次の科目どうする?私がこの税法を選んだ理由~とある会社の経理さん、理論武装の必要性を痛感する!


東山 穣(税理士)

【編集部より】
今年度の税理士試験が終わり、次年度の科目選択をしたり、専門学校の受講申込みをしたりする方もいるのではないでしょうか。税理士試験の受験を始める際、受験する予定の科目をぼんやりとでも計画を立てている人は多いはず。しかし、受験の手応えや試験結果によって、なかなか計画どおりにいかないのも現実です。
そこで、合格者の人たちがどういった考えで税法科目を選択していたのかを、受験の経験談とともに教えて頂きました。

働きながら40歳で官報合格!

私は35歳から税理士試験の勉強を始め40歳で官報合格しました。一般企業で働きながらの受験勉強、しかもこの期間に子供が2人生まれたのでなかなか忙しい5年間でした。

私の受験遍歴は次のとおりです。

年度受験科目(合否)勉強期間勉強時間(概算)
H29簿記論(合)
財務諸表論(合)
7か月間
(平成29年1月開始)
800時間
H30法人税法(合)1年間
(平成29年9月開始)
1,200時間
R元所得税法(44点)
消費税法(58点)
1年間
(平成30年9月開始)
1,100時間
R2相続税法(合)1年間
(令和元年9月開始)
1,100時間
R3消費税法(合)7か月間
(令和3年1月開始)
700時間

ご存じのとおり、税理士試験は11科目のうち5科目に合格すればよく、科目合格制をとっているため科目選択も合否に影響を及ぼす重要な要因といえます。
今回は税理士試験の税法科目の選択方法について、実体験を交えつつ私見を述べたいと思います。

興味がある科目を選択する

結論から言ってしまうと、受験科目は自分が興味をもてるものを選択すべきです。

当たり前の話ですが、大事なのは勉強が楽しいと思えることです。
勉強は楽しい要素がないと続きません。続かないと合格レベルには達しません。

だから、興味をもてる科目の選択をオススメします。
その上で、どのような選択基準があるかを考えてみましょう。

たとえば、以下のようなものが挙げられます。

選択基準選択すべき科目
1)税理士業の実務で特に役立つもの
(将来に備えて必須の知識を習得する)
法人税法、所得税法、消費税法、相続税法
2)日常生活で馴染みがあるもの
(関心が高いと学習意欲がわく)
消費税法、所得税法、相続税法、住民税、固定資産税など
3)相対的に学習量が少ないもの
(法人税法、所得税法の半分以下)
酒税法、事業税、国税徴収法、住民税、固定資産税

何に重きを置くかは個人個人の事情や価値観によるでしょう。

次に、私が何を考えて受験科目を選択したかをご紹介します。

私の科目選択の基準

私が税理士試験の勉強を始めたキッカケは税務調査でした。
勤めている会社に大阪国税局の調査が入り、その対応をした際にもっと理論武装をすべきだと痛感しました。

そこで税法を体系的に学べる教材を探して行き着いたのが税理士試験だったのです。

そのため、私の科目選択の基準は「仕事に役立つもの」でした。だから、法人税法と消費税法を勉強することは最初から決めていました。そして、どうせ勉強するなら目標を定めたほうがよいと考え、本試験にも挑戦することにしました。

受験1年目

受験1年目は「簿記論」と「財務諸表論」を選択しました。
理由は、会計知識が法人税法などの学習の前提となるからです。加えて、会計の知識を深めることは仕事にも活かすことができます。

平成29年1月から学習を始め、平成29年8月の本試験で両方合格できました。
簿記論と財務諸表論は計算問題の出題範囲が重複しているので、同時に学習することで勉強時間を短縮することができます。

受験2年目

受験2年目は「法人税法」を選択しました。
この科目が税理士試験を始めたキッカケなので早めに勉強しておきたかったのです。

平成29年9月から勉強を始め、平成30年8月の本試験で合格しました。
本試験当日の朝に38℃を超える熱が出るというハプニングがありましたが、運よく実力を出し切ることができました。

受験3年目

受験3年目は「消費税法」と「所得税法」を選択しました。
「消費税法」を選んだ理由は、前述のとおり会社の仕事に役立つ知識を習得するためで、「所得税法」はプライベートで役立つと判断したからです。給与所得以外に不動産所得や譲渡所得があり、毎年3月に所得税の確定申告書を作成していたので、もっと詳しく勉強しようと考えたのです。

今考えるとなかなか無謀な2科目同時受験でした。

当時の状況は、家事や育児に割く時間が増加しており「今後、子供が増えて成長していけば、さらに勉強時間の確保が困難になる」と考え、さっさと税理士試験を終わらせたかったのです。そのため2科目を同時に勉強しました。

しかし、結果的にこの2科目同時受験は失敗に終わります。
時間の捻出が厳しくスケジュールどおりに学習を進めることができず、令和元年8月の本試験で惨敗しました。

当時の試験結果通知

法人税法の合格からは単なる勉強で終わらせず官報合格を目指す気持ちが強くなっていたので、この2科目の受験後に科目選択で大いに悩みました。
所得税法はおそらく不合格だとわかっていたのですが、消費税法は合格の手ごたえがあったのです(結果は不合格でしたが)。

すると、次の候補としては所得税法か別の科目です。
散々苦しめられた所得税法を再び勉強する気にはならず、また何かの間違いで所得税法が合格していたらもったいないので、別の科目を選択することにしました。

受験4年目

そんな経緯で受験4年目は「相続税法」を選択しました。
相続というイベントは自分にとっても無関係ではいられません。将来的にきっと役立つと考えて選択しました。

予定外に始めた相続税法の勉強は会計色が薄く新鮮な思いでした。法改正で暗記量が大幅に増加したことに暗澹たる思いをしましたが、概ね楽しく勉強をすることができました。

令和元年9月から勉強を始め、令和2年8月の本試験で何とか合格できました。

受験5年目

受験5年目は再び「消費税法」を選択しました。

いい加減、税理士試験に疲れていたので、5年目は勉強するつもりはありませんでした。しかし、相続税法の合格通知を受け、もう少しだけ頑張ろうと奮起しました。

そのため勉強を開始したのは令和3年1月からです。
消費税法なら一度学習していたので7か月間でも十分間に合うと考えました。

勉強は順調に進み、6月に実施されたTACの全国模試で総合3位を獲得し、さらに自信をつけました。

TAC全国模試の成績表

令和3年8月の本試験で十分に実力を発揮することができ、令和3年12月の官報に名前が載りました。

受験生の傾向を見てみよう

最後に、受験生全体の傾向を見てみましょう。
以下は、令和4年度の税理士試験結果(出典:国税庁HP)です。

受験者数の多い順に並び変えています。

科目受験者数合格者数4年度合格率3年度合格率
(参考)
簿記論12,888人2,965人23.0 %16.5 %
財務諸表論10,118人1,502人14.8 %23.9 %
消費税法6,488人740人11.4 %11.9 %
法人税法3,454人425人12.3 %12.8 %
相続税法2,370人336人14.2 %12.8 %
国税徴収法1,709人235人13.8 %13.7 %
所得税法1,294人182人14.1 %12.6 %
固定資産税910人167人18.4 %13.8 %
住民税476人82人17.2 %12.7 %
酒税法454人60人13.2 %12.6 %
事業税269人38人14.1 %12.6 %
合計40,430人6,732人16.7 %16.5 %
令和4年度の税理士試験結果(出典:国税庁HP)

会計科目(簿記論と財務諸表論)だけで受験者全体の約57%を占めています。これらは必須科目であり、かつ法人税法などの学習の前提知識となるので受験者数が多いのもうなずけます。合格率が税法科目よりも若干高めな点も特徴です。

税法科目のうち受験者数が上位である消費税法、法人税法、相続税法、所得税法は国税4法と呼ばれ、税理士として仕事をする上で必要な知識です。将来を見据えて受験時に学んでおく人が多いのだと思います。

国税4法以外の税法(ミニ税法と呼ばれます)は実務で頻繁に使用する知識とは言い難く、それゆえに受験者数が少なめなのだと思います。その反面、合格に必要とされる勉強時間は相対的に少なくその点は魅力です。
ちなみに国税徴収法は、以前は所得税法よりも受験者数が少なかったのですが近年は上回る傾向にあります。

科目によって受験者数の多寡に差はありますが、合格率には大きな差はありません。
そうすると他の受験生から一歩抜きん出るためには相応の勉強量が必要であることは言うまでもありません。

勉強を積み重ねるためにも、受験生の皆様が適切な科目を選択できることを祈念しております。

【執筆者紹介】

東山 穣(ひがしやま・ゆたか)

神戸大学農学部応用動物学科卒業。
『金持ち父さん貧乏父さん』に感銘を受けて、お金儲けに興味を持ち簿記の勉強を始める。
現在は製造業の経理として従事。
著書に『とある会社の経理さんが教える 楽しくわかる!簿記入門』(日本実業出版社)などがある。
Youtubeチャンネル「とある会社の経理さん」で税理士試験対策動画を配信。
X(旧Twitter・@soltaril)では日々の育児漫画を公開。


関連記事

ページ上部へ戻る