TAC講師・小野先生が教える! 「理解」か? 「暗記」か? ~その論争の終着点~


小野 友輔(TAC講師・公認会計士)

【編集部より】
勉強をしていると、理解が先なのか、暗記が先なのかわからなくなることがあるかもしれません。実際に、受験生から講師の方々へそれに関係する相談もよくあるようで、特にマジメな受験生ほど、気にしすぎて前に進めなくなっているとか。自分にとってより良いバランスを早く見つけることで、合格にぐっと近づけるハズ。
そこで、TAC講師の小野先生に、入門期に受験生へ伝えるアドバイスを教えて頂きました。会計士受験生はもちろん、税理士受験生や簿記検定受験生等にもヒントが満載です。

はじめてのギモンにちょうどいい返し

「ママ、どうしてお星様は空に浮かんでいるの?」
「パパ、どうして魚は海の中で息苦しくならないの?」
みなさんは子どもの頃に、この世界のいろんなことに疑問を持ち、両親にこんな問いかけをしたことがあるでしょう。

「それはね、そもそも宇宙は無重力空間で、この地球も含めて万有引力の法則によって引きつけあって運動しているのよ。だから、あの星が浮かんでいると見えるのは相対的な話で・・・」などと子どもに理屈を説明する親は(多分w)いないでしょう。
「そうだね、明日落ちてくるかもしれないわね!(論点ズレ0点)」
「むかしっからずっと浮かんでるのよ(帰納的推論)」
「見てみて、あれが金星よ(話をそらす)」
みたいな感じの返答が子どもにとってはちょうど良いのではないでしょうか。

「われわれ人間を含む哺乳類は肺呼吸しかできないけれども、魚は脊椎動物の中で両生類の一部と共に鰓(えら)呼吸ができる魚類に属しており、魚類は鰓から水中の酸素を体内に取り込むことができて・・・」
頭にさらにハテナが浮かびますね。
「たまに水面に顔出して呼吸してるから!(半分ウソ)」
「そうね、息苦しくてすぐ◯んじゃうんだよ(全部ウソ)」
「ニモかわいー(話をそらす)」
こんな感じのやりとりが想像できますね。

そうです、学習初期の方々は、われわれ講師になった人間も含め、全て最初は何も知らない子どものようなものです。
そこにカッチカチの理詰めで簿記や管理会計を教えていったら何が起きるでしょう。

もう頭の中が大パニック。
簿記の一番最初の講義で五要素の説明の際に、「資産ってね、過去の取引または事象の結果として、報告主体が支配している経済的資源のことなんですよ。それで、支配ってね~」
さぁ、爆発寸前です。

以前の記事でも書いたのですが、学習初期に計算科目から始めるのは、会計学の仕組みを「それなりの理解を持って」肌感覚で習得してほしいからなのです。
もちろん、わたしも会計士の端くれですので、裏にある理屈は理解しています。

ただ、計算科目を解いている際に「必要以上に」理屈が浮かんでしまうことは、時間制限のある試験の中では逆効果であったりもします。
そのため、わたしは、初心者にもすんなりと納得できるくらいの理屈をもって、時には覚えてしまえと割り切った上で、皆さんの頭に残りやすく、キャパシティをオーバーしない程度の分量におさえることを日々考えながら講義をしているつもりです(ここが講師の腕の見せ所!)。

理解と暗記の‟使い分け”と‟バランス”

そこで、簿記における、理解と暗記の使い分け、またそのバランスについてお話していきます。

まず、簿記の理解って何ですか。

「そう考えるのが自然」
「他の理屈と整合的」
こんなところでしょうか。

ここで、あることに気付いてください。理解とは、何かと何かとの関係性、比較論にすぎないのです。
既に構築された理論と整合する(矛盾しない)理屈を説明されると、人はそれを正しい、理解できる、納得できた、と考えるのです。
それでは、新しい論点を習ったときに、理解できたとはどういうことでしょうか。

例えば、現金の範囲を習ったとしましょう。
他人振出小切手も範囲に含むと教わったときに、「他人振出小切手はすぐに換金できるから、簿記では現金と一緒と考えていくんだよ」と教わると、おぉー!ってなりますよね。

・普段目にする硬貨紙幣は現金 
  ⇒だからそれに似たものも同じものとして扱うことは自然

こんなロジックです。
 
では、固定資産の減価償却手続。これを理解するってどういうことでしょう。

10階建てのマンションが、毎年1階ずつてっぺんから消えていって、最後に跡形もなく消えてしまうのであれば納得します。
毎年1階分を費用としようと。
でも実際はそうではない。
なんで費用にするんだろう。
さぁ、こんなこと考えてると、そもそも費用とは?資産とは? 頭グルグルしちゃいませんか。

そこで、「使う期間が決まっていれば、最後には価値はゼロになるね。だから、使う期間でその価値を使い切ったことにして、毎年一定額を費用にするんだよ」
うーん、なんかそんな感じになりそう。
消耗品や商品の論点を学んだ際に、確かに価値があるものがなくなったら費用で処理したな、じゃ同じ感じの処理をするのは整合しているな。

・価値があるものがなくなると費用
  ⇒固定資産の価値がなくなると費用になる。

概ねこういったロジックです。

「この程度の理解」で、あとは具体的な計算方法を習得したほうが良さそうなのはおわかりいただけますか。

あとあとわかることですが、減価償却に対する理解は、この程度ではとてもとても会計士試験は突破できません。
発生主義の考え方、費用、資産の定義、取得原価主義、費用配分の原則などなど。
これら全てが理解できて初めて「理解」です。

ただ、先ほど程度のやんわりとした理解をもとに、さまざまな減価償却の計算練習をすることを通じて、減価償却の考え方というものが身近に感じられるようになり、いつのまにか減価償却は自然な考え方だね、って思えるようになっていませんか。

これって果たして理解なんですかね、暗記なんですかね。
少なくとも、減価償却手続の存在意義や本当の理解はいったん保留して、その計算手続だけを学んでいることになりませんか。

「理解か、暗記か」論争の終着点

むかしっから、「理解が先だ! いや暗記だ!」この論争は広く行われています。
ここまでの議論で感じてほしいのは、「理解」という言葉の定義の問題、単なる線引きの問題だということです。

この議論を行う人の語感や定義により議論は平行線です。
そして、「ある程度の理解」から「受験に必要な理解」にジャンプアップすることは全然可能だし、今までに合格している人は必ずこのステップを踏んでいます。

いいですか、絶対に気をつけなくてはならないのは、「変に理屈を追いかけすぎて、スムーズに勉強が進まなくなること」。
これです! これが一番ダメです。学習初期の時点で浮かんでいる疑問なんて、合格に必要な理屈から見れば取るに足らないものばかりです。

じゃあすべて暗記すればいいのかなぁ。これもダメですよ!

すべてを理屈抜きに長時間、丸暗記できるほどのキャパシティは頭にはないのですから。だから、「ほどほどの理解」をすることで頭に残りやすくしてほしいところもあるのです。

そして、きちっと理解をしてほしいところ(計算ロジックや仕訳の仕組みなど)はしっかりその場で習得をしてもらう必要がありますし、講師はそのあたりは必ず講義で強調しているはずです。

講師を信じて、迷ったら相談しよう!

まとめると、『われわれ講師は論文式試験まで勉強して合格した経験を活かし、その時々で最もわかりやすいと思われる理屈をもって講義をしている。だからそこに対して必要以上に疑問を持たずに、素直に受け入れて学習を進めてほしい。あとあとちゃんとした理解をするための勉強を行うことはできるのだから。』ということです。

専門学校にお金を支払って勉強している一番の意味は、この「理解と暗記の適度なバランスを習得すること」にあるといっても過言ではありません。

われわれ講師が受ける質問にもこの手の話が非常に多いですし、バランスがわからなくなったらすぐに講師に質問してください。
その時期にその人に合ったベストな回答をお伝え致しますので!

【執筆者紹介】

小野 友輔(おの ゆうすけ)

公認会計士
東京大学経済学部卒業。EY新日本有限責任監査法人、小規模税理士事務所、東陽監査法人を経て、現在は、TAC公認会計士講座財務会計論計算科目主任講師、(株)プルータスコンサルティング・コンサルタント。

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