【編集部から】
士業の魅力は、独立開業できることにもあります。「将来は独立」を目標に合格を目指している方も多いのではないでしょうか。
そこで、「わたしの独立開業日誌」では、独立した先輩方に事務所開業にまつわるエピソードをリレー形式でお話しいただきます(木曜日の隔週連載)。
登場していただくのは、税理士・会計士をはじめ、業務で連携することの多い士業として司法書士や社労士などの実務家も予定しています。
将来の働き方を考えるヒントがきっと見つかるはずです。
ストレスなしの仕事と家庭の両立を目指した開業
はじめまして、東京・渋谷区笹塚のシルク司法書士事務所長谷川絹子と申します。
2人の子供を育てながら、職住近接でひとり事務所を営んでいます。
私の開業は、いかにストレスなく「仕事と家庭の両立」させるかを中心に据えたものでした。
この記事が、子育てなどで時間制限があるけれど開業を検討されている方の参考になれば幸いです。
30歳で結婚後、異業種からキャリアチェンジ
司法書士の資格をとった理由のひとつは、30歳で結婚したことを機に、「細く長く続けられる仕事」につきたいと思ったからです。
20代はネットベンチャーなどで働いていたのですが、とても目まぐるしい世界でこのまま子育てを経て50代60代まで働くイメージが湧きません。
そこで思い切ってキャリアチェンジに挑戦、33歳のときに司法書士試験に合格、新人研修が終了してから初めて実務の世界に飛び込みました。
合格後、勤務司法書士として6年
合格後、まずは大手司法書士法人に就職しました。
在籍中に1人目を妊娠・出産、産休・育休を頂き復帰をしました。しかしながら忙しい残業ありきの職場、時短勤務の身だとなかなか業務の幅を広げることもできません。
悩んだ末に、残業無かつフルタイムで働ける事務所へ移籍、勤務司法書士6年目で2人目の妊娠が発覚しました。
2人目出産の数か月後にコネなし客なしで自宅開業
合格からすでに6年。このころには独立開業派の合格同期はすでに皆をしており、うっすらとした焦りを感じる日々。ここで機を逃すと独立はだいぶ先になると考え、2人目を出産した数か月後に開業しました。
独立を意識した蓄えは少々ありましたが、コネなし客なし開業のため、すぐに売上があがることもないかと思い、まずは自宅を事務所としました。賃貸でしたが幸い事業使用の許可を頂き、物置状態になっていた一部屋を整理して執務スペースとしました。
事務所名は、「絹子」という名前から「シルク司法書士事務所」としました。私自身の「仕事を細く長く続けたい」という想いも込められています。
事務所名を検討するにあたり、自分の氏名を掲げることは選択肢からは外しました。司法書士の仕事を通して、本当に人生はいつ何が起きるかはわからないことを実感しており、長い人生においては氏名がかわる可能性もあると考えたからです。
「残業」「休日出勤」無の営業スタイルを貫く
幼子を抱えての開業であるため、夕方には仕事を切り上げられること、土日祝の休みを確保できることを第一に営業スタイルを検討しました。
夫は育児家事が私より得意な人ですが、当時は夜に仕事が入る職に就いていたので、主に私が保育園のお迎えをして夜の家事育児を担当する必要があったのです。
勤務1つ目の住宅ローン案件中心の大手司法書士法人はとにかく残業と休日出勤が多かったのですが、2つ目のネット集客型の相続専門の個人事務所は残業と休日出勤がほぼ皆無。
このことから、取扱業務や営業手段によっては、勤務時間はコントロールすることができると知っていました。
ネット業界での経験を生かして自力でホームページ作成
司法書士の顧客開拓といえば不動産や銀行への営業がセオリーですが、私にはキャパがないと割り切り手を出さず、ホームページ集客に注力することにしました。
業務の主軸は、至急案件の少ない、個人依頼の相続案件や不動産登記にすると決めました。さらに、主婦層を主なお客様とできれば夜や土日の面談対応を減らせると考え、ホームページのデザインは女性好みの色使いにして、文章コンテンツは「妻」目線を意識しました。
ネット業界で働いていたことがあり多少の知識があるため、ホームページはWordPressで自らが制作しています。
開業当初はホームページのコンテンツ制作が主な仕事でしたので、東奔西走することなく、自宅内で黙々と作業。
また、平日日中に行われる士業の交流会に時折参加して、ゼロから他士業さんとのつながりをつくっていきました。
自宅開業の3つの壁
ホームページが育ち、ネット集客が回ってくるにつれ、自宅開業の3つの壁にぶつかりました。
・移動時間
1つは客先を訪問する移動時間です。勤務時代であれば移動時間は気分転換や休憩の時間ととらえていましたが、独立すると移動時間は何も生みださない時間。
さらに時間制限のある身にとっては、移動時間は極力ないほうがよいものとわかりました。
・自宅訪問を好まない方の存在
2つめは「自宅訪問してほしくない方」の存在。当初は応接スペースがなくても、司法書士が訪問すればよい、無料出張であれば喜んでもらえるのではと考えていました。ところが世の中には「来てほしくない」という方も一定数いるということを開業して初めて知りました。かといって喫茶店などは漏洩が気になりますし、個室レンタルはお金がかかります。
1、2もふまえ、個人からのご依頼を受けたいのであれば、応接スペースは必須であるということを痛感しました。
・在宅仕事する側の家事負担が重くなる
そして3つめは家事負担が増えたこと。「家で仕事をしている側がついつい家事育児を担ってしまう」という点は完全に盲点でした。当初は「空いた時間に洗濯も料理もできる」とメリットとしてとらえてたのですが、気づけば「なんで私だけが家事育児をやっているの!?」という状態に。
自宅開業から事務所を借りることに
上記3つの壁に加え、案件が増えるにつれ書類管理やセキュリティの問題も気になりはじめ、開業して約1年後に事務所を借りることを決めました。
当初、職住をわけようと少し離れたエリアで物件を探していたのですが、なかなか希望を満たす物件が見つからず、3か月探し続け結局自宅のあるエリアで事務所利用可のワンルームマンションを借りました。
でもこれがケガの功名で、子が小さいうちは自宅や子の通う保育園・小学校との移動時間が少ない「職住近接 」を選んで本当によかったです。
人口の多い都心部の住宅街のためかもしれませんが、自らのプライバシー面で「 職住近接 」で気になることや困ることは思いのほかありませんでした。
また、事務所を借りるタイミングで、毎週〇曜日は夫が保育園のお迎えと夜の家事育児を担当するというルールを設け、夜間対応可能な日も設けました。
ステージに応じて選べる士業の働き方
現在は、人を雇わないひとり事務所です。時間管理の上で、お客様と自分の都合だけを考えればよいという点に大きなメリットを感じています。
すべて自分でおこなうため、時短・効率化するツールには積極的に投資するよう心がけてきました。少し高いアイテムでも「人を雇うよりは安い」という考え方です。このため、業務ソフトも開業当初から導入しています。
仕事と家庭の両立というと、睡眠時間を削る、子どもにさみしい思いをさせる、という悲壮感あるイメージを抱く方もいるかもしれません。
でも私は、独立したことで業務と時間をコントロールすることができ、子どもや夫、そして自分に大きな負荷をかけることがなく仕事と家庭の両立することが可能になったと感じております。
今はこうして、家族で過ごす時間にプライオリティを置き、自由度の高いひとり事務所を選択していますが、今は人生100年時代、まだまだ次のステージが待っているはずです。
次のステージではオフィス街に移転して事業拡大していきたいと考えてるかもしれないですし、地方に移住して雇用創出に貢献したいと考えるかもしれません。人生のステージに合わせた働き方を自分で選べるのが士業の素晴らしい点だと思っています。
この記事を読んだみなさまが、これから先、自分のステージにマッチした働き方と出会えることを心より願っております。
【執筆者紹介】
長谷川絹子(はせがわきぬこ)
1978年東京板橋区生まれ
2000年明治大学文学部卒業
10年の一般企業勤務を経て、2010年司法書士試験合格
2017年東京都渋谷区笹塚にシルク司法書士事務所を開業
主要業務は相続手続き・不動産登記・遺言作成・会社設立。2022年より整理収納アドバイザーとしても活動している。家庭では2児の母。特技は冷蔵庫の片付け料理。週末は外出派、キャンプ・旅行が大好き。
Twitter @silk_office
Instagram @kinuko_silkoffice
事務所ホームページ https://silk-office.jp/
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