大野修平(公認会計士・税理士)
【編集部より】
ChatGPTの登場以来、ビジネス誌などでも頻繁に特集が組まれ、仕事への活かし方や注意点、課題などが取り上げられるようになるにつれ、得体の知れない未知のものではなくなってきているのではないでしょうか。その一方で、やはりまだどことなく活用しきれず、距離を感じたままということもあるでしょう。特に、新しい技術ゆえにアップデートも早く、追いつくことさえ難しい面もあります。
そこで、本連載では、税理士・会計士・会計事務所でどのようにChatGPTを活用すればよいかについて、ChatGPTに関する情報発信も多くされている大野修平先生(公認会計士・税理士)にご紹介いただきます!(毎月1回掲載予定)
みなさんこんにちは。セブンセンス税理士法人の大野修平です。
会計事務所におけるChatGPTの活用術を紹介する本連載、前回はChatGPT活用の初歩ともいえる「文章作成」についてお話しました。
第3回の本日は、少しだけ発展させて「文章の要約」などの活用方法を説明しようと思っていたのですが、この間に大きなニュースが入ってきました。
というのも、先日(2023年11月7日未明)、OpenAI社のDevDay(開発者向けのカンファレンス)が開催され、GPTに様々なアップデートが行われたことが明らかになりました。
会計事務所での活用を考える上でも、最新の情報をキャッチアップすることは不可欠だと思いますので、本稿ではGPTにどんなアップデートがあったのかを整理し、さらに今回のアップデートの目玉である「GPTs」でどんなことができるようになったのかを紹介したいと思います。
DevDayで明らかになった、GPTのアップデート
DevDayではGPTの様々なアップデートが発表されました。まずお伝えしたいのが、「GPT-4が2023年4月までの知識を持つようになった」ことです。
これにより、つい数ヵ月前のことまで学習済みになり、知識が増えたということですから、GPTの重要性がますます高まったと言えるでしょう。
さらに、これまで単独でしか利用できなかったブラウジング機能、データ分析機能、画像生成機能、プラグイン機能が、同一のチャット内で使えるようになりました。これにより、巨大なCSVデータを分析させた後、その結果をインターネットで検索して得た情報で肉付けするなどの使用方法が可能になり、ChatGPTの自由度が大きく高まりました。
その他、扱えるトークン数が増えたり、ひとつのプロンプトで複数のアクションを行えるようになったり、出力を細かくコントロールできるようになったり等、様々な開発者向けのアップデートがありましたが、こちらは一般ユーザーには少し縁遠い話かもしれません。
大注目のアップデート「GPTs」
そして、何と言っても今回の目玉は、特定の課題解決に特化したChatGPTをユーザーが自ら制作することができる「GPTs」という機能です。GPTsの制作自体も自然言語で行うことが可能ですので、非エンジニアでもGPTを使った開発ができるということです。
私も早速「びじねすもでるんβ」という、ビジネスモデルの構築をサポートしてくれるGPTsを作成してみました。
PEST分析やSWOT分析といった分析手法を活用して戦略を立案し、さらにAIDMAやAISASなどのフレームワークを利用してマーケティングまで提案してくれるGPTsです。
以下のリンクから、皆さんにも試していただけますので、GPT Plusにアップグレードしている方はぜひ触ってみてください。
実際のやりとりを御覧いただきましょう。
最初に私(「You」と表示されています)が、「スポーツショップ」と入力しています。
これは、ビジネスモデルを作りたい業種や業態を入力しているということです。もちろんスポーツショップ以外でも構いません。製造業でもラーメン店でも税理士業でも、GPTはすべての業種について学習をしています。
業種や業態が入力されると、GPTはすぐさまその業界の外部環境分析を行います。PEST分析という外部環境の分析フレームワークにより、政治(P)、経済(E)、社会(S)、技術(T)の4つの観点から外部環境の動向を推測し、それを機会と脅威に分類します。
外部環境の分析が終わると、GPTがそれに対応した戦略を提案します。
ここではSWOT分析を応用して「機会を活かす戦略」と「脅威を回避する戦略」を6つ提案してくれています。
私はその中から一つ、実行したい戦略を選びGPTに伝えています(「You」が「3」と回答している部分です)。今回は「健康志向とフィットネストレンドに合わせた商品の拡充」戦略を選択してみました。
戦略が選択されると、GPTはその戦略における商品やサービスのラインナップを考えてくれます。そしてそれらラインナップのターゲットとニーズを洗い出し、各ターゲットについて詳細なペルソナを設定して、戦略をより具体化していきます。
設定されたペルソナから、ターゲットの行動様式を推定し、それにフィットしたマーケティング戦略をAIDMA、AISAS、SIPSといったフレームワークを用いて策定します。
その後、各商品・サービスのマネタイズ方法と価格を設定してくれます。
最後に、これらのやり取りを表にまとめてくれて「さあ、新しいビジネスを始めましょう。そう、GPTと一緒に。」と締めくくってくれます。
GPTsの衝撃
いかがだったでしょうか?このGPTsは僕がビジネスモデルを構築するという特定の目的のためにカスタムしたGPTです。制作時間は1時間ほどでしょうか。
ユーザー(You)が行ったことは「スポーツショップ」と業種・業態を指定することと、GPTが提案した戦略の中から「3」と選んだだけです。たったこれだけで、瞬時に商品・サービスのラインナップやターゲット、ペルソナを提案し、マーケティング戦略やマネタイズ方法、価格帯までGPTが自動で策定しています。
こういうカスタマイズされたGPTが1時間程度で作成できてしまうようになったのです。
まとめ
OpenAI社のDevDayにより、GPTが大幅にアップデートされたため、当初の予定を外れて、最新の情報を皆さんに紹介いたしました。GPTの進化は我々の予測を遥かに上回り、数ヵ月間の連載ですら予定通りにはいきません。
私が作成した「びじねすもでるんβ」のようなGPTsが、現在世界中のユーザーによって作成され、利用されています。
この事実に恐怖を感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、私は税理士、公認会計士のような専門家こそGPTを最も活用できる存在だと思っています。
私が「びじねすもでるんβ」に使用するように指示したPEST分析やAIDMAなどのフレームワークを、専門家である皆さんは多くご存知だと思います。そして、「びじねすもでるんβ」が提案したビジネスモデルを適切に評価し、さらにブラッシュアップできるのも専門家である皆さんだと思っています。
つまりGPTとの分業体制で、業務効率を上げ、付加価値を高められるのが専門家の強みでもあるわけです。
今回は紙幅が尽きてしまいましたが、せっかく予定を外れてGPTsを紹介しましたので、次回以降も予定を外れて、生成AI時代の働き方についてより深く考察し、会計事務所のChatGPT活用の応用編をご紹介していきたいと思います。
<執筆者紹介>
大野修平(おおの・しゅうへい)
公認会計士・税理士
セブンセンス税理士法人 ディレクター 大学卒業後、有限責任監査法人トーマツへ入所。金融インダストリーグループにて、主に銀行、証券、保険会社の監査に従事。
トーマツ退所後は、資金調達支援、資本政策策定支援、補助金申請支援などで多数の支援経験を持つ。
また、スタートアップ企業の育成・支援にも力をいれており、各種アクセラレーションプログラムでのメンタリングや講義、ピッチイベントでの審査員および協賛などにも精力的に関わっている。
さらに、セブンセンス税理士法人が運営する『セブンセンスビズマガジン(https://consulting.seventh-sense.co.jp)』では、ビジネスに関する様々な情報を発信し、中小企業やスタートアップのお悩み解決にも力を入れている。
<こちらもオススメ>
連載「大野修平先生に聞く! 会計事務所におけるChatGPT「超」活用術」バックナンバー
第1回:検索ではなく、やりとりしよう
第2回:パーソナライズした文章の作成
第3回:さらに進化した「GPTs」で何ができる?
第4回:テクノロジーへの向き合い方についてマインドセットを変える
第5回:実際にどのようなスキルが求められるのか
最終回:組織としてどのように取り入れていけばよいか