【編集部より】
公認会計士試験合格者の大半が大手監査法人への就職を志望する一方で、監査法人離れが進んでいるともいわれています。また、公認会計士という資格の魅力の一つとして、キャリアの多様性が挙げられることも多くなりました。
そこで今回は、“大手監査法人のシニアマネジャー”にフォーカスし、「監査でキャリアを積むこと」について、有限責任監査法人トーマツ(以下、トーマツ)の種田翔太先生にお話を伺いました!
Interview:種田翔太先生(有限責任監査法人トーマツ監査・保証事業本部 シニアマネジャー 公認会計士)
全体感がわかればわかるほど監査が面白くなる!
―前編ではシニアマネジャーの役割などについて伺いましたが、監査の仕事に醍醐味を感じるようになったのはいつ頃ですか。
種田先生 監査プロジェクトの現場リーダーである主査を経験した頃です。トーマツでは、入社して数年が経過した頃から主査を経験し始めます。最初は「会社法監査」や「任意監査」のプロジェクトリーダーを務め、相対的には少人数でチームを組成して行います。
プロジェクトリーダー(主査)を務めることで「何が学べるか」というと、相対する人の幅が広がり、対企業ではより上層部に近づくようになります。
監査手続では「経営者ディスカッション」といって社長や役員層へのヒアリングが求められますが、主査になると、年に何回か必ずそうした場面に、監査の責任者であるパートナーとともに出席することになります。
業界をリードする立場の方々と直接対話できる機会は非常に良い経験と知見の修得にも繋がりますし、そこから得た知見や視座を監査業務にしっかり体現できるようにもなります。
―入社して数年でパートナーの方と一緒に仕事をする機会があるのですね。
種田先生 パートナーとタッグを組んで、監査プロジェクトの最初から最後まで一気通貫で担うので、「監査の全体感」を見ることができるようになります。
そうすると、「監査がどういったものか」を実体験できるシーンが大いに出てくるので、面白みを感じられるようになると思います。
そして、それがさらに「上場企業の監査」になると、影響を与える範囲が一般投資家まで広がります。また、四半期レビューや内部統制監査なども含めて、監査業務の幅がより広がり、深みも増すようになります。
そのような経験ができると、より一層、監査の醍醐味を味わえるのではないでしょうか。
監査に対する志を高くもつ
―監査の醍醐味という点で、以前、監査離れというニュースを目にしました。種田先生からご覧になって、どうして辞める人が若年化していると思われますか。
種田先生 この業界はもともと、監査法人に残る人もいれば、辞めていく人もいるという、ヒトの流動性が比較的高い業界ではあるのですが、そのサイクルが短くなり、監査の面白みを感じられる経験を積む前に辞めてしまう人が多くなっている印象です。
「監査の変革期」にある中であらゆる変化の波が及んできているため、ともすると監査の本質的なやりがいに気づきづらくなっていたり、周辺業務の方がより魅力的に映っていたりするケースもあるのかもしれません。
―人が移り変わるサイクルが短くなっている原因にはどんなことが考えられますか。
種田先生 一つは、監査の変革期にある中で目まぐるしい変化への対応に疲れてしまったり、対面する業務が作業的だと感じてしまったりする局面が増えている傾向にもあるのだろうと思います。
ただ、トーマツでは今まさに公認会計士が本質的に取り組むべき領域に注力するため、標準業務を切り出して公認会計士の資格を持たない職員で構成されるデリバリーセンターに証憑突合などの一部業務を任せたりすることや、新たな監査プラットフォームへの移行、より高度な専門領域に対応するための人財育成や雇用の更なる強化などに本気で取り組んでいる最中です。今後はまた違った景観も広がっていくのだと思います。
もう一つは、コロナ禍でリモート環境が多くなったことにも起因して、人と人との関係構築がともすると希薄化してしまった側面もあるのかもしれません。もちろんリモート環境にも良い面がありますが、新たな時代では対面環境とのバランスにも十分に配慮し、より良い関係構築の在り方を追求しながら工夫していく必要があると思います。
加えて、この10年程で公認会計士の裾野が広がったとも感じています。私がトーマツに入社した当時とは比べものにならない程に、一般事業会社やアドバイザリー業務など幅広いジャンルで公認会計士に対するニーズが本当に高まりました。
それは、世の中がより難しくなってきている、専門性が高い経済活動が増えているからでもありますが、目まぐるしさや作業的な面、関係構築の希薄化を感じ、その意識が強くなってくると、キャリアの選択肢が広がっているからこそ、人が移り変わるサイクルが短くなっているのかもしれません。
最先端への学びを先取りし、自分が成長し続けられる環境
―時代の変化とともにキャリアの選択肢が広がっていると言われる中でも、監査の仕事を選び、やりがいを感じられていることが種田先生のお話からも伝わってきます。
種田先生 私たちは監査法人ですし、公認会計士としての業務のベースは監査だと捉えています。もちろん、資格の多様性が広がり、10年前に比べるといろいろな機会も増えました。ただし、ベースは「監査でのスキル」です。
このスキルには、会計監査に関する専門知識の絶え間ない更新、監査プロジェクトを一気通貫で回すこと、経営者との対話を含め監査の過程で得られる知見・経験に基づき適切な判断を行うことなどが含まれます。
さらには、傾聴を起点とした高度なコミュニケーションを行い、これらを総じて企業に対して有益な助言指導を行うことなど、非常に幅広くあります。いずれも公認会計士ひいては経済人として仕事の幅を広げていくためにはとても重要なスキルであり、これらを高めていけることには魅力を感じています。
監査法人が提供する監査以外のプロジェクト、たとえばアドバイザリー業務においても、「会計監査の知見」がベースになることからも、監査経験を活かすことがこの資格たる所以なのだと思っています。
―時代の変化で感じていることは他にもありますか。
種田先生 私が入社してからの変化は本当に目まぐるしいものがあります。たとえば、成果物としての監査調書一つとっても、「紙」で手元に残しておくことが多かったのですが、「デジタル」への移行に伴い、紙の資料は今やほとんどありません。
今後も、より加速度的に変化が広がるのだろうなと思いますが、「最先端への学び」と「変化への対応」といったところで、単純に言うと、退屈しません。
毎年、同じことを繰り返すことは退屈かもしれませんが、目まぐるしい変化への対応をリードしていく立場として退屈をしない。これも監査の大きな面白みの一つではないかと思っています。
いろいろな知見を利用することもすごく大事なので、公認会計士だけでは足りない知識は、税理士や不動産鑑定士、弁護士のような専門家と内部でも連携しています。そのような側面でも「学び」に対するレバレッジは効きやすい仕事なのではないかと思います。
―正直…、勉強がしんどいなと思うことはないですか。
種田先生 それは、「勉強をしないこと」をある意味で諦めました。もともと私は「勉強」という捉え方は好きではなかったのですが、この仕事は常に知識のアップデートが必要不可欠なので、スタッフ時代に「これはやらないといけないな」と思って、勉強しないことを諦めてしまいました。
そこから、監査だけではなく、いろんな勉強をしてきたことが今に繋がっていますし、「新しいことに触れる楽しみ」だと捉えるといいのではないかなと思います。
実際、監査の現場にいることで、かなり先取りして、かつ時間を凝縮して学べることが、すごくたくさんありますし、監査プロジェクトリーダーのような責任者としての経験を積むことで、はじめは小さいながらもどんどん可能性を広げていくことができます。
経験することのスピード感は早く、時代の先取りが求められる業界なので、加速度的に自己成長を遂げたい人には、監査はすごく向いている仕事だと思います。
―ありがとうございました!
(おわり)
<お話を聞いた人>
種田 翔太(たねだ・しょうた)先生
有限責任監査法人トーマツ
監査・保証事業本部 第一事業部 監査第三部
シニアマネジャー
公認会計士
2008年12月に監査法人トーマツ(現有限責任監査法人トーマツ)に入社、国内監査事業部で監査に従事し多種多様な業界での監査を経験してきた。監査と並行してアドバイザリー業務や上場に向けたアドバイザリー、配員調整業務など周辺業務も経験を有する。現在は大手企業複数社に対して監査プロジェクトのリーダーを中心に担っている。多くのヒトと連携し、監査を通じてヒト、組織、社会に好循環をもたらすことを志して日々取り組んでいる。