税理士試験【消費税法】合格発表をうけて今後の学習アドバイス


加藤久也(税理士/名城大学大学院非常勤講師)

【編集部より】
さる11月30日(木)、令和5年度税理士試験の合格発表が行われました。合格発表をうけて、受験戦略を再検討する人、同じ科目の受験に再挑戦する人などさまざまだと思います。
来年の本試験まで、どのように学習計画を立てればよいかなどについて、主要科目ごとにアドバイスを頂きます。本記事を参考に、合格に向けてよりよいスタートを切りましょう!

令和5年度税理士試験の合格発表がありました。合格された方、おめでとうございます。

残念な結果に終わった方へ、令和6年度の試験で合格するために今後の学習についてアドバイスしたいと思います。

令和5年度の合格発表について

今年度、消費税法の合格率は11.9%で、昨年度より0.5%増加しました。過去10年間の合格率を振り返ってみると、最高が平成29年度(第67回)の13.3%、最低が平成26年度(第64回)の10.3%、この間の平均合格率は12.0%となっており、平均的な合格率であったといえます。

この合格率は、一番低い相続税法11.6%の次に低く、合格率が一番高かった財務諸表論28.1%の半分以下となっています。しかし、合格者数は802名で税法科目の中では群を抜いて多いことから、一概に合格しづらい科目ということではありませんので、悲観的になることはありません。

今年度の出題は、第一問、第二問とも、基本的な知識を問う出題でしたが、ボリュームが多かったため、適切な時間配分により解答し、基本項目について着実に正答を重ねることができた受験生が合格したものと思われます。

「出題ポイント」から読み解く学習のヒント

国税庁ホームページに「令和5年度(第73回)税理士試験 出題のポイント」が公表されています。この「出題ポイント」から試験委員の出題意図を読み解き、今後の受験勉強でどんな力を身につけるとよいかを考えてみましょう。

第一問について

(出題のポイントより)
問1
「・・・実務においても生じ得る具体の事例に係る消費税法令の適用関係を問うものとした。」
問2
「・・・の適用対象となるか否かの判断は実務において重要である。」
「・・・これらの適用関係を正しく理解していることは実務においても重要である。」
「・・・の計算について、実務において必要な知識を問うものとした。」

【第一問】の出題ポイントには、強調されているキーワードがあります。

「実務において」という言葉が4回も登場しています。さらに、単に取扱いを知っているかだけでなく、適用関係について正しく理解しているかを確かめたいという出題者の意図がうかがえます。この要求にこたえられるようにするためには、単に条文を暗記しているだけでは足りず、規定を理解し、適用関係を正しく説明できるようにしておく必要があります。消費税法基本通達や国税庁が公開している各種Q&Aの事例に多く触れておくようにしましょう。

第二問について

(出題のポイントより)
問1
「・・・消費税額を計算させることで、消費税法の総合的な理解度を問うものとした。」
問2
「・・・消費税額を計算させることで、消費税法の総合的な理解度を問うものとした。」

【第二問】の出題ポイントでは、「消費税法の総合的な理解度を問う」ことが強調されています。

これは、計算問題といえども法令の理解を意識した出題をしていることを意味します。もちろん計算問題を限られた時間内で解答するには、じっくり検討する余裕はないため、反射的に正しく判断できるように訓練する必要があります。しかし、その判断の基礎となる規定の理解をしておくことの重要性がわかります。

今から始める受験対策

令和6年度税理士試験へのカウントダウンはすでに始まりました。合格発表の11月30日から来年8月6日まであと250日です。今日の1日も試験前日の1日も同じ1日。さあ、気持ちを切り替えて、今から試験勉強をスタートしましょう。

理論対策

今年の試験対策では、理論暗記が足りなかった、甘かったとの反省を抱く人も多いと思います。何はともあれ、今から理論暗記を始めてください。覚えようと思えば覚えられます。完璧な暗記を目指し、今回が最後の理論暗記となるように努力してください。消費税法の理論問題は、1日1問暗記していけば、1月終わりには1回転できます。忘れることを恐れずガンガン覚えましょう。

また、応用理論対策については、過去問や問題集の問題文を読み、解答の骨子を書きだした後で答え合わせする方法で効率よく理解を深めるようにしてください。このトレーニングをすることで、個別理論についても解答のポイントがつかめ、計算問題を解答するときにも役立ちます。

計算対策

基本的な総合計算問題集を年内に1回転することで、「計算問題を解答する勘」を取り戻してください。消費税法の計算項目に難しいものはありません。規定を理解し練習を重ねることで合格レベルに達することができますから、しっかり練習してください。

また、個別問題集の解答も始め、スラスラと解ける問題と解けない問題を仕分けしてください。間違ったり、迷ったりする問題があなたの弱点です。対策していくべき箇所を絞り込むことで、今後の受験勉強時間の節約につながります。

年末年始休暇には

年末年始の時間が取れる時期には、消費税法基本通達や国税庁が公表しているQ&Aなどの情報に目を通すことをお勧めします。理論問題の事例や、計算問題の出題内容の中にはこれらの中から出題されているものが多くあります。

以下の過去記事も、ぜひ参考にしてください。
【税法受験生は必見!】国税庁Q&Aの効果的な活用法と、読んでおきたい消費税法Q&Aベスト3

おわりに

消費税法の受験対策として大切なことは、基本的な知識を確実に身につけることです。令和5年10月から適格請求書等保存方式(いわゆる「インボイス制度」)が施行され、特例的な取扱いも多くなったため、令和6年度税理士試験の出題から計算問題は、ますます複雑化するものと予想されます。

しかし、消費税法の基本的な構造は変わっていません。基本項目について、繰り返し訓練することで確実に解答できるようにすることが大切です。理論暗記の正確性と計算問題の解答能力をアップしていきながら、条文の意味や内容について理解を深める復習もしていくようにするとよいでしょう。

最後に、わずかの点差で不合格となった受験生の方へ。
今の悔しさを忘れずに挑戦を続けましょう。合格までのあと数点をどう取るかが課題です。今年その数点を取れなかった原因について真摯に振り返ってみてください。不合格の原因は必ず自身の中にあります。この時期に反省すべきことは反省したうえで、いかに気持ちを切り替えて新たなスタートを切るかが、来年の合否を左右します。

あなたの努力があなたを裏切ることはありません。あと数か月消費税法の勉強時間を与えられたと思い、最善を尽くしてください。来年、あなたからの合格の報告を楽しみにしています。

<執筆者紹介>
加藤 久也
(かとう・ひさや)
税理士/名城大学大学院非常勤講師(消費税法担当)
1991年、富山大学理学部卒業。1991年~1995年、株式会社日立製作所に勤務。1998年、税理士試験合格。2000年、税理士登録。2002年、愛知県春日井市に加藤久也税理士事務所開業。税理士業のほか、1998年~2019年に名古屋大原学園、2016年より名城大学、2019年より愛知淑徳大学にて非常勤講師を務める。2017年より東海税理士会税務研究所研究員、2021年より同研究所副所長に就任。2019年より日本税法学会所属。著書に『ワークフロー式消費税[軽減税率]申告書作成の実務』(共著、日本法令)がある。

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