12月会計士試験短答式に向けて、今最も重視して取り組むべきは「計算力強化」! では何をすればいい? 福岡大学・滝沢凜先生からのアドバイス


滝沢凜(福岡大学助教)

【編集部より】
6月23日(金)の合格発表を受けて滝沢先生に、以下の記事を執筆いただきました。
「令和5年第Ⅱ回会計士試験短答式合格発表! 12月にリベンジする受験生は今から何をする?―福岡大学・滝沢凜先生にきく」
上記の記事では、12月の短答式でリベンジを目指す場合これまでの勉強の反省をすべきとのアドバイスをいただきましたが、具体的にはまずはじめに何をすべきか?
会計士・短答式試験では、「財務会計論」のウェートが大きく、得点源にできればグッと合格に近づきます。
そこで、本稿では財務会計論、特に計算力を強化する意義と具体的な方法についてアドバイスをいただきます。

本稿では、令和6年第Ⅰ回短答式試験に照準を合わせる受験生に向けて、財務会計論の計算力強化に役立つアドバイスを行います。

財務会計論(計算)の重要性

得点の比重

ご存じの通り、短答式試験は、500点満点のうち200点(40%)を財務会計論が占めています。これが意味することは、「他科目で成功しても、財務会計論で足を引っ張ると不合格」ということ。裏を返せば、「他科目で失敗しても、財務会計論で巻き返せれば合格」とも考えられます。

ここで、財務会計論の中でも特に力を入れるべきは、計算(簿記)でしょう。必ずしも「計算問題が出題割合の大部分を占める」というわけではありませんが、計算の知識で正当可能な理論問題が少なくない以上、見た目以上に計算の比重は大きいといえます。

科 目企業法管理会計論監査論財務会計論総合
配 点100点100点100点200点500点
総得点に占める割合20%20%20%40%100%

本試験の時間割

短答式試験において財務会計論が最終科目(4科目め)であることにも、注目してほしいところ。

例えば短答式2科目めである管理会計論は、問題量の割に試験時間がタイトであることから、当日のコンディション次第では、思いがけない大失敗も想定されます。ここでの最悪の事態は、パニック故に集中力を欠いて、負の連鎖が起きること。しかし、もし仮に「この後、得意科目の財務会計論でひっくり返せる」という自信があれば、精神を安定させることができるかもしれません。

なお、短答式財務会計論の理論問題については、重箱の隅をつつくようなものも想定されます。したがって、財務会計論を「総合得点の安定化装置にする」という意味においては、計算力の強化が効果的であると考えます。

丸暗記ではない「理解」が重要

経済事象を理解する

世界遺産・日光東照宮には、象を一度も見たことがない狩野探幽(かのうたんゆう)が下絵を描いたとされる、「想像の象」と呼ばれる彫刻があります。この象には、長い鼻や大きな耳(実際の象の特徴)がみられますが、ふさふさした毛並み(実際の象にはない特徴)もまた印象的。どこまで忠実に象を描こうとしたのかは分かりませんが、もし忠実性を追求するならば、実物を知ることは重要なファクターかもしれません。

さて、米国の財務会計基準審議会(FASB)が「財務会計諸概念に関するステートメント第2号」において示すように、経済事象に基づく財務諸表を、地形に基づく地図のように「写像」と捉える考え方があります。ここで、企業会計基準委員会から公表された「討議資料 財務会計の概念フレームワーク」が、質的特性として「表現の忠実性」を挙げることから、わが国の会計基準は、経済事象(本体)を財務諸表(写体)へ忠実に写像するものと考えることができます。

したがって、会計基準の理解を深める上で、経済事象(本体)を理解することは、必要不可欠といえるでしょう。例えば、「ストック・オプションが付与され、行使される」という経済事象(本体)をイメージできなければ、「ストック・オプション等に関する会計基準」に基づいて自由自在に仕訳(写体)を作成することは難しいはずです。

もちろん、予備校で教わる計算用下書き(タイムテーブル等)を“丸暗記”して“機械的に”当てはめるという攻略法も考えらます。しかし、当該手法については、「①すぐ忘れる」および「②変化球に対応できない」というデメリットが容易に想像できるはず。また、論文式試験では、短答式のように選択肢の中に正答がある訳ではありません。故に、「ふわっと」解いてしまうと、出した解答に自信を持てないという怖さがあります。

「直感に反する」会計処理をつぶしていく

財務会計論の学習を進めていく中で、「直感に反する」会計処理と出会うことがあるかもしれません。例えば、甲社(上場会社)が甲社株式(自己株式)を1,000円で取得するとき、AとBのどちらの仕訳が採用されるでしょうか。

<A>

(借方)自己株式株主資本】1,000(貸方)現金預金【資産】1,000

<B>

(借方)自己株式【資産】1,000(貸方)現金預金【資産】1,000

答えはA。「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準」は、自己株式の取得について、「株主との間の資本取引であり、会社所有者に対する会社財産の払い戻しの性格を有する」ことから「資本の控除」として扱うとしています。

しかし、甲社株式が、他の有価証券と同様に換金性を持つこともまた事実。したがって、自己株式を資産計上しないAの仕訳について、「直感に反する」と思う方もいるはずです。

大事なのは、この「直感に反する」という感覚。あらゆる「直感に反する」会計処理について、その理由(結論の背景)を詰めて納得していけば、仕訳について迷う頻度は減っていく(初めて見る問題に強くなる)はずです。

付け加えると、解法を丸暗記している限りは、「直感に反する」という体験はできないと思われます。

理解すべき論点

重要度をすり替えない

会計士受験の鉄則は、予備校の提示する「重要度」に応じた学習。しかし、受験生の中には「複雑怪奇だから」「出てもどうせ解けないから」という理由で、Aランク論点をおろそかにしている方も少なくないのではないでしょうか。 

都合の良い拡大解釈で、重要度をすり替えるのは禁物。私自身もすり替えにすり替えていた時期があったのですが、そうしている間、財務会計論の得点率が6割に届くことはありませんでした。

5月短答式から次の12月短答式までは、ある程度時間があります。連結会計や組織再編会計をはじめとする、理解に時間のかかる重要論点について、じっくり腰を据えて向き合うのはいかがでしょうか。

【執筆者紹介】

滝沢凜(たきざわ・りん)

福岡大学商学部経営学科助教
2018年、早稲田大学4年次に公認会計士試験合格(5月短答式・8月論文式)。2019年以降、大学院修士課程・博士後期課程に在籍しながら、有限責任監査法人トーマツ・パブリックセクター・ヘルスケア事業部において監査業務に従事(2022年9月まで)。2023年より福岡大学に着任。1年生および2年生を対象としたゼミナールを受け持つほか、「会計専門職プログラム」担当教員として公認会計士受験生の指導にあたっている。


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