【財務諸表論】直前期に困らないための「理論学習」スタートガイド


諸角崇順

【編集部より】
税理士試験簿・財の計算学習はそれまで実践してきた簿記の勉強法を応用することで実力アップができるイメージがつく一方、理論学習をどう取り組めば良いかを悩んでいる人もいるのではないでしょうか。
直前期になってから「あの時、もっとこうすればよかった!」と焦ることのないように、財表理論の学習初期である今のうちに知っておきたいことを諸角崇順先生にズバリ本音で教えていただきました!

この時期だからこそ意識してほしいこと

大手資格学校の税理士講座は、例年8〜9月に開講することが多いと思います。そろそろ財務諸表論の暗記すべき理論の量も増えてきて、特に初学者の場合は記憶の維持に苦労し始めているのではないでしょうか。

今回の記事では、学習開始から2〜3ヵ月経過したこの時期だからこそ意識していただきたいことをお伝えします。

なぜ、資格学校の講師は模範解答例の暗記を勧めるのか?

財務諸表論は、財務諸表「論」なので、税「法」とは異なり、本来、模範解答(基準等)の丸暗記は必要とされません。なのに、なぜ講師は暗記を勧めるのでしょうか?

1つめの理由として、「本試験の解答時間の少なさ」があります。

財務諸表論の場合、第三問の計算総合問題に80分程度を要しますので、理論問題に割ける時間は40分弱となります。この限られた時間で理論問題を2問も解かないといけないので「どんな内容を書こうかなぁ~」なんて、本試験会場で問題用紙を前にゆっくり考え込んでいる時間はありません。

そこで、「こう問われたら、こう解答する」という模範解答例のパターンを数多く用意することで、本試験中の考え込む時間をカットするわけです。もちろん、すべてが模範解答例どおりに書けるわけではありませんが、中には模範解答例どおり書ける理論もあるので、そこで時間短縮をはかります。

2つめの理由としては、「国語力のなさを隠す」があります。上記1つめの理由は、授業中に講師が受講生に話すことも多いですが、この2つめの理由「国語力のなさを隠す」については、「国語力のなさを受験生に指摘する」という点で受講生に対して失礼である、という考えもあり、きちんと伝える講師は少ないように思います。

理論問題に割ける時間は40分弱という限られた解答時間ということもあり、見直しをする時間もない以上、仕方のないことかもしれませんが、受験生が解答した文章が日本語として成立していないことが多くなっています。
たとえば、主語を書いていない、文末までしっかり書き切っていない、主語と述語が対応していない、他動詞を使っているのに目的語がない、など。ちなみに、漢字間違いは論外です。

テキストに載っている模範解答例の文章は(当たり前ですが)日本語として成立しているので、それを暗記し、そのまま解答用紙に書けば、日本語として破綻するということはありません。
しかし、暗記に割く時間が少ないため、暗記の精度がどうしても低くなり、「それならば自分の言葉で書いてしまえ」と考える人もいるわけですが、そのように自分の言葉で書いてしまう人は(ほぼ全員)日本語が破綻しています。

キーワードを使いつつ、限られた解答スペース、限られた時間で日本語として正しい文章を成立させるのは本当に難しいことです。このような作業は、物書きと呼ばれる人であっても至難の業だと思います。日本語の部分で減点されないようにするためにも、まずはテキストの模範解答例をしっかり暗記するところから始めてもらいたいと思います。

ちなみに国語力は、数週間、数ヵ月という期間で身につくものではありません。子供の頃からの読書量によるものです。なので、国語力に不安のある方は、①テキストの模範解答例を正しく暗記する、②できる限り数多くの添削指導を受けることで、国語力不足をカバーするようにしてください。

「本試験日の前日までに暗記を終わらせればよい」という認識はNG

テキストの模範解答例は、英語で言えば英単語にあたります。当たり前ですが、英語をマスターするためには英単語の意味だけを知っていてもダメなわけで、英文法も習得する必要があります。

先に書いたように、税理士試験はテキストの模範解答例どおりに書ける理論ばかりが出題されるわけではありません。模範解答例どおり書けない理論、すなわち、応用理論や事例問題に対応するためには暗記だけではダメで、理論のつながりを「理解」する必要があります。

しかし、多くの受験生は致命的な勘違いをしており、財務諸表論の理論学習におけるゴールをテキスト(もしくは暗記教材)の完全暗記と思ってしまっています。この勘違いに気づかないまま本試験に臨んでしまうと「習っていない理論が出題されたぁ」となってしまうのです。

というわけで、暗記作業は4月末あたりまでに終えて、そこから本試験までの期間は資格学校で実施される答練(答案練習会)や市販の模擬試験問題集で出題される応用理論や事例問題を通じ、暗記した理論の組み合わせ(横のつながりを意識した解答)の練習をしていく必要があります。

もし仮に、4月末までに暗記が終わっていないと、せっかくの答練や模擬試験問題での応用理論や事例問題がいわゆる“死に問”(問題演習するレベルにすら達していないため、解答を白紙で提出することになり、添削すらしてもらえない問題)になってしまいます。

もしゴールを勘違いをしていたなら、4月末までに暗記が終わるような勉強計画にすぐ作り直しましょう。受験生が最も期待しているであろう、応用理論や事例問題の添削や指導を直前期に受けられなくなるなんて本当にもったいないことだと思いませんか?

まとめ
・NG:「本試験の前日までに暗記が終わればいいや」という認識
・OK:「答練が始まる時期(4月末あたり)の前に暗記を終えよう」という認識
理論のある科目(税法も含めて)については、このことを知っておかないと受験生活は2年、3年と長期化します。

合格するために必要なこと

SNSなどで受験経験者(合格者)からこんなことを言われることもあるかもしれません。

 「いやいや、本試験前日でも暗記の終わっていない理論があったけど受かったよ!」

確かに、それは事実だと思います(回によっては簡単な回もあるからです)。

ただ、講師と受験経験者(合格者)のアドバイスにおける決定的な違いは、講師はどんな問題が出題されても合格してもらえるよう安全マージンを取ったアドバイスをしますが、受験経験者(合格者)は自分が受験した回の本試験のみを前提にアドバイスをする、ということです。

別にそれは悪意があるわけではなく、受験経験者(合格者)は自分が受験した回以外の問題まで研究しているわけではないため、自分が受験した回にのみ通用した方法でアドバイスをしているだけです。

しかし、講師はこの仕事でゴハンを食べている以上、毎年の本試験を研究した上で、どんな簡単な回でもどんな難しい回でも合格してもらえるようなアドバイスをするわけです。なので、受験生のみなさまは、聞き心地のよいアドバイスのほうに流されぬよう、自分を厳しく律し、できる限り前倒しで暗記をしていきましょう。

<執筆者紹介>
諸角 崇順
(もろずみ・たかのぶ)
大学3年生の9月から税理士試験の学習を始め、23歳で大手資格学校にて財務諸表論の講師として教壇に立つ。その後、法人税法の講師も兼任。大手資格学校に17年間勤めた後、関西から福岡県へ。さらに、佐賀県唐津市に移住してセミリタイア生活をしていたが、さまざまなご縁に恵まれ、2020年から税理士試験の教育現場に復帰。現在は、質問・採点・添削も基本的に24時間以内の対応を心がける資格学校を個人で運営している。
ホームページ:「かえるの簿記論・財務諸表論」


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