【未来予想図2035】会計研究から見た公認会計士のミライ


原口 健太郎(西南学院大学准教授・公認会計士)

【編集部より】
生成AIの進化などによって、私たちの生活や仕事も大きな影響を与えられています。現在の公認会計士受験生や税理士受験生が、実務家として第一線で活躍する頃にはどのような世界になっているのでしょうか。
そこで本企画では、約10年後の未来を予測し、期待や危機感、それに対する準備などについて、実務家や学者4名の方々からアドバイスをいただきました。(掲載順不同)
「合格の先」を見据えることで、受験勉強を乗り越えるエネルギーにもなるのではないでしょうか。

未来を予想するのはなぜ難しい?

本記事をお読みになるのは若手の会計士・税理士受験生の皆様が多いと思います。
もしかしたら、10年という期間のイメージが掴みにくいかもしれませんね。
私が日商簿記検定1級に合格したのがちょうど10年くらい前でした。
合格証書を見返してみると、私は第132回試験(2012年)の合格者でした。
試験問題の傾向は今といろいろと違うでしょうが、特に、収益認識基準と特殊商品売買の取扱いが大きく異なります。
私の受験時、前者はそもそも存在していません。
後者は、近年一部が廃止されましたし、学習上のウェイトも大きく変化しました。
私が受験した頃、1級以上の試験を受験する際には、特殊商品売買の総合問題を毎日繰り返し解いていたものです。
何度同じ問題を解いても間違うので、泣きそうになるところまでがお決まりのパターンでした。
優秀な方はもっとスマートにできたのでしょうけども……。

変化の激しい現代の経済社会にあって、会計を取り巻く環境や仕組みは日々刻刻と変化していきます。
それに対応し、新しい会計の決まりも次々と生み出されることになります。
10年後の未来を正確に予測するのはもちろん困難ですが、今はないルールがたくさん生み出されていることは確実です。
したがって、会計専門職を目指す読者の皆様方には、現在と同様に、10年後も常に研鑽を怠らず、最新の知識の習得に努めていくことが求められます。

ということを長々と書こうかと思ったのですが、いまいちピンときません。
いや、書いていること自体は絶対に合っているはずなのですが、何というか、こう、面白くないのです。
なぜ面白くないかというと、当たり前すぎるからではないかと思います。
上記の文章は、要約すると「10年後には今はない決まりができています。頑張って勉強しましょうね」ということですが、予測というものは、確度を高めようとすると、どんどん当たり前の内容になって面白くなくなり、かつ、意味がなくなります。
天気予報で、キャスターが「明日は雨・雪かもしれませんが、そうでなければ晴れか曇りでしょう」と予測したら、その予測が当たる確率はとても高いですが,面白くもなんともないですよね。

ということで、本題に入りましょう。

会計士の仕事にかかわる最新の研究をみてみよう!

10年後にこの世界がどうなっているか、私なりに、専門に近い分野で、公認会計士を例にとってお話をしたいと思います。
できるだけ面白い話にしようと思いますから、確度は低くなります。
当たらなくても怒らないでくださいね。

既に、2023年現在においても、情報技術の発展に伴い、人工知能(Artificial Intelligence: AI)を会計学に適用しようとする研究が急速に進展しています。
最新の研究結果を見ると、例えば、会計学における世界最高峰の学術誌の1つであるJournal of Accounting and Economics誌に掲載されたBao et al.(2019)が挙げられます。
Bao et al.(2019)は、代表的なAI技術の1つである機械学習(Machine Learning)を活用し、1991年から2008年までの米国上場企業の財務データを分析することで、財務データのパターンから不正会計を自動的に予測するモデルを構築しました。
もし、この技術が実用レベルで使えるようになれば、監査実務にも革新的な影響をもたらすことが期待されます。

ただし、現時点では、Bao et al.(2019)が提示したアイディアは論争の途上にあります。
例えば、Walker(2021)では、上記論文のデータの取扱いに問題があるとする重要な反論がなされており、今後の展開に注意が必要です。
機械学習技術全般の学術への貢献可能性に関しては、東京大学の首藤昭信先生のご論文が非常に参考になります(首藤、2019)。

会計士の需要はなくなる?

10年後には、これらの技術が一層進展していることに疑いはありません。
例えば、Bao et al.(2019)の技術が実用化されて、仕訳データや過去の財務データと監査対象の財務諸表を全部AIに入力すれば、重要な虚偽表示の有無の予測を出力してくれるような仕組みができているかもしれませんね。
既に、そのアイディアのプロトタイプとなる仕組みは次々と開発されつつあります。
10年後には、実用化に向けて相当の進化を遂げているはずです。

それでは、そのような技術が実用化した場合、つまり、10年後またはもっと遠い将来、公認会計士の需要はなくなってしまうのでしょうか?
決してそんなことはありません。
例えば、上述のモデルがもし完成していたとしても、AIはあくまでも予測値を返してくれるだけです。
監査手続きの中に、その予測値の活用がとり入れられる可能性はありますが、財務諸表が適正に表示されているかを最終的に判断し、意見を表明することに関しては、人間の公認会計士が行う以外の選択肢はありません。
そのためには、AIの予測値が判断の根拠になり得るかどうか、当該予測値に基づきリスク評価手続きやリスク対応手続きをどのように設計すべきかなどを、職業的専門家としての知見と責任を有する人間が検討する必要があるのです。

これに加え、AIは大量の過去の経験に基づき結果を出力しますので、過去には存在しなかった新しい会計基準等に関しては、その能力は著しく制限されます。
収益認識基準の話を思い出してください。
ということは、AIの出力結果の信頼性を判断するためは、会計基準の改正や被監査会社が採用している会計基準等といった情報を理解する必要があり、そのためには、やはり人間の公認会計士が必要です。

このように、AIが発達したとしても、公認会計士の仕事が代替されるということはちょっと想定できず、むしろ、高度な情報技術を使いこなすための会計人材の需要がより増えるのではないかというのが私の予想です。

具体的に求められる人材は?

それでは10年後にそのような未来が実現した際に、具体的にはどのような人材が特に必要とされるでしょうか?
条件を予測してみたいと思います。
第1に、修了考査に合格して責任のある立場で監査業務を遂行できること。
第2に、会計・監査に加えて情報技術にも精通していること。
第3に、最先端の知識を習得するための若さを備えていること。
いずれも結構厳しい条件です。

2033年の時点で、試験合格後、7~8年の経験を積んでいればベストでしょうね。
お気づきでしょうか?
これを今読んでいる皆さんが、もし公認会計士の受験生だったとしたら、しっかり学習を進めてライセンスを取得したうえで、さらに研鑽を積めば、10年後には、上記条件を完全に満たすことができる可能性があります。
経済社会が求める条件に合致しているのですから、もちろん、引く手数多となっているはずです。
ということは、あなたが、もし上記のような人材となって活躍することを希望するなら、2023年現在は、学習にベストな時点であり、今すべきことは、しっかり学習に専念して合格をつかみ取ることだということになります。

この予測が当たるかどうか、もちろん保証はできませんが、読み返してみると、我ながら意外といい線いってるんじゃないかな?という気もします。
少なくとも、「何から何まで違っていた」「1から10までデタラメだった」などということにはならないんじゃないかなぁ、と思います。

会計専門職への道のりは長く険しいものです。
しかしながら、だからこそ、本記事でイメージしたような、極めて高い専門性や社会的意義の大きな仕事にアクセスする権利を得られるのです。
未来の予測に不確実性が伴うことはもちろんですが、その中でもしっかり価値を創出することができる人材になれるように、自分が信じた道を進んでほしいと思います。
末筆ながら、受験生諸君のご健闘をお祈り申し上げます。

【参考文献】
Bao, Y., B. Ke, B. Li, Y. J. Yu, J. Zhang (2019) Detecting Accounting Fraud in Publicly Traded U.S. Firms Using a Machine Learning Approach, Journal of Accounting and Economics, 58(1), pp. 199–235.
Walker, S. (2021) Critique of an Article on Machine Learning in the Detection of Accounting Fraud, Econ Journal Watch, 18(1), pp. 61–70.
首藤昭信(2019)「AIが会計学研究に与える影響」『會計』第195巻第2号,127‐141頁。

<執筆者紹介>
原口 健太郎(はらぐち・けんたろう)
西南学院大学商学部准教授
博士(経済学)、修士(理学)、公認会計士、米国公認会計士(Guam, inactive)
九州大学大学院理学府修士課程修了後、NTTデータ・長崎県庁・会計検査院での勤務の傍ら、九州大学大学院経済学府博士課程を修了して現職。専門は経営分析論や公会計等。日本会計研究学会学術奨励賞等受賞。
学内に原口公認会計士事務所を開設するとともに、公認団体サークル「第一国家試験準備室」の顧問を務め、公認会計士・税理士育成にも注力している。
Xアカウント:ふくふくさん(Ph.D., CPA)@CpaFukuoka


関連記事

ページ上部へ戻る