【税制改正大綱公表!】令和5年度の税制改正が、税理士試験に与える影響は!?

国会 税制大綱 

【編集部より】
令和5年度の税制改正大綱が12月16日に公表されました。
主な内容は各種メディアでも報じられていますが、受験生が気になるのは「税理士試験に影響はあるの?」ということ。
そこで税理士の井上幹康先生に、今年度の税制改正大綱が税理士試験(法人税法・消費税法・所得税法・相続税法)に与える影響を「影響度大☆☆☆~影響度小☆」でまとめていただきました。
この記事を読んで、令和5年度はどのような税制改正が行われるのか、受験予定の科目に影響はあるのかをチェックして、学習の参考にしてください。

井上幹康(税理士・不動産鑑定士)

法人税法

研究開発税制の制度見直し・期限延長(大綱p59‐63)【影響度☆☆☆】

研究開発税制について制度見直しおよび期限延長の改正が行われます。研究開発税制のうち税理士試験との関係で重要度の高い中小企業者が適用できる中小企業技術基盤強化税制について、改正内容をピックアップすると以下のとおりです。

①増加試験研究費割合が9.4%を超える場合における特例

増加試験研究費割合が12%を超える場合に次のとおりとする特例に見直した上、適用期限を3年延長する。
・税額控除率=12%+(増加試験研究費割合-12%)×0.375(最大17%は現行と同じ)
・控除税額の上限に当期の法人税額の10%を上乗せ

②試験研究費の額が平均売上金額の10%を超える場合における税額控除率の特例および控除税額の上限の上乗せ特例

適用期限を3年延長する。

③コロナ前(2020年2月1日より前に終了する事業年度)と比較し、売上が2%以上減少しているにもかかわらず、試験研究費を増加させる場合、中小企業技術基盤強化税制の控除上限を5%引上げる特例

適用期限の到来をもって廃止する。

研究開発を行う中小企業者にとって税額控除が受けられる制度で実務上の重要性は高いです。税理士試験的では、理論だけでなく計算対策としても改正後の計算式を押さえておくことが重要かと思われます。現行制度と比較して確認してください。

消費税法

適格請求書等保存方式(インボイス制度)に係る見直し(大綱p77‐79)【影響度☆】

消費税法の改正としては、インボイス制度絡みの改正が盛り込まれていますが、いずれも令和5年10月1日以降の話がメインですので、直近の令和5年税理士試験への影響度は小さいとみて☆1つとしました。筆者の推測ですが、インボイス関連の問題が本格的に出題されだすのは制度適用開始後の令和6年税理士試験からになると思います。

所得税法

NISAの抜本的拡充・恒久化(大綱p23‐26)【影響度☆☆】

改正の概要について、以下自民党HPで公開された税制改正大綱から引用します。

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NISAは若年期から高齢期に至るまで、長期・積み立て・分散投資による継続的な資産形成を行えるよう、非課税保有期間を無期限化。新たに「成長投資枠」を創設し、年間投資水準を現行の計120万円から3倍となる360万円に拡大します。生涯にわたる非課税限度額も現行の800万円から1800万円に拡大。「貯蓄から投資へ」の流れを強力に推進します。

―――

大綱を読む限り、適用時期はおそらく令和6年からになると思われます。令和5年の税理士試験で改正内容が直接問われることはないかと思われますが、改正前の現行制度について最後に令和5年税理士試験で出題してくる可能性も鑑みて、現行のNISA制度の重要度が例年より高まるのではないかという意味で☆2つとしました。

空き家に係る譲渡所得の3,000万円特別控除の特例の見直し・期限延長(大綱p33)【影響度☆☆】

①適用対象の範囲拡充

被相続人居住用家屋の一定の譲渡、又は、当該被相続人居住用家屋とともにその敷地等の一定の譲渡をした場合、当該被相続人居住用家屋が譲渡時から譲渡年の翌年2月15日までの間に次の場合に該当することとなったときは、本特例を適用することができることとされます。

イ 耐震基準に適合することとなった場合

ロ その全部の取壊し若しくは除去がされ、又はその全部が滅失した場合

現行特例では、家屋を売却または家屋とその敷地を売却する場合は、売却時に家屋が耐震基準に適合していることが要件の1つでしたが、売却時から売却年の翌年2月15日までの間に耐震基準に適合することとなった場合も特例の適用が受けられることになります(上記イ)。
また、現行制度では、家屋を取り壊して更地として売却する場合は特例適用の対象とされていましたが、売却時から売却年の翌年2月15日までの間に家屋を取り壊した場合も特例適用の対象とされることになります(上記ロ)。

②特別控除額の縮小(課税強化)

被相続人居住用家屋及びその敷地等を取得した相続人の数が3人以上である場合における特別控除額を2,000万円とする。

現行特例は譲渡所得の特例の1つとして実務上の重要性は高いですが、①②ともに適用開始時期令和6年1月1日以後ですので、令和5年の税理士試験で改正内容が直接問われることはないかと思われます。ただし、改正前の現行特例について最後に令和5年税理士試験に出題してくる可能性も鑑みて、現行特例の重要度が例年より高まるのではないかという意味で☆2つとしました。

令和3年民法改正もそうですが、所有者不明土地をこれ以上増やさないために、できるだけ不動産の共有をさせない、共有を解消させる動きがあるので、複数の相続人が共有取得するような場合には控除額を縮小させることで、安易に共有にさせないように誘導しているのではないかと思われます。
いずれにしても、空き家3000万円控除の特例の適用をあらかじめ予定しているのであれば、遺言や遺産分割で3人以上の共有取得にならないように税理士からクライアントに注意喚起する必要があると思われます。

相続税法

相続時精算課税制度の使い勝手向上(制度拡充)(大綱p42)【影響度☆☆】

①相続時精算課税制度の適用後に行う贈与について基礎控除110万円までは課税されず、相続時に足し戻されないこととされます。

感覚的には、暦年贈与の基礎控除110万円が、現行の相続時精算課税制度に組み込まれたようなイメージです。

110万円までは相続時の足し戻しも行われないとのことですので、相続時精算課税の選択の増加が予想されます。

②相続時精算課税で贈与された一定の土地又は建物が、当該贈与日から相続税申告書の提出期限までの間に被災した場合、相続時に足し戻される贈与財産の価額は、贈与時の価額から被災した部分に相当する額を控除した残額とされます。

現行の相続時精算課税制度では、贈与時から相続時までに被災した場合や建物が滅失した場合でも贈与時の価額で足し戻しが行われることとされていましたが、今回の改正により、被災した場合の減価分を足し戻す価額の計算上控除できることとなり、現行制度の短所が少し改善された形になります。

①②ともに現行の相続時精算課税制度を拡充する改正であり、今後、相続時精算課税制度の利用者数の増加が予想され、実務上も重要性は高いですが、適用開始時期がともに令和6年1月1日以後ですので、令和5年の税理士試験で改正内容が直接問われることはないかと思われます。ただし、改正前の現行制度について最後に令和5年税理士試験に出題してくる可能性も鑑みて、現行の相続時精算課税制度の重要度が例年より高まるのではないかという意味で☆2つとしました。

暦年贈与における生前贈与加算の加算期間等の見直し(課税強化)(大綱p42)【影響度☆☆】

いわゆる生前贈与加算の加算期間が現行の3年から7年に延長されます。ただし、過去に受けた贈与の記録・管理に係る事務負担を軽減する観点から、延長された4年間に受けた贈与のうち100万円については相続時に足し戻さないこととされます。

現行の生前贈与加算について課税を強化する改正であり、実務上も重要性は高いですが、適用開始時期が令和6年1月1日以後ですので、令和5年の税理士試験で改正内容が直接問われることはないかと思われます。
ただし、改正前の現行制度について最後に令和5年税理士試験に出題してくる可能性も鑑みて、現行の生前贈与加算の加算の重要度が、例年より高まるのではないかという意味で☆2つとしました。

〈執筆者紹介〉
井上 幹康(いのうえ・みきやす)

天気予報のできる理系税理士 兼 不動産鑑定士
理系大学在学中に独学で気象予報士試験に一発合格したものの、その資格を生かした就職は叶わず。その後社会人となった後に理系から急遽方向転換し、働きながら4年で税理士試験官報合格を果たす。開業税理士として税務に従事すると同時に不動産鑑定士試験にも一発合格。現在は税理士と不動産鑑定士の二刀流で活動中。税理士向けセミナー講師や執筆活動も行っている。著書に『頻出事例・スキームにみる 非上場株式の評価Q&A60』『税理士のための不動産鑑定評価の考え方・使い方』(中央経済社)がある。

井上幹康税理士不動産鑑定士事務所HP:http://mikiyasuzeirishi.com
note: https://note.mu/mikiyasuzeirishi


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