梨井 俊(税理士)
【編集部より】
さる11月30日(木)、令和5年度税理士試験の合格発表が行われました。合格発表をうけて、受験戦略を再検討する人、同じ科目の受験に再挑戦する人などさまざまだと思います。
来年の本試験まで、どのように学習計画を立てればよいかなどについて、主要科目ごとにアドバイスを頂きます。本記事を参考に、合格に向けてよりよいスタートを切りましょう!
第73回(令和5年度)の合格発表をうけての所感
令和5年度税理士試験「相続税法」の合格率は11.6%でした。2,428人が受験し、282人の合格です。前年度が今までにないくらい良かった合格率(14.2%)で、2,370人が受験して336人の合格でした。
今年度は前年度より受験者数は増えましたが合格者数は少なくなってしまい、例年並みに戻ったという印象です。とりわけ今回に関しては、すべての科目の中で相続税法が合格率の最も低い科目となったのは残念なニュースです。
そんな今回の相続税法ですが、合格発表日に官報を確認したところ、面識のある受験生の名前が何名か載っており、また、科目合格した受講生も発表直後の講義で報告に来てくれました。
受験直前までの学習進度や状況についても把握していたので、彼・彼女らの合格については「驚きをもった喜び」というより、解答した部分にきちんと点数をもらって合格できたのだろうという「安心感」に近いものでした。
当たり前ですが、「直前まで周りに負けない学習量と集中力をしっかり確保・維持して、本番に100%もしくはそれに近い実力を発揮すること」が大切だということの再確認にもなりました。
次回の受験に向けたアドバイス(「出題のポイント」も踏まえて)
まず国税庁ホームページの「令和5年度(第73回)税理士試験出題のポイント」を確認していきましょう。「相続税法」の出題のポイントから一部引用します。
【第一問】
問一(理論)
小規模宅地等の相続税の課税価格の計算の特例(租税特別措置法第69条の4)は、(中略)この特例は利用が多く、また、宅地等の用途及び取得者等によって適用要件が異なっていることから、実務上、その適用に際して、これらの所要の要件を正確に理解した上で、適用の可否を適切に判断すべき場面が多くなっている。
問二(理論)
相続税又は贈与税の納税義務者は個人を原則とするが、(中略)本問題は、持分の定めのない法人を利用した租税回避を防ぐために設けられている当該法人に対する課税の規定(相法66)及び近年の税制改正により創設された特定の一般社団法人等に対する課税の規定(相法66の2)について、理解しておくべき基本的事項を問うものである。
【第二問】(計算)
相続税の全体像を理解するためには、民法の相続人、法定相続人の判定や遺言、分割協議に始まり、個別の財産評価、課税価格計算、税額計算に至るまで、相続税法や租税特別措置法に留まらない横断的な理解が必須である。税理士としての実務における財産評価では、複数の論点が絡み合う複雑な評価があり、適切にその判断を行うためには、個別の財産評価についての基礎を確実に把握することにある。
消費税法や法人税法では以前からこのような「改正」「実務」をキーワードとした出題のポイントが多かったですが、相続税法においても最近ではこの「改正」「実務」といった表現が目に留まるようになりました。「改正」は以前から強調されていますが、「実務」についてはっきりと強調されたのはほんとうに最近になってからです。
では、「出題のポイント」をふまえて、今後の学習をどのようにすればよいでしょうか。私自身の学習経験と講師として多くの受講生とコミュニケーションをとる中で感じることを踏まえて、私なりのアドバイスをします。
はじめに、「勉強の時間をしっかりとる」ことが何よりも大切です。仕事や家庭など勉強できない理由は様々ありますが、本気で時間を作って教科書や電卓と向き合う時間を作ってください。年内はまだやる気のエンジンが暖まりきっていない時期かもしれませんが、そろそろ回転数を上げていかなければいけない時期です。
次に、「相対試験であることを改めて意識」してください。おおむね予備校の平均点の10点上が上位の30%で、合格レベルの目安です。「理論・計算それぞれ5点ずつ平均点よりもとれるために何が必要だったのか」を意識し、日々の演習回の復習をしていってください。第75回(令和5年度)のような難しい問題こそ「できる・できない」の枕詞を「目の前の問題が」ではなく「周りの受験生よりも」として割り切る必要があります。
そして、試験に対しては上記のようにドライで割り切っていても、「受験科目の背景や実態に興味関心をもつ」ことがとても大切です。本試験に対応できるだけのレベルの向上には、制度の趣旨や背景を正しく理解することが肝要です。
学習が進むと、「結論を自分の言葉で説明できる」だけでなく、「その説明の理由(根拠)を提示できる」ことが重要となります。そして、「理由(根拠)を提示しながら自分の言葉で結論を説明する」ことが本試験の理論の模範解答の一つとなります。
そして、この「自分の言葉で結論を説明する」力は意識しないとなかなか身につかないものです。出題範囲が明示されている予備校の演習では、テキスト暗記の延長でも、ある程度の点数がとれてしまうので、そこで終わらない・もっと詳しく知りたいと思うだけの興味や関心が、より合格を確実なものにしてくれると思います。
…と、偉そうに語っていますが、私も何回も不合格の通知をもらっています。絶対的な理解力と得点力を兼ね備えていないため、それをカバーするために、「相対試験」としてなんとか合格ラインを超えられるように考えて結果を出してきた経験から導いたアドバイスです。
この記事が一人でも多くの受験生にとって、よい刺激となれば幸いです。引き続き応援しています!
〈執筆者紹介〉
梨井 俊(なしい・しゅん)
税理士
大手専門学校で相続税法の講師を務めるかたわら、月次顧問を主な業務とする開業税理士。大学受験の学習塾で英語講師を8年間務めた経験から、学習法や覚える仕組みを資格試験の勉強にもあてはめ、活用法や座学と実務の違いなど、積極的に情報発信も行っている。
【書籍紹介】
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