【税理士試験】なぜ、17回目の簿記論受験で合格できたのか?


【編集部より】
税理士試験や会計士試験は「あきらめなければ合格できる」と言われますが、あきらめずに続けることにも大変な難しさがあると思います。特に、税理士試験の場合、ラスト1科目が何かによっても受験へのモチベーションに影響を与えるのではないでしょうか。
そこで、今回は17回目の税理士試験簿記論受験で合格し、現在は独立開業をしている田中晃広先生(税理士)に、受験を続けられた理由と、合格を決めることができた秘訣についてご執筆いただきました。

田中晃広(税理士)

負け組だった税理士受験時代

私は税理士試験で複数合格も無ければ、一発合格もありません。今でこそ税理士として独立開業し自由を手にしていますが、税理士受験生としては負け組でした。
特に、簿記論が大の苦手で長年苦しみました。

簿記論は税理士試験の必修科目。会計学の免除等を受けない限り避けて通れない科目です。

一発合格する人も多くいる科目ですが、私はそれを17年もの間、毎年受験していました。

決して怠けていたわけではなく、毎日仕事が終わったらすぐ専門学校に行き、土日もほとんど専門学校の自習室で過ごしていましたし、年末年始やゴールデンウィークは職場に篭って黙々と勉強していたものです。

勉強量の割に合格できなかったのは「本番に弱い」という根っからの性分もありますが、本試験の最中は氷の上を滑っているような感覚だったのを今でも覚えています。本試験の問題は見たことのないもの、慣れない言い回しのものが出題されます。
作問者が違うので当然です。「なにこれ?見たことないけど捨て問で良いのかな?」と迷い、不安になり、ペンの動きが鈍り、時間をロスして焦り…と悪循環に陥って、結果は不合格。
そんなことが何年も続きました。

受験生活の序盤は通っている専門学校の問題しか解いておらず、それではパターンに慣れてしまって、全く違う人が作る本試験に対応できないという話を聞いたので、かつての専門学校の恩師が開催している有志の勉強会にも参加して、様々な専門学校の総合問題に触れ、日商簿記一級や全経簿記上級の問題にも取り掛かりました。

その甲斐あって通っている専門学校の静岡校では答練の成績で度々1位を取り、常にランキング上位に名を連ね、全国でも上位に定着し続けましたが…それでも合格できませんでした。

この時は、なまじ出来るようになっていたので合格する気満々で本試験に挑めていましたが、その割に結果は相変わらずの不合格。しかも、10点以上足りなかったこともしばしば。

講師に相談してもとうとう匙を投げられ「何で合格しないのか分かりません」、「そのうち合格しますよ」としか言われなくなっていました。

合格へのターニングポイント

一発合格する初学者が何人も出る簿記論の試験で、私はすでに10年以上足踏み状態が続いていたわけですが、この頃の敗因は周囲のアドバイスを鵜呑みに守っていたことが原因だと分析しています。

「簿記論は総合問題を解け」と17年間、何人もの講師や合格者に言われてきました。合格者が言うのだからそれが正しいのだろうと疑いもなく忠実に守ってきましたが、合格点を取れないということはそれだけ間違えているわけで、「間違える=理解できていない」ということです。

たとえそれがケアレスミスであっても。極端な話ですが、1+1=2をケアレスミスする人はいないでしょう。
それほどの完成度にすれば間違えないのではと思い、「では何をすべきか?」と考え、「個別問題を解く」という結論に至りました。

正直なところ、個別問題なんて講義中とその日の宿題くらいでしか解きません。特に直前期ともなれば模試の解き直しばかりです。

総合問題の解き直しで90点以上取れるまでやるという自分ルールを作って、様々な学校の問題を解いていましたが、何回も解き直しをするうちに解答を覚えてしまいます。そこに私の弱点が潜んでいました。

通っていた専門学校とは違う予備校の個別問題集を解いてみたところ、一発正答がほとんどなかったのです。
数多の総合問題で全ての範囲を網羅していたと思っていましたが、理解していた「つもり」がとても多かったことに気付かされ、全ての論点をケアレスミスすら許さず正答できるようになるまで個別問題集を6周解き直していました。
本試験は解き直しができない一発勝負なので。

個別問題の解き直しで合格をつかむ!

これまで簿記論にかけていた時間の3分の1程度は個別問題をやる。そう決めた年から校内の順位もさらに安定し、本試験でも「今度こそ行ける!」という手応えと自信を持って試験会場を後にすることができました。

総合問題は個別問題の集合体なので、個別の力量が上がればおのずと総合問題の力も上がりましたし、取捨選択の判断もスパっとできるようになりました。
この勉強法を導入してやっと、17回目の正直で簿記論の合格通知を受け取ることができたわけですが、この日はたまたま家に一人だったこともあって、吠えて号泣したものです(笑)。

簿記論合格の翌年、同時進行で通っていた大学院で執筆した所得税法の修士論文が無事に国税審議会の審査をパスして苦節18年、晴れて税理士となりましたが、たくさんの人から「よく18年も続きましたね」と驚かれます。

普通なら5~6年やってダメなら諦めると。
私も二度ほど「今回ダメなら諦めよう」と覚悟を決めたことがありましたが、そんな年に限って財務諸表論と所得税法に合格することができ、「この道で食べて行けということか」と踏みとどまりました。

根性論100%の世界

とはいえ、所得税法の合格から簿記論の合格まで9年間は不合格通知ばかりが届き、これまで時間とお金以外にもたくさんの大事なものを失いました。
それでも続けていけたのは、「逃げれば楽になれる。でもここで逃げたら残りの人生も嫌なことがあったらすぐ逃げる人生になってしまう」と常に自身に言い聞かせていたからです。

これを成し遂げた時の自分は何だってできるはずだと。
根性論というのは今では古いのかも知れませんが、税理士試験は根性論100%の世界です。

実際に税理士になる人より諦める人の方が圧倒的に多い世界ですから、もしも私のように1つの科目に何年も足踏み状態が続いているという人は、辞めずに挑み続けているだけで十分高い志を持っています。そういう人は必ず合格します。

とはいえ、努力がすぐに報われるわけではありませんし、裏切られもします。が、税理士になった人はすべからく努力をした人です。

良い進学校、良い大学を出てサクッと合格していく猛者も見てきましたが、高校時代に赤点を取っていたような私はそこで張り合っても地頭の悪さは否めず勝ち目はありません。比べても落ち込むだけです。

合格に大事なのは、勉強法や暗記の才能よりも、諦め悪く泥臭く頑張り続けられる「執念」です。その執念こそが失敗を成功に変えてくれます。

大丈夫。諦めの悪さしか取り柄のない僕だって合格できましたから。

【執筆者紹介】

田中晃広(たなか あきひろ)

税理士
1979年静岡県生まれ静岡県育ち。大学4年生の頃ダブルスクールで税理士受験をしていた友人に感化され就職の内定を蹴って税理士を志すが日商簿記3級に4回不合格。大学卒業後2年を費やして日商簿記2級に合格し、会計事務所に勤務しながら税理士試験の勉強を続け17回目の正直で簿記論に合格。
2020年に税理士登録し「ひとり税理士」として独立開業。
雇われない・雇わないスタイルで長過ぎた受験生活で失ったものを取り戻すべく自由を謳歌している他、税理士になるまでに18年を費やした経験を生かして税理士受験生の支援にも注力している。
趣味はゴルフ、ソロキャンプ、カフェ巡り等。

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