税理士試験(簿・財) 合格を勝ちとる“最初の5分”の使い方


藤原 靖也
(和歌山大学経済学部准教授)

【編集部から】
 皆さんは、試験開始直後の最初の5分、何をしますか? 

 少しでも試験に時間をかけるために、また覚えてきたことを忘れないうちに、ペンを取ってすぐに問題を解きはじめる方が多いのではないでしょうか。

 日商簿記1級、税理士試験簿記論・財務諸表論、公認会計士試験に合格され、現在は研究活動を行いながら、ご自身の経験を活かして受験指導にも力を入れられている藤原 靖也先生は、「最初の5分が試験合格のカギ」と、常日頃から指導されているそうです。

 最初の5分をどう使えば合格に近づくのか? 今回は、税理士試験の簿記論・財務諸表論について、藤原先生の実体験に基づいてアドバイスをいただきました。


 「最初の5分間」。私は、ここが合格のために非常に重要だと思っています。

 何をいきなり、と思われた方もいらっしゃるかもしれません。そんなことを考えずスムーズに合格できるなら、それに越したことはないと私も思います。しかし税理士試験はそんなに甘くない、私が受験したときの実感です。

 私は2回、税理士試験の簿記論・財務諸表論を受験しています。1回目はモヤモヤを感じたまま終わりました。一方で2回目は「これはいけた!」という確かな感覚がありました。結果は2回目で簿・財どちらも合格。

 振り返ると知識量には差はなかったと思います。しかし、「最初の5分間」の使い方には大きな違いがありました。私が「最初の5分間」にこだわるのは、このことを強く覚えているからです。

本試験で現れる「最大の敵」

 本試験は、皆さんに普段通りの手順ではなかなか解かせてくれません。その原因となる「最大の敵」は、試験問題そのものではなく、本試験でしか現れない独特の空気です。

 試験開始直前・直後の試験会場は特殊な場です。思った以上に重い空気に包まれます。今から120分間、どんな戦いが待ち受けているのかもわかりません。いくら「毎日が本番だと思って問題を解いてきた」としても、その空気に慣れるのは無理があります。

 とりわけ本試験の場では「不安」「緊張」「焦り」といった感情を消すことはできません。しかし、その感情をすべて受け入れて自分の世界に没入できないと、普段の手順で問題を解くことはできないのです。・・・私が「最初」にこだわる理由はここにあります。

 本試験ではまず、自分の不安や緊張、周りの雰囲気をすべて受け入れ、できるだけ平常心に近づくことが何よりも重要です。

最初の5分の使い方(1):冷静になるためのルーティンをこなす

 平常心になるためにも、あらかじめ「冷静になるための方法」を決めておくことをお勧めします。試験が始まったら、まずそれを実行しましょう。本試験の独特の空気感は、それくらい強敵です。

 ふーっと深呼吸したり、いつもの3倍くらいの時間をかけてゆっくり受験地・受験番号を記入するのもよいでしょう。

 私の場合は、いつも試験開始後1分程度、目をつぶっていました。「緊張している」「不安になっている」「焦っている」という気持ちをすべて受け入れ、心を落ち着かせるためです。落ち着いたら目を開け、周りを冷静に俯瞰できているか確認し、ゆっくりと問題用紙を開きました。

 1回目と2回目は、ここが決定的に違っていました。前のめりになって、すぐ問題に向かってしまった1回目とは違い、冷静になることが何よりも大事だと実感したのです。

 冷静になることができていない状況では、たいしたことはない問題でも異様に難しく感じたり、量が多く感じたりします。そういった状況では、まだ問題用紙・答案用紙に手を出してはいけないのです。

最初の5分の使い方(2):すぐに「読む」より、すぐに「書く」

 次にするべきこととして、問題文を「読む」より先に、問題用紙に「書く」ことをお勧めします。何を書くのかというと、大問ごとの制限時間の目安です。これは、普段通りの解答手順を崩さないためです。“仮に”でよいので、大問にかける時間を決めてしまいましょう。

 実際に私が合格した第57回本試験(簿記論)での書き込みです。「9:04~9:34」と、第一問にかける時間を書いているのがわかると思います。

 たとえば私は、簿記論なら前半(第二問まで)を60分弱、後半(第3問)を必ず60分で解くと決めていました。一方で財務諸表論は、理論を40分弱で終え、計算に必ず80分を割くと決めていました。

 それを可視化することで、1回目は曖昧だった全体のペース配分が、2回目では最後までブレることなく、より冷静になることができました。

 普段通り、いつも通りの解答手順を冷静に貫く仕組みを作りましょう。なお、大問の中での問題の取捨選択・時間配分は、大問ごとか前半―後半ごとに決めるとよいでしょう。

▼こちらの記事もご覧ください。
【税理士試験】簿・財合格の2大スキル! 「取捨選択」と「時間配分」をどう身につける?

最初の5分の使い方(3):問題用紙と答案用紙を軽くチェックする

 (1)(2)を経たうえで、問題用紙と答案用紙を見てください。問題用紙は、リード文と設問をパラパラと見る程度で大丈夫です。だいたいのテーマを把握しましょう。

 答案用紙は、数値が印字されている可能性もあり、解答量もパッと見てわかります。そのため、答案用紙は解答戦略を考えながら見るべきです。たとえば、第70回簿記論の問題用紙・答案用紙の一部を見てみましょう。

 問題用紙です。パッと見ただけで、商品売買を中心とした勘定連絡の問題だ、ということがわかると思います。

 次に答案用紙です。穴埋め問題ですが、解答するのが23カ所と多いです。部分点を拾うだけ拾って次に移るのが有効なタイプの問題だ、と判断しましょう。

なぜ「5分」なのか?

 とはいえ、税理士試験は時間との勝負です。気持ちを落ち着かせることが重要といっても、時間をかけすぎると逆に時間がなくなります。そうすると、結局は焦りが増してしまいます。

 まず、税理士試験の試験時間を逆算してみましょう。解答には、やはり110分以上はほしいです。そして、大問ごとの取捨選択・時間配分を行うためには、全問合わせて5分は必要だと思います。最初に心を落ち着けて問題用紙や答案用紙を軽くチェックするためにとれる時間は5分が限界です。

 ただ、本番に強い人は、たった5分でも心を落ち着かせる術を知っているはずです。それが身につけば、合格は限りなく近づきますよ。

今こそ「自分なりの知識の使い方」を身につける

 いつもの解答手順で普段通りにやる。この“ごく当たり前のこと”を行うのは、本試験では難しいです。私は簿記論・財務諸表論に不合格だった年、自らの解答手順を自ら崩しました。

 普段通りの解答手順をその場でいきなり変えたことで、テンポがうまくつかめず焦り、その結果、モヤモヤした感覚のまま試験を終えることになりました。

絶対に普段通りの解答手順を崩してはいけません。

 そのために今、アウトプットをしているのだと思います。アウトプットの本質は、点数が取れるかを確かめるだけではなく、「自分なりの知識の使い方」を身につけることにあると考えています。本試験でも実力をいかんなく発揮して合格をつかめるよう、自分なりの方法を確立させてください。

【執筆者紹介】
藤原 靖也(ふじわら・のぶや)
和歌山大学経済学部准教授、博士(経営学)。日商簿記検定試験1級、税理士試験簿記論・財務諸表論、公認会計士試験論文式試験に合格。神戸大学大学院経営学研究科博士課程後期課程修了後、尾道市立大学経済情報学部講師を経て現職。教育・研究活動を行いつつ、受験経験を活かした資格取得に関する指導にも力を入れている。


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