【商業高校出身会計士のキャリア】学生時代に学んだスキルと知識が会計専門家として活きる


Interview:大杉泉先生(公認会計士)

【編集部より】
以前、とあるテレビ番組で「商業高校芸人」がテーマとして取り上げられ、界隈では話題になりました。以前から気になっていた「商業高校出身」の公認会計士にフォーカスするなら今では!?ということで、本企画が立ち上がりました!
一般的には、商業高校卒業後は就職する人が多いというイメージがあると思われますが、今回の企画では、商業高校を選んだ理由から公認会計士を目指すきっかけ、商業高校ならではの強みなどを伺いました。商業高校出身の現役受験生や合格者の方はもちろん、現役の商業高校生にも、将来について考えるきっかけになるはずです!

―現在はどのようなお仕事をされていますか。

大杉先生 現在は3つの仕事をしています。
1つ目は社外役員で、Retty株式会社(社外取締役(監査等委員))と株式会社インティメート・マージャー(監査役)に就任しています。
2つ目が、自分の事務所で監査役のサポートサービスを提供しています。
3つ目が、監査役の人材紹介で、これは他の事務所と協業で行っています。

3種類の仕事をしているので「色々やっているね」と言われますが、いずれも「監査役」という共通項があります。

監査役の支援というのはあまりやっている人はおらずユニークではありますが、「他の人がまだやっていないこと」を選んでいるのは、「商業高校」や「高卒会計士」などマイノリティの楽しさを経験したからかもしれません。

―公認会計士として監査役を柱に多方面でご活躍ですが、今回は「商業高校出身会計士」にフォーカスをしてお話を伺えればと思います。
まず、進学先として商業高校を選んだきっかけは何でしょうか?

大杉先生 中学2年生の冬、母から「医療費控除の確定申告をしてみない?」と言われ、人生で初めて申告書を書くことになりました。

当時はまだ、インターネット申告がなく、申告書はすべて手書き作成でした。確定申告に関する手引書やテレビ番組などを見ながら、一生懸命に記入しました。

その後緊張しながら提出しましたが、実際に還付があって、それが私のお小遣いにもなったので、嬉しかったことを覚えています。

それをきっかけに、「数字を扱う仕事」に興味を持ち、商業高校に進む1つのきっかけにもなりました。

当初は普通科高校に進学するつもりで、いくつか見学もしたのですが、私の母校である横浜商業高校(通称、Y校)の文化祭を訪れた際、さすが商業高校と言わんばかりに各クラスが非常に凝った出店をしていて、来場者も多く、まるで大学の文化祭のような賑やかさがあり、その雰囲気に惹かれ、Y校への進学を決意しました。

―公認会計士を目指すことになったのは、商業高校への進学がきっかけだったのでしょうか。  

大杉先生 簿記がすごく楽しく、また成績もよかったので、「簿記は自分に向いている」と思い、将来は簿記を使う仕事をしたいと考えるようになりました。

そこで、企業の経理か、税理士か、公認会計士が候補として挙がったのですが、「手に職があるといいよ」という周りからのアドバイスもあり、最初は税理士の資格取得を目指すことにしました。

ただ実は、高校時代には管楽器のリペアマンになる道との迷いがありました。というのも、吹奏楽部に所属していて、月に1回程度、管楽器の修理の人が学校に来て調整してくれるのですよね。その姿を見て、こういった形で私も吹奏楽をする学生と関われるといいなと思っていました。

ですが、管楽器のリペアマン養成のための専門学校を見学して、実際に体験してみたところ、この分野は自分に合わないということがよくわかりました。それと、ある雑誌で俳優の浅野忠信さんと高校生の対談企画に参加する機会があったのです。

そこで、浅野さんに当時の私の悩みを相談したところ、「どっちもやっちゃえばいいじゃん!」と声をかけていただき、「音楽は趣味として付き合えば、両方ともできるな」と考えました。そのような経緯があって、大原学園の税理士講座(全日制)に進学することにしました。

―そこから、いつ公認会計士に目標チェンジされたのでしょうか?

大杉先生 大原学園に入学し、1年生の11月の試験で日商簿記1級、2年生の夏の試験で税理士試験簿記論・財務諸表論に合格することができました。そこまでは比較的スムーズだったのですが、その後、消費税法と相続税法を選択した際、税法科目の勉強、特に理論の暗記が苦手だと痛感し非常に苦労したのです。

自分には5科目合格は難しいのではないかと思い悩んでいた時、たまたま通りかかった友人が、ポロっと「公認会計士試験の試験制度が変わって、誰でも受験できるようになったらしいよ。そんなに悩んでるなら公認会計士試験を受けてみたら?」と言って、そのまま去っていったんです。

それを聞いた私は「これは天啓かもしれない」と思い、すぐに税理士講座から公認会計士講座にコース変更しました。

友人のその一言がなかったら、公認会計士の試験制度が変わったことも認識していなかったかもしれませんし、私はどうしたらいいんだろうと悩みながら税法の勉強を続けていたかもしれません。

公認会計士試験にも、たとえば租税法や企業法という法律科目がありますが、一字一句の暗記ではなく、自分の言葉で答案を作成しても合格できるという違いがあります。税理士試験でもそういう面もあるのかもしれませんが、当時の私は少なくとも税理士試験では一字一句の暗記が必要だと考えていました。

条文の内容を自分の言葉で答案に書き、それが正しければ合格できるのが公認会計士試験の特徴で、その点が私には自分に合っていたと思います。

―高卒であることについて後輩の方から相談されることもあるそうですね。

大杉先生 はい、2つあって、1つは受験生からの相談で、基本的に公認会計士は大卒が多い社会なので、「卒業大学ごとの学閥があるのではないか?またそれで仕事上、不利になることはないか?」ということを聞かれます。

けれども、私は「ほとんどない」と答えています。私が知らないだけなのかもしれませんが、そもそもどこの大学出身かなどは基本的に会計士同士で話題にも上がりませんし、それよりも仕事ができるかどうかで判断されることのほうがよほど大きいので、まず気にしなくて大丈夫だと思います。

もう1つは、合格者から多い相談で、「高卒で公認会計士を本当に続けられるのか?」ということです。これに対しては少し慎重な回答になりますが、私の実体験を伝えるようにしています。

公認会計士の試験制度、特に学歴要件についてはさまざまな意見、特に諸外国との比較による意見があります。その中で「一個人として出来ること」を考えた時に、私は30歳を過ぎてから放送大学に通い、大卒資格を取りました。なので、35歳からは高卒会計士から大卒会計士になりました。

「社会人になった今、改めて知らないことを勉強したい」という純粋な気持ちもありましたが、この学歴要件についての意見を聞き、高卒のままでいることに対する危機感も多少あったというのは正直あります。

ただ、高校を卒業したら次は大学でなければならないということはなく、公認会計士になってから大学に行くという順番でもいいのではないかと思っています。

もちろん、仕事と家庭、学業の両立は大変でしたが、大人になってからの勉強は楽しかったですし、このような例もあるよと後輩には伝えています。

―商業高校出身ならではの強みを感じる瞬間はありますか。

大杉先生 いくつかありまして、1つは高校時代という若い頃から、ビジネスや商売について、「教科」として時間を使い専門の先生から正しい内容を学び、そして実践できたことは今振り返っても得難いことでしたね。

また、友人の就職先が多様なことも強みだと思っています。友人たちからその業界や現場の話を聞けることは、公認会計士の仕事、特に会計監査において深い理解に役立ちました。

あとは、高校時代から簿記を学んでいたことは、専門学校に進学した後も大きなアドバンテージになったと思います。

それと、商業高校では電話応対や文書作成などのビジネススキルもしっかりと教わるんですよね。監査法人の新人研修でもある程度は習いますが、そこまで徹底的に取り組むことはないので、新人の時にはずいぶん助けられました。

最後に、これは母校のY校だからこそですが、校是に「誠」という言葉があります。大人になってから、この意味の大切さを噛みしめるようになりました。自分の信念を信じる、相手に誠実に接することは、公認会計士としての仕事の基礎であり、支えになっています。そういった礎を高校時代に触れられたことは大きかったですね。

―最後に、受験生へのメッセージをお願いします。

大杉先生 大学でも最近はビジネス教育の重要性についての声が高まり、ビジネス系の学部や科目なども増えていると聞きますが、より早期の高校生のタイミングからビジネス教育を受けられる機会である商業高校はもっと注目されてもいいと思っています。商業高校の統廃合などのニュースも耳にしますが、ぜひ多くの人にこの重要性に気づいていただきたいと思っています。

特に、商業高校で学んだスキルと知識は会計専門家としても活かせた場面がとても多かったので、現役生の方も、出身者の方も、ぜひ自信を持っていただけると嬉しいです。商業高校出身会計士として、一緒にお仕事ができる日を楽しみにしています!

―ありがとうございました!

<お話をお聞きしたい人>

大杉 泉(おおすぎ・いずみ)

1985年、神奈川県横浜市生まれ。
横浜市立横浜商業高校(Y校)卒業後、最短で資格を取得するべく、大学には通わず大原学園に通う。高卒のまま公認会計士試験に合格。あずさ監査法人(現 有限責任 あずさ監査法人)横浜事務所へ入所し、主に東証一部上場の鉄道会社やゲームメーカーなどの会計監査や内部統制監査を経験。
現在では、社外監査等委員・監査役、社会福祉法人監事を務めているほか、各種協会・機関での執筆活動や講演、日本公認会計士協会 社外役員会計士協議会委員、組織内会計士協議会組織内・社外役員会計士調査研究専門委員会専門委員、同神奈川県会幹事としても活動している。また、2017年より、日本初の監査役のためのニュースブログ「監査役ニュース」を立ち上げ、監査役の業務上有用なニュースを厳選した情報提供も行なっている。


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