍、2021年任意引退。
2023年公認会計士試験合格、現在は受講したCPA会計学院の講師として活躍中。