🎍年末年始に本を読もう! 山口朋泰先生(中央大学教授)がオススメする課題図書📚


【編集部より】
早いもので2022年も年の瀬。まだ正月休みのことを考える暇はあまりないかもしれませんが、でも貴重な時間なので今のうちに少しずつ準備をしておきたいところですね。
そこで、本企画では、学者・実務家など10人の読書愛好家から、会計人コースWeb読者の皆さんにオススメする「年末年始の課題図書」をご紹介いただきました(1日お一人の記事を掲載していきます・順不同)。
受験勉強はもちろん、仕事や人生において新しい気づきを与えてくれる書籍がたくさんラインナップされています。ぜひこの機会にお手にとってみてください!
今回の記事では、ご著書『日本企業の利益マネジメントー実体的裁量行動の実証分析』が今年日経経済図書文化賞、日本会計研究学会太田黒澤賞、日本管理会計学会文献賞と3つ受賞し、今年もっとも注目された会計学者の一人といえる山口朋泰先生(中央大学)に課題図書をお薦めいただきました!

先月11月は,公認会計士論文式試験や税理士試験の合格発表,簿記検定試験があり,会計関連の資格取得を目指している受験生の皆さんにとって大事な時期だったと思います。
資格試験では,合否を分ける1点は大変重要です。例えば,日商簿記検定は70点で合格ですが,69点だと不合格になってしまいます。
もし69点で不合格だったら,「あと1点加えたい」と思うことでしょう。
当たり前ですが,実際にそうすることはできません。

企業の経営者にとっては,経営成績の中でも利益の「黒字と赤字」,「増益と減益」などの分岐点が非常に重要になります。
なぜなら,黒字や増益の場合と比べて,赤字や減益になると経営者解任,経営者報酬減額,株価下落といった事象を引き起こしやすいからです。
そのため,赤字や減益になりそうな時,経営者は「利益を調整したい」と考えることでしょう。
その際,経営者はルールに違反しない範囲で利益を調整することができます(受験生が試験の点数を調整できないのとは対照的です)。

経営者が会計基準の規定の範囲内で利益を調整する行動は,「利益マネジメント」として知られています(利益調整,利益操作,報告利益管理とも呼ばれています)。
今回は,赤字回避や減益回避のための利益マネジメントを解明した書籍を2冊紹介します。

オススメ①『日本企業の利益調整-理論と実証』首藤昭信著、中央経済社

本書は日本企業の利益調整に関する代表的な研究書です。
利益を調整する手段として「会計的裁量行動」に着目しています。
会計的裁量行動は,会計方針の選択・変更や会計上の見積りを操作して利益を調整する行動です。
本書は,赤字や減益を回避するため,経営者予想利益の未達成を回避するために,会計的裁量行動が実施されていることを明らかにしています。
また,どのような動機で会計的裁量行動が実施されているかも解明しています。

会計的裁量行動は不正会計ではありませんが,不正会計を水際で食い止めるためには会計的裁量行動に対する理解が欠かせません。
その意味で,本書は会計専門職を目指す人にとって必読の書と言えます。

オススメ②『日本企業の利益マネジメント-実体的裁量行動の実証分析』山口朋泰著、中央経済社

拙著で大変恐縮です。
本書は利益を調整する手段として「実体的裁量行動」に着目しています。
実体的裁量行動は,研究開発費・広告宣伝費の削減や一時的な値引販売による販売数量増大など,実際の経済活動を操作して利益を調整する行動です。
本書は,赤字や減益を回避するため,経営者予想利益の未達成を回避するために,実体的裁量行動が実施されていることを明らかにしています。

また,本書は実体的裁量行動が将来業績や株価に悪影響を及ぼすことも解明しています。
短期的な利益追求ではなく,やはり長期的視野に立った経営が望ましいということでしょう。
その意味で,本書はコンサルティング業務を行う会計専門職を目指す人に役立つかもしれません。

このように,経営者は会計的裁量行動や実体的裁量行動で利益を調整することができます。
残念ながら,受験生は国家試験や資格試験の点数を調整することはできません。
ただ,「点数を調整できたら良いのに」と考えたことがある人には,経営者の利益マネジメント行動はきっと興味深く感じられるはずです。
また,利益マネジメントの理解は会計実務に対する視野を広げてくれるため,会計専門職を目指している人にとって有益だと思います。
今回紹介した2冊は研究書であり,やや高度な内容を含んでいますが,年末年始の時間がある時に,成績(経営成績)を調整できる会計学の世界に触れてみてはいかがでしょうか。

〇執筆者紹介

山口 朋泰(やまぐち ともやす)
福島大学経済学部卒業。東北大学大学院経済学研究科博士課程後期修了,博士(経営学)。東北学院大学経営学部専任講師,准教授,教授を経て,現在中央大学商学部教授。
<主要著書>
『日本企業の利益マネジメント-実体的裁量行動の実証分析』(中央経済社,2021年、第65回日経・経済図書文化賞,日本会計研究学会第81回太田・黒澤賞,日本管理会計学会2022年度文献賞を受賞)
<主要論文>
“Earnings management to achieve industry-average profitability in Japan.” Asia-Pacific Journal of Accounting and Economics(2022年)。
“A cross-country study on the relationship between financial development and earnings management.” Journal of International Financial Management and Accounting(2018年,共著)。
“Discontinuities in earnings and earnings change distributions after J-SOX implementation: Empirical evidence from Japan.” Journal of Accounting and Public Policy(2017年,共著)。
“Accrual-based and real earnings management: An international comparison for investor protection.” Journal of Contemporary Accounting and Economics (2015年,共著)。


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