【編集部より】
11月18日(金)に、公認会計士試験論文式試験の合格発表がありました。喜びの声が上がる一方で、試験の現実としては残念な結果だった人もいます。
現実を受け止めるにも時間が必要ですが、次の一歩を踏み出すために何をしたら良いか、植田先生(公認会計士・CPA会計学院講師)にアドバイスをいただきました。
会計士・論文式の合格発表をうけて
編集部 本日11月18日(金)、公認会計士試験論文式試験の合格発表がありました。今年の結果をうけていかがですか。
植田先生 1,456名の方、公認会計士試験合格おめでとうございます。毎年の今日ほど、講師冥利に尽きる日はありません。信じてついてきてくれて、ありがとう。
合格された方は、ここからまた新しいスタートですね!「この試験を乗り越えた自分なら、どんな困難だって乗り越えていける」という自信を胸に、これからもどんどんチャレンジしていって欲しいなと思います。卒業していくのは嬉しいような、悲しいような。でも、これからも陰ながらご活躍を応援してますよ。
一方で残念だった方も、ここからまた新しいスタートですよ!大丈夫。今はまた来年か…と思うかもしれませんが、人生で見るとたった一年弱、後から見ればあの時踏ん張って本当によかったと思う一年弱になります。「絶対に最後にするんだ」という強い気持ちで、一緒に頑張りましょうね。
編集部 この合格発表を受けて、来年の論文式を目指す人、短答式を受ける人、撤退を考える人などいろいろなパターンの受験生がいると思いますが、受験生から相談されたとき、先生はどのように答えてらっしゃいますか。
植田先生 そうですね。僕は基本的に、もし三振だったとしても続けてほしいと思っています。
というのも、短答式の合格は運の要素が多少なりともあるんですけど、論文式は運の要素がほぼ絡まない試験なんですよ。
だから、実力通りに受かっていく試験なんですね。つまり、勉強方法が正しければ、絶対に三振はしない試験なんです。
逆に言えば、論文式に落ちた人というのは、勉強の仕方で何かが間違っているはずなんです。それぐらい論文式には運の要素はなくて、何か勉強法が間違っているわけですから、まずはそこを見つけたいですね。
編集部 論文に落ちる人の共通項はありますか。
植田先生 多くの人は、「財務会計」と「租税法」に弱い傾向があります。僕がいつも言ってるのは、論文式の科目は全てを均等に捉えるのではなくて、実際は財務計算と財務理論で200点、租税法で100点あって、700点中のこの3科目の300点で決まるんです。
財務会計と租税法は努力の科目なので、同じ問題を繰り返し解くとか、自分のミスにしっかり向き合っていくということを、毎日やることで力がつきます。いわば、筋トレ科目なんですよ。
一方で、管理会計、企業法、監査論、経営学(選択科目)の400点は、センスがなくても合格はできるのですが、若干のセンスが必要な要素もあるんです。
でも、筋トレ科目である財務会計と租税法は、単純に勉強を毎日やっていない人がいるので、それなら毎日やるだけで来年受かる可能性はすぐ上げられると思いますよ。
毎日勉強していたのに結果が出なかったなら
編集部 もし財務会計も租税法も毎日勉強をしていた人は何をすればいいでしょうか。
植田先生 その場合は、もしかしたら機械的にやって終わっていたのではないでしょうか。
機械的に同じ問題をひたすら解いて、その問題はできるけど、本試験だったらできないみたいなパターンの人は、それなりにいると思いますが、機械的に同じ問題を回すだけで、きちんと理解ができてないことが多いです。
そこでオススメなのが、「まとめノート」の作成ですね。自分でまとめノートを作れば、気づくことは実は多いと思いますよ。
編集部 どういったまとめ方をすると良いか、ポイントを教えてください。
植田先生 先ほどの勝負を決める3科目の財務計算、財務理論、租税法のうち、財務理論はテキストがまとまっているので、自分でまとめを作る必要はありません。一方で、財務計算と租税法は、まとめノートを作るといいと思います。
網羅的なまとめを作りたいので、実際に僕がやっていたのは、1論点1~2枚のルーズリーフにテキストの要約をまとめるというやり方です。
テキストには数十ページにわたって説明が書かれていますが、例えばリースにはどういう論点があるかを考えると、リースの前払い、後払い、リースの取得価額の決定、セール・アンド・リースバックなど色々と出てくるはずです。
このそれぞれの下書きをフォーマットのような感じでまとめていきます。
そうすると、テストでは30ページ程で説明されていた内容が、1〜2枚のルーズリーフでまとめられるようになります。
それが自分の解き方だというフォーマットを作っていけば、まとめノートの作成に時間はかかりますが、絶対に伸びます。
リースの中でも、この論点はこのフォーマットで解くという型ができるようになるのです。
大事なのは、「一論点ごとに完璧にしていく」という意識ですね。
論文式7科目において、例えば、財務計算や租税法は自分の作ったまとめノートに戻る、一方で財務理論や他の科目は必ずテキストに戻るといったように、要は、自分なりに加工を施した究極の1冊が7科目分作ることができれば、論文式は受かる試験なんですよ。
編集部 そうなんですね。
植田先生 僕の場合は、財務計算と租税法はまとめノートを作っていました。ノートにまとめる過程で自分の頭に入るし、一論点で数十ページにわたる内容を1枚にまとめられたら一覧性がありますよね。
時間はかかりましたが、その効果は大きかったです。
けど、論文式で結果が出ない人は、多分、そうやって論点を1個ずつ完璧にしていく感覚がつかめていないのではないでしょうか。
例えば、答練は何回も回しましたとか、大体そういう人は落ちるんですよ。だから、勉強の方法を見直すところからですかね。
編集部 自分のやり方を振り返るところが再スタートラインなんですね。
植田先生 答練をだいたい覚えたら合格できるだろうと思っていなかったか。機械的にやっていなかったか。ちゃんと理解ができていたか。そもそも計算を毎日やっていたか。どこかに何か落ち度が絶対あると思います。
逆に言うと、それをしなければ、次の年は必ず受かります。正しい勉強法をとれば、短答式試験よりも、論文式試験のほうが合格に導くのは簡単だと思いますね。
今年12月の短答式を受験するなら
編集部 もし三振だった場合は短答式を受験することになりますが、その場合はどのように取り組むと良いでしょうか。
植田先生 短答式を受ける場合はすでに願書を出しているはずなので、特貫工事で12月短答を目指すことになりますよね。
一応、願書を出していて、論文式に落ちていたら受けるという心づもりなので、おそらく論文式の結果が出るまでは、そんなに短答式の勉強に本腰を入れられていないでしょう。
その状態で、あと3週間程度で12月短答の本試験を迎えることになるので、そうするとヤマを絞るしかないですよね。
ヤマを絞って、その論点だけ手持ちのテキストで振り返って間に合わせるしかありません。
編集部 ヤマと言えば、先生の予想は当たると評判ですね。
植田先生 今年も当てたいなと思っているんですけど、11月上旬に僕のYouTubeチャンネル「CPAカレッジ」でアップするので、よければ参考にしてください。
1年後の論文式を受験するなら
編集部 来年の論文式を目指す人は、1年後に向けて勉強法を見直して実践するとよいでしょうか。
植田先生 そうですね。ただ、来年の8月を目標にするとすごく遠く感じるので、4月頃に行われる全国模試で良い成績を取るというのを1つの目標にするといいと思います。
もし今まで勉強を続けていたとしても身が入っていなかったと思いますが、結果がわかって心の整理もついて、割り切って勉強できるようになるでしょう。
僕の場合、撤退する気はなかったので、発表を見て迷うことはありませんでした。
ただ、受験生の中には、撤退するか続けるかという悩みがある人もいると思うんですよね。
これは難しくて…。その難しいというのは、自分で決めきれない要素があるんですよね。
例えば、親御さんが働いてほしいと言っているとか、金銭的な問題とか、色々な要素があるので、当然に強制することはできないのですが、それでも僕はあきらめずに続けてほしいですね。
不安との向き合い方
編集部 不安と向き合うにはどうしたらよいでしょうか。
植田先生 人生は7割の「強く思う事」と、3割の「不安」でうまくいく、と思っています。
不安があるから頑張ることができるので、まずは「絶対合格する」と強く思ってほしいし、精神論みたいになりますが、「思えば叶う」はずです。
僕の場合は、独立したいから公認会計士を目指したのですが、今は実際に夢が叶っています。
実はまだ1つ叶っていないのは、テニスコート付きの家が欲しかったから、会計士になりたかったっていう夢です(笑)。
すごく郊外でいいので、庭にテニスコートのある家が欲しいと、バカみたいですけど言い続けていて、その夢を今だに思いながら、講師としても努力をしているつもりです。
だけど、やっぱり3割くらいは不安なんですよ。例えば、会計士試験に一発合格したような、すごい若手講師がどんどん出てくるので、その優秀な後輩に抜かれるかもしれない…みたいなね。
編集部 植田先生のような人気講師でも、そんな不安を感じられることがあるんですね!
植田先生 プロの世界なので。野球選手でもベテラン選手がルーキーに抜かれて、スタメンの座を奪われるようなことありますよね。
ただ、そんな不安があるから日々頑張ることができている、という面もあるんです。
これは、受験時代も一緒で、落ちるかもしれないという不安に蓋ができるのは、正しい勉強と努力だけなんですよ。
編集部 「強く思う事」が大事なんですね。
植田先生 だから、バカみたいなことでもいいから合格後をイメージしてほしいんです。やっぱり、できるだけ具体的なイメージがいいですよね。
例えば、おしゃれな事務所を作りたいとか、監査法人のオフィスで格好よくバリバリ働きたいとか、憧れのブランドの服を着て丸の内を颯爽と歩く自分の姿とか。本当に「思えば叶う」んですよ!
合格発表を受けて、今は凹んでいるかもしれませんが、近い将来のイメージを「強く思いながら」、この1年で最後の受験にするんだという気持ちで頑張っていきましょう!
編集部 ありがとうございました!
<お話を伺った人>
植田 有祐(うえだ ゆうすけ)
公認会計士・税理士。CPA会計学院講師。
同志社大学経済学部卒業。公認会計士試験合格後、新日本監査法人にて、主に金融商品取引法監査、会社法監査、アニュアルレポート作成業務に従事。その後、植田有祐公認会計士事務所を設立し、決算早期化コンサルティング業務(棚卸規定の整備、引当金見積の精緻化)や、原価計算導入コンサルティング業務(原価要素の集計、標準の設定、現金収支予算、労務規定の整備など)を行う。
・野原監査法人パートナー
・YouTube「CPAカレッジ」毎週金曜AM10時絶賛配信中
・Twitter(@newjapancpa)