【連載・第5回】大野修平先生に聞く! 会計事務所におけるChatGPT「超」活用術~実際にどのようなスキルが求められるのか


大野修平(公認会計士・税理士)

【編集部より】
ChatGPTの登場以来、ビジネス誌などでも頻繁に特集が組まれ、仕事への活かし方や注意点、課題などが取り上げられるようになるにつれ、得体の知れない未知のものではなくなってきているのではないでしょうか。その一方で、やはりまだどことなく活用しきれず、距離を感じたままということもあるでしょう。特に、新しい技術ゆえにアップデートも早く、追いつくことさえ難しい面もあります。
そこで、本連載では、税理士・会計士・会計事務所でどのようにChatGPTを活用すればよいかについて、ChatGPTに関する情報発信も多くされている大野修平先生(公認会計士・税理士)にご紹介いただきます!(毎月1回掲載予定)

みなさんこんにちは。セブンセンス税理士法人で公認会計士・税理士をしております、大野修平です。「会計事務所におけるChatGPT「超」活用術」第5回目の連載です。

前回の記事では、生成AIの登場により奪われる仕事がある一方、生成AIにより新しく生まれる仕事があるというお話をしました。
そして、新しく生まれる仕事は生成AIなどの最新のテクノロジーを前提とした仕事であり、我々はそのテクノロジーを活用するスキルを向上させなければならないということもお伝えしました。

さて、今回は前回までの話を前提として、「実際にどのようなスキルが求められるのか」というお話をしていきたいと思います。

生成AIと協働するために

生成AIの時代に求められるスキルについて理解するためには、その前にテクノロジーに対する向き合い方について、「マインドセットを変える必要がある」と思っています。

というのも、生成AIというのはこれまで我々が接してきたテクノロジーと大きく仕組みが異なります。

これまで我々が接してきたテクノロジー、例えばエクセルやVBA、さらにはRPA、クラウド会計などは、ユーザーがインプットしたデータについて、あらかじめ決められた処理をして、その結果をアウトプットとして返してきます。

あらかじめ決められた処理をするため、そのアウトプットは安定していて、ユーザーはかなりの確度でアウトプットの内容を予想することができます。

例えば、エクセルのセルに「=sum(A1:A5)」という関数が設定されていれば、「このセルでは、セルA1からA5にインプットされているデータを合計した数値がアウトプットされる」ということが予測できると思います。それ以外のアウトプットを想定する必要がありません。

同様に、VBAやRPA等についても、どのような処理がされてどのような成果物がアウトプットされるかについて、ユーザーはかなりの確信を持って予測することが可能でしょう。クラウド会計についても、エクセルほどではないかもしれませんが、それでも「このレシートを読み取ると、何らかの勘定科目が選定されて、取引日と金額とともに会計帳簿に記載される」ということは予測できると思います。

生成AIのランダムさ

これに比べて、生成AIはアウトプットを予測しにくいです。というのも、生成AI、特にChatGPTのようなLLM(大規模言語モデル)では、ある単語について、次に来る可能性のある単語群から次に来る可能性が高いものを選択するということを繰り返して、アウトプットである文章を作成するからです。

例えば、最初に「海は」という単語が提示されたのであれば、その後に続く可能性のある単語、例えば「広い」や「青い」や「美しい」や「危険」や「生命」などの候補となる単語群が挙げられ、その中からそれまでの文脈や一般的な言語の使用パターンにより、1つの単語が選択されます。

仮に、今回は「青い」という単語が選ばれたとしましょう。そうすると、それ(つまり「海は青い」)に続く可能性のある単語郡がまた列挙され、その中から1つが選択され、さらにそれに続く単語が列挙され……というように、可能性の高い単語の選定が繰り返され、文章が作られます。

こうした単語の選択は確率的に行われるため、その結果アウトプットされる文章は以下のように様々なパターンが考えられます。

「海は青いと言われていますが、実際には水自体に色はなく、太陽の光が反射して見える色です。」

「海は青いが、汚染や環境の変化によってその色が変わることもあります。」

「海は青い空とともに、美しい景色を作り出しています。」

「海は青いけれども、嵐が来るとその色は暗く変わります。」

「海は青い水平線が広がっていて、その広大さには圧倒されます。」

「海は」というインプットから、様々なアウトプットが生み出されていることがわかると思います。そして、これらのアウトプットはエクセルやVBA、クラウド会計などに比べて予測不可能なほどに多様だということです。

生成AIの柔軟さ

その一方、エクセルやVBA、クラウド会計などに比べて、生成AIが受け入れることのできるインプットは幅広いです。エクセルのように数値や文字でなくても処理できますし、VBAのように形式を整える必要はありません。クラウド会計のように会計データしか受け入れないということもありません。

雑多なインプットを柔軟に受け入れ、それを確率論的に処理して、ランダムにアウトプットを行うのが生成AIなのです。

こうした生成AIの柔軟さやランダムさを理解していないと、生成AIを間違って使ってしまったり、「生成AIは使えない」といった認識から利用を控えてしまったりして、ますます取り残されてしまうということになってしまいます。

生成AIの柔軟さやランダムさは最初は慣れないかもしれませんが、コンピュータではなく人間を相手にしていると思えば、もう少しとっつきやすいと思います。部下に仕事を依頼するときのような感覚で生成AIに接することで、うまく役割分担することができると思います。

具体的な役割分担の方法は次項で説明しますが、まずはこれまでのテクノロジーとは違った接し方、マインドチェンジが必要だということを覚えておいてください。

生成AIとどの様に役割分担すべきか

これまでの仕事は、その大部分に人間が関わり、時間をかけて少しずつ進捗させて行くのが通常でした。

生成AIの登場によって仕事の進め方にも大きな変化が訪れています。生成AIとの役割分担を視覚的に示したのが次の図です。

縦軸が仕事の進捗度、横軸が仕事に要する時間です。

仕事を遂行するには一定の時間が必要ですので、基本的に仕事というものは左下から右上に進んでいきます。

 図を見ていただくと仕事の流れの中ほどに緑の矢印があると思います。ここが生成AIに任せられる部分です。それ以外の青い矢印の部分が人間が担当すべき部分です。

つまりこの図は、仕事の最初(上流)と最後(下流)を主に人間が担当し、中流は主に生成AIが担当するという役割分担を示しています。

仕事の上流が得意な人間

順を追って説明しましょう。

仕事における最初のステップは、課題を発見・設定することでしょう。もちろん生成AIもそうした役割を担うことはできますが、現状では人間の方が得意です。

課題を発見・設定したらそれを解決していくのが仕事ですが、それは生成AIの方が得意な可能性があります。少なくとも彼らのほうが効率的に低コストで行うことができます。

しかし、前項でも述べた通り、生成AIのアウトプットはランダムで大きなゆらぎがあります。そのままでは思っていたような成果物を得ることができません。そのために必要になってくるのがプロンプト(指示・命令)です。

望ましいアウトプットとなるように、生成AIのゆらぎを制御できるプロンプトが良いプロンプトといえます。

プロンプトにおいては、生成AIがアウトプットを生成するのに使ってほしい素材やフレームワークなどを提供することもあります。本連載第3回で紹介した「びじねすもでるんβ」というGPTsにおいて、私が「SWOT分析せよ」と命令していたのものなどがそれにあたります。

フレームワークなどを指定することで、生成AIのアウトプットのゆらぎを抑え、予測可能性を高めていきます。

仕事の中流が得意な生成AI

なお、その際にSWOT分析とは何か、どうやって使うべきかを教える必要はありません。生成AIはすでにそれを学習しています。ここが人間のスタッフに指示を与えるケースとの大きな違いです。

通常、我々人間がSWOT分析における外部環境分析や内部環境分析、さらにはそれらをかけ合わせたクロス分析を高い水準で遂行するためには、適切な指導のもと数年間は経験を積む必要があると思います。

一方、生成AIにおいては、SWOT分析が何かや、どのように活用すべきかについては学習済みのため、フレームワークを指示しさえすれば、SWOT分析でも4P分析でも3C分析でもさせることができます。つまり仕事の中流においては、多くの部分を生成AIに任せることができるということです。

そのために人間に必要なのは、そうしたフレームワークを知っていることと、そうしたフレームワークを生成AIが使った場合、どのようなアウトプットが出てくるかを感覚的に予測できる力です。それは常日頃から生成AIに接していて、彼らの得意なこと苦手なことを理解して、挙動を予測できたり、拡張機能やプラグインがどのように生成AIに作用するかの知識があることが前提となります。

仕事の下流は人間が仕上げる

このようにして生成AIに成果物を生成させたとしても、彼らは必ずしも完璧なものを提示するとは限りません。

生成AIの成果物を完成に近づけることは、我々人間の重要な役割です。

また、現実世界において最終的な解が1つに限定されるということはそうそうありません。多くの場合、数ある選択肢の中から、組織理念やこれまでの背景・文脈などと照らし合わせて1つの解を選び取ります。

そのための取捨選択をすることも人間の役割でしょうし、最終的にはこうした説明責任や品質に対する責任は人間しか取れないとも言えると思います。

まとめ

さて、今回は生成AIと協同するためのマインドセットから、具体的にどのように役割分担をしていけば良いのかについて、私なりの考えを述べてみました。

もちろん、これが唯一の正解ではないと思いますし、生成AIの発展によって変わってくることもあると思いますが、一つの指標として参考にしていただければと思います。

さて、いよいよ次回は本連載の最終回です。是非最後までお付き合いください!

<執筆者紹介>

大野修平(おおの・しゅうへい)

公認会計士・税理士
セブンセンス税理士法人 ディレクター
大学卒業後、有限責任監査法人トーマツへ入所。金融インダストリーグループにて、主に銀行、証券、保険会社の監査に従事。トーマツ退所後は、資金調達支援、資本政策策定支援、補助金申請支援などで多数の支援経験がある。また、スタートアップ企業の育成・支援にも力を入れており、各種アクセラレーションプログラムでのメンタリングや講義、ピッチイベントでの審査員および協賛などにも精力的に関わっている。
・Xアカウント(@Shuhei_Ohno

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連載「大野修平先生に聞く! 会計事務所におけるChatGPT「超」活用術」バックナンバー

第1回:検索ではなく、やりとりしよう
第2回:パーソナライズした文章の作成
第3回:さらに進化した「GPTs」で何ができる?
第4回:テクノロジーへの向き合い方についてマインドセットを変える
第5回:実際にどのようなスキルが求められるのか
最終回:組織としてどのように取り入れていけばよいか


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