ベンチャーCFOってどんな仕事? 【第1回】求められる能力とキャリア


井上直樹
(CFO-Partners株式会社代表取締役・公認会計士)

【編集部より】
難関資格の受験勉強では、モチベーションの維持も大切だとよくいわれます。その方法は人によって様々ですが、「将来の自分の姿を考える」ということも効果的です。また、合格後も、自分の将来やキャリアについて考える機会はあるはずです。
そこで、特に公認会計士のキャリアモデルの一つとして挙げられることの多い、「CFO(最高財務責任者)」について、社外CFOとしてさまざまな企業をサポートする井上直樹先生(CFO-Partners株式会社代表取締役・公認会計士)に、全3回にわたり、その仕事の内容と役割について解説いただきます。
・第1回:CFOに求められる能力とキャリア
・第2回:「攻めの分野」で果たす役割
・最終回:「守りの分野」で果たす役割
いま勉強をしている会計の知識が実務でどう活かせるかも垣間見ることができ、より高いモチベーションで机に向かえるようになるはずです!

そもそもCFOって何??

CFOとは、”Chief Financial Officer”のことで「最高財務責任者」とも呼ばれます。

CEO(最高経営責任者)の右腕として会社の財務戦略に携わり、企業を成長させていくポジションです。会社の中における財務・会計に関するトップのポジションであるため、会計に携わる方であれば、目指すキャリアの1つとしてあがることも多いのではないでしょうか。

今回は、将来的にCFOというキャリアも視野に入れたいという方やCFOと一緒に仕事をする可能性があるという方など向けに、CFOに求められる能力や具体的にどのような業務を行うのかについて記載していきます。

CFOに必要な能力とは?

まず、CFOになるためには、どのような能力が必要なのでしょうか。あくまで私の経験上ですが、過去にCFO業務を行って必要だった能力(あってよかった能力)をまとめると下記のとおりです。

財務、会計に関する能力

言わずもがなですが、財務や会計に関する知識や経験は必須です。財務諸表を作る場合、事業計画を作る場合、その他CFO業務と財務、会計に関する力は切っても切れない関係にあります。基本的な会計知識に加え、損益計算書、貸借対照表、キャッシュ・フロー計算書を作る力等が必要となります。

理解力

CFOは会社のビジネスモデルに加え、他の部署で何をしているか、その部署では今後どんな事を必要としているか、会社外部の市場環境はどのような変化があるか等、財務や会計に無関係に思える領域も理解する必要があります。そういった意味で、理解力というのは非常に重要な能力になります。

交渉力

資金調達や投資意思決定の際に必須になってくるのが、交渉力です。特段交渉の専門家というほどの能力値は必要ありませんが、最低限「数値を根拠として合理的に説明し、相手に伝える 」という能力は必要になります。

リーダーシップ、マネジメント力

CFOは部下を抱えるポジションです。彼らの能力値を最大限発揮し、会社としてのパフォーマンスを上げる必要があります。個人プレーではなく、会社全員を巻き込むようなリーダーシップ、マネジメント能力が必要になります。

教える能力

自分だけが知っている、できるという状態では、会社としての力になりません。自分の知っている知識、経験をもとに、それを部下に伝えて育てていくことも重要な業務です。

エクセル、スプレッドシート、パワーポイント等の能力

会計的な知識や能力ではありませんが、実作業を進めるうえではエクセルやスプレッドシート、パワーポイントは多々使います。データの持ち方や関数、ショートカット等ある程度使えるようにしておきましょう。
また、これらを正確に素早く使えることにより作業時間が減り、より重要な「考える」という仕事に時間を使えるようになります。

CFOになるためのキャリアは?

では、CFOになるにはどのようなキャリアを歩むのがいいのでしょうか? もちろん一概にはいえませんが、下記のキャリアを経てCFOになる方が多く、それぞれ強み弱みがあるといわれます。

①投資銀行出身
 強み:他社の買収等に関する投資意思決定が優れている
 弱み:会計処理や業務フローに詳しくない場合が多い

②銀行、証券出身
 強み:資金調達に優れている
 弱み:会計処理や業務フローに詳しくない場合が多い

③会計士出身
 強み:会計処理や業務フローに詳しい
 弱み:資金調達に詳しくない場合が多い

④経理・経営企画出身
 強み:経理や経営企画実務を幅広くやっているため、プレイングマネージャーになれる
 弱み:実務に追われ、専門的な知識が少ない場合がある

どの出身のCFOがよく、どの出身のCFOが悪いということはありません。人間である以上必ず強み弱みがありますし、実際にCFOになった後に弱みを補強して活躍される方もたくさんいらっしゃいます。

ただ、それぞれ「こんな会社に向いている」という傾向はありますので、実際にCFOを目指す場合には参考にしてみてください。

①投資銀行出身
投資意思決定に優れているため、投資機会が多く規模が割と大きい買収等を積極的に行う会社のCFOになるのがおすすめ

②銀行出身、証券出身
資金調達が得意なので、赤字を掘ってビジネスを大きくしたいと考えている会社(製造業、Saas等)のCFOになるのがおすすめ

③会計士出身
会計処理等に詳しいため、あまり赤字を掘らない労働集約型ビジネス(コンサルティングファーム等)のCFOになるのがおすすめ

④経理・経営企画出身
幅広い分野での経験があるため、それまでに培ってきたノウハウや経験次第で業種を問わずCFOになれる。

CFOの業務とは?

いよいよ、ここからはCFOの業務についてお話しします。
一言でCFO業務を表すと、‟財務・管理面から企業価値の最大化を行うこと”です。企業価値の最大化といっても、漠然としすぎているので分解していきましょう。

CFOが企業価値を最大化するためには、①攻めの分野②守りの分野があります。

攻めの分野は、企業価値の成長(+)を促す(+)ことで企業価値を向上させることです。一方、守りの分野は、企業価値の棄損(ー)を減らす(ー)ことで企業価値を向上させることです。CFOはこれらを同時に行うことで企業価値の最大化を図ります。

攻めの分野、守りの分野ともに無数にありますが、そのうちCFOにとって特に重要とされるものを①攻めの分野②守りの分野に分けて紹介します。

①攻めの分野

事業計画の作成

会社の成長を促すような成長戦略を練り、それに沿った事業計画や予算等を作成します。予測損益計算書だけでなく、予測貸借対照表や予測キャッシュ・フロー計算書まで作成します。この計画をもとに、今後の会社の経営が決まりますので、CFOとしての最重要ミッションでもあります。

予実分析の実施

立てた予算と実績(月次損益等)を比較して、差異を分析します。当初計画を立てたときの仮定をもとに、何が達成できて何が達成できなかったのかを詳しく分析して、今後の行動を変えていくために行います。

資本政策の立案

エグジット(IPOやM&A)に至るまでに、どのタイミングでどれほどの株を発行し、いくら調達するかの戦略を練ります。事業計画と比較しながら将来的にいくら調達する必要があるかを踏まえながら資本政策を立案する必要があります。

資金調達の実行

事業計画をもとに資金需要を適切に見積もり、必要なタイミングで必要な金額を調達します。調達しすぎると経営者の持分比率が下がったり利息を多く払うことになるため、調達額の決定には十分な検討が必要です。

投資意思決定

投資に関して財務的な面から意思決定を行います。他社や他の事業の買収といった大がかりなプロジェクトから、既存事業に対してどの分野にいくら使うかまで幅広い意思決定があります。

②守りの分野

財務諸表の作成

会社の実態を表す適切な財務数値を作成します。経営者が早期に意思決定できるように毎月の月次決算を早期化したり、ビジネスモデルを適切に把握して、会計基準に沿った会計処理を行います。

資金繰りの把握

資金ショート等が起きないように資金繰りを把握します。赤字が出ていてもお金があれば倒産しませんが、黒字であってもお金が足りなければ倒産してしまいます。常日頃の資金管理をしっかりと行うためにも資金繰りの把握は非常に重要な業務になります。

業務フローの構築

業務がミスなく円滑に進むような適切な業務フローを整えます。受注してから入金に至るまでの流れや、発注してから支払に至る流れについて、『いつだれが何をするか』を明確化し会社全体でその業務フローにしたがって業務を行うよう浸透させます。

規程の整備

従業員向けの社内規程等を整備し運用します。規程により会社のルールを明文化することで、従業員と会社のトラブルを防止したり、従業員が行うべきことが明確化されます。

攻めの分野・守りの分野の業務については、第2回、第3回でより詳細に解説します。

最後に

今回は、CFOのすること、必要な能力、キャリア等全体像を記載していきました。次回以降では、CFOのすることをさらに深堀して解説していきますので、CFOに興味を持った方はぜひ読んでみてください。

<執筆者紹介>

井上 直樹(いのうえ・なおき)

CFO-Partners株式会社代表取締役・公認会計士
慶應義塾大学商学部卒業。大学在学中公認会計士試験合格後、井上直樹会計士事務所設立。資格の学校TACにて公認会計士講座の講師を務めるともに、監査法人にてIPO監査や内部統制構築業務に従事。大手上場企業からベンチャー企業まで幅広く携わる中で、ベンチャー企業特有のスピード感や成長速度に惹かれベンチャー企業のサポートを行うと決意。2020年CFO-Partners株式会社を設立し、公認会計士による社外CFO業務等を数十社に対し提供している。


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