【編集部より】
税理士試験の受験者を見ると、大学生世代は少数派であるものの一定数おり、中には大学在学中に官報合格を達成する人もいます。
静岡産業大学専任講師の石垣美佳先生は、税理士資格のことさえ知らなかったようなフツーの学生を、在学中に税理士試験・官報合格や科目合格に導いているとのこと。では、なぜ短期間で合格できるのでしょうか。
社会人に比べて時間に余裕があるという理由以外にも何か秘訣があるのではないか、ということで、今回は、同校の卒業生でもあり、自身の受験時代から交流のある田中晃広先生(税理士)との対談を通して、短期合格する人としない人の違いや簿記論合格の鉄則を探ります。
後編は、「合格に近づくために普段の生活から意識すること」についてです。
自分から覚悟をもって行動するようにサポート
田中先生 前編では、簿記論に短期合格する秘訣と勉強に対する姿勢についてお話を伺いましたが、たとえば、知識ゼロから税理士を目指すという時に、モチベーションを維持するために普段から何か心がけていることはありますか。
石垣先生 もし、学生から「会計を活かす仕事は何がありますか」と聞かれれば、「税理士や会計士という資格があって、先輩もそこで活躍しているので、そういう道を考えたらどうか」と伝えて、本人が自分で覚悟をもって、やりたいと思ったら目指すことを勧めています。
「皆がやっているから自分もやる」というきっかけでは続かない試験ですからね。
専門学校の講師時代から、受講相談を受ける数は多いほうだったのですが、全体の人たちにむけて「1日何時間勉強してください」ということもありますが、それよりも、それぞれの環境があるので、一人ずつの様子に合わせてアドバイスをするように心掛けています。
私自身は何もできないですけど、ある程度近くにいて、「大変だ」と言われたら話を聞いてあげたり、私も勉強していることがあるので、「先生も頑張っているから頑張ろう」と思ってくれたりしたらいいなと思って、なるべく一緒に過ごしています。
田中先生 そうなんですね。僕は専門学校では、友達を作らないオーラを出して、追い込んで勉強していたので、受験勉強には「理解者」というものも大事な存在だなと思いますね。
石垣先生 私はあまりそういうのは気にせず話しかけてしまうほうなのですが、でもやっぱり言われてみたら、田中先生が最後に合格した年はどことなく明るかったというか、普段から違っていたかもしれないですね。おそらく、普通の状態で、自然なまま試験に臨むことができたんだと思います。
やはりある程度近くにいると、普段の会話や生活から、合格する人、しない人というのは見ていてなんとなくわかります。
食べ物でも同じですが、勉強でも、苦手なものを好きになることは難しいですが、普通のレベルにはもっていくようにしようねという話をよくします。そのためには、普段から見ていないと、「ここが苦手だな」などはわからないですからね。
繁忙期を乗り切ろう! 勉強以外のことでペナルティを考える
田中先生 これから会計業界は繁忙期に入ってくるので、会計事務所で働く受験生は残業を余儀なくされて、それでも受験勉強をしないといけないというジレンマに陥りがちになりますが、そんな時こそオススメの勉強法はありますか。
石垣先生 以前から言っていることとしては、「やらない日は作らない。どんなに忙しくても、調子が悪くても、個別問題1問でもいいから、問題に触れましょう」ということです。
在学中2年間で官報合格した学生も、「人間は朝昼晩にご飯を食べる。それと同じように、習慣して勉強する。ご飯を食べるんだから、たった5分だとしても、勉強だって同じようにルーティン化できる」ということを言っていて、逆に私も学ばされましたね。
もう1つは、「本当になりたいのか」という気持ちだと思います。「いずれ税理士になれればいいな」という気持ちでも悪くはないのですが、やっぱり気持ちが強いほど、勉強に対して必死になると思うんですね。
田中先生 そうですね。
石垣先生 あと、これはちょっと視点が変わりますが、「ケアレスミスをしたときにペナルティを自分で課したらどうですか」とアドバイスしたことがあります。
すると、駅まで自転車を利用している受験生が、「ケアレスミスしたら歩いて行く」と自分に課したとたん、ミスしなくなったんです。
他にも、どうしてもケアレスミスが多い受験生がいて、その人は「私に焼き肉を奢る」と宣言してくれたのですが、結果的にご馳走になることはなかったんです。残念ですが、いい話ですよね(笑)。
このペナルティは、「勉強から離れたこと」で設定するほうがよくて、特に答練や模試での成績は優秀なのに本試験でつまずいている人にオススメです。
要は自分だけに課すペナルティじゃなくって、「相手に何かをしないといけない」というペナルティがすごくいいんですよね。ちょっと変わったアドバイスですけど効果ありますよ。
田中先生 そういった意味では、ケアレスミスした場合だけでなくても、「今日勉強しなかったら、家族にアイスを買って帰る」といって、勉強を習慣化していくのもよさそうですね。
今、僕が受験生と話す時にお伝えしているのは、「受かった自分」を想像するのではなくて、「税理士バッジをつけて働いている自分の姿」を想像してごらんと。
さらにいえば、どんな事務所で、どんな仕事をしていて、どんな仲間たちと働いているのかまでリアルに思い浮かべられるといいですよね。そういう終着点をちゃんと設定しないと、そこに至るまでは分岐がいっぱいあるので、路頭に迷うことになってしまいますから。
そういった意味ではメンタルというのは受験勉強においてとても大事な要素になると多います。
簿記論は「素直さ」がもっとも問われる科目
田中先生 前編では、一発合格する人は素直だというお話がありましたが、ただ、受験の回数が増えたり、単純に年を重ねていったりするだけでも、どんどん頑なになってしまって、「素直さ」が減っていくのも悩ましいところですよね…。
石垣先生 年齢を重ねていけばいろんな知識が入りすぎて、素直だけではいられなくなるのはどうしても当たり前のことだとは思います。その中で、やっぱり一番、素直さが問われる科目なのが簿記論なんですよね。
田中先生 僕も、何年も、何年も、「僕記論は最後に残しちゃいかん」と言われ続けましたし、今、税理士仲間と話していても、「やっぱり簿記論を最後に残すと辛いよね」と経験者は皆、言いますね。それってどうしてなんでしょう。
石垣先生 簿記論って、問題によって解く順番が違って、問題に合わせて勉強していかなければならないところがあるので、教える側も受ける側も「体力勝負」のところが正直あります。
だから、税理士試験の科目の中でも、簿記論に関してはスポーツだと私は思っています。スポーツ選手がトレーニングをするように、簿記論の問題を解く時は、時間を測らないといけない、毎日繰り返し取り組まないといけない。そうしないと、忘れてしまうし、体が覚えていないんですよね。
やはり人間ですから、どうしても年齢を重ねていくと、体力的にスピードが落ちてしまいます。簿記論は、「スピード」と「ボリューム」からくる日々の練習量というのがとても大切な科目ですので、早い段階で合格できると良いなと思います。
田中先生 そういった意味でやはり簿記論を後に残すのは得策ではなく、やはり簿記論から受かったほうがいいということになるんですね。
石垣先生 そうですね。「二兎を追う者は一兎をも得ず」ということわざがありますが、税理士試験においては必ずしもそうでないと思っています。
よく税理士試験を始める時は、1年で1科目ずつという受験計画を立てられる人が多いと思いますが、実際にその計画通りにいくことって少ないですよね。特に、簿記論と財務諸表論に関しては、二兎追ってセットで勉強するほうが効率的なのではと思います。
田中先生 ぜひ今回の対談内容を素直に受け止めていただき、これから本試験まで講師のアドバイスを素直に実践することで、合格を勝ち取っていただきたいと思います。
本日はどうもありがとうございました!
【対談者紹介】
石垣 美佳(いしがき みか)
静岡産業大学専任講師
高校までは全く簿記というものを知らず、その後簿記に出会い専門学校に就職し講師となる。主に税理士科目の簿記論を担当。自身が税理士試験の勉強をしていた時に一番好きではなかった科目を担当することになるが、今では簿記論に愛着がある。
家業を継承するため、いったん簿記の世界からは離れるが、やはり「教える」ということを忘れられず、高校や専門学校の非常勤講師を経て、現職となる。
静岡産業大学は大学でありながら資格取得にも力を入れ、その結果、在学中官報合格者や一部科目合格者、簿記検定合格者を輩出することができ日々学生と一緒に目標に向かっている。
田中晃広(たなか あきひろ)
税理士
1979年静岡県生まれ静岡県育ち。大学4年生の頃ダブルスクールで税理士受験をしていた友人に感化され就職の内定を蹴って税理士を志すが日商簿記3級に4回不合格。大学卒業後2年を費やして日商簿記2級に合格し、会計事務所に勤務しながら税理士試験の勉強を続け17回目の正直で簿記論に合格。2020年に税理士登録し「ひとり税理士」として独立開業。
雇われない・雇わないスタイルで長過ぎた受験生活で失ったものを取り戻すべく自由を謳歌している他、税理士になるまでに18年を費やした経験を生かして税理士受験生の支援にも注力している。
趣味はゴルフ、ソロキャンプ、カフェ巡り等。
・事務所ホームページ
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