白井敬祐(公認会計士)
【編集部より】
簿記検定や税理士・会計士受験生の中には、経理関連の仕事をしている人やこれから就職・転職を希望している人も多いはず。
「公認会計士くろい」ことCPA講師・白井敬祐先生の著書『経理になった君たちへ』(税務研究会出版局)によると、経理パーソンには“コミュ力”も求められるそうです。
そこで、白井先生に「仕事がはかどるコミュニケーション術」についてご執筆いただきました。
「経理部」は静かな部署!?
「経理部」といえば一般的にどんなイメージをもたれているでしょうか。
「誰とも話さず黙々とパソコンの前で請求書や領収書の処理をしている人」というイメージをもたれている人が多いのではないでしょうか。
正直に申し上げると、私も最初はそう思っていました。
しかし、それは大きな誤解です。
実は、経理部こそ、コミュニケーションが重要とされる部署なのです。
私は公認会計士合格後、監査法人で勤務していましたが、コミュニケーションがうまくとれず、転職を考えていました。
「次の転職先は誰とも話さないような仕事がいいな。経理部にでも転職しようかな」とまさに誤解した状態だったのです。
その後、実際にリクルートホールディングスの経理部に転職したのですが、そこで大きな誤解をしていたことに気づきました。
経理部こそ、コミュニケーション能力が必要とされることを実体験として痛感したのです。
「集めて」「作って」「届ける」ために必要なこと
「経理部」と一口に言っても、親会社の経理部、子会社の経理部、非上場会社の経理部など様々な種類があります。
どの経理部においても、自分一人で完結する仕事はほとんどありません。
経理部の主な仕事の流れは、数値化された会社の取引を各部署や各社から「集めて」、会計上正しい数値を経理部のメンバーたちと「作り」、その数値を各部署や経営者に「届ける」。
そう、常に誰かとコミュニケーションをとりながら仕事を進める必要があるのです。
この一連の仕事の中で大事な行動は、経理部は誰かに「依頼する」ということが必要になります。
相手にとってメリットがあることであれば、依頼の交渉は簡単ですが、時には相手の嫌がることや面倒ごとを依頼しなければなりません。
たとえば、親会社の経理部においては、子会社からの財務情報を「集める」必要があります。
もし、この集める期限を短くしなければならないとしたら、どうでしょうか?
「いつもなら10営業日で提出すればよかったものが、8営業日で提出しなければならない。」
親会社から子会社にそんな依頼をしたとしたら、子会社にとってはまさに面倒ごとの依頼です。
このとき、皆さんならどうやって依頼するでしょうか?
「10営業日から8営業日に縮めたいので、次の決算からよろしくお願いします!」
これだけではもちろんNG。
このような依頼の仕方だと、おそらく子会社の担当者は納得してくれないでしょう。
実際に私も、最初はこのような雑な依頼の仕方をしてしまい、よく怒られたものです。
では、スムーズにやりとりを進めるためには、どうすればよいでしょうか。
依頼する「背景」は何か
依頼する時のポイントは、「相手の納得感」だと私は思っています。
つまり、先ほどのような依頼をされた際に、自分が依頼された立場だったとしたらおそらく納得できないでしょう。
なぜ、そんな面倒なことをしなければならないのかと思うことでしょう。
そのため、このような相手の嫌がるような依頼をする際には、「依頼の背景」を必ず明確に伝えるようにしています。
たとえば、先ほどの例でいえば、「各社競合他社が決算発表を早めるなかで、当社としても決算発表を早める必要性が出てきたので、各子会社にも協力してほしい。そのため、10営業日から8営業日に財務情報の提出を早めてほしい」というように、なぜこの依頼をしているのかという背景を説明すると相手の納得感は増すでしょう。
この時、当然ですが、自分が納得していないものを相手に依頼することはできません。
なので、自分が納得するまでタスクの意味などを理解し、自分が納得できなければそのタスクの存在意義を疑い、反対するなどの選択肢も出てくることに留意しておきましょう。
丁寧なコミュニケーションとお互いの納得感
このように文章で書くと当たり前のように聞こえるかもしれないことですが、ご自身が普段、どのような依頼の仕方をしているか、今一度振り返ってみて、それが実現できているかどうかを確認してみてください。
特に、会計士が事業会社の経理に転職した際には、この点は要注意で、かなり雑な依頼をしてしまっていることが多いです。
監査法人で働いていると、会計士は、クライアントの経理担当者に監査で必要な資料を依頼することがよくあります。
その際の依頼の仕方として、「監査で必要だから」という少々乱暴な依頼の仕方になっていることが多いのではないでしょうか。
それは、監査という法律で定められた業務であるため、依頼の背景を考える習慣が薄いからです。
クライアントの経理担当者は、「監査法人が依頼してくるから仕方なく対応しているけど、なんでこんな資料が必要なのだろう」とか、「なんでこんなことしなければならないんだろう」と必ず不満を持っているはず。
そして、会計士がその意識のまま事業会社の経理に来ると、コミュニケーション面で失敗することになるでしょう。
ここで挙げた例はほんの一部であり、経理では依頼する業務が他にも多数存在します。
その際には、丁寧に相手とコミュニケーションをとり、お互いが納得感をもって、自分だけでなく相手も気持ちよく仕事ができるように配慮しながら仕事をしていくことが、良い経理パーソンとしての姿だと思っています。
<執筆者紹介>
白井敬祐(しらい けいすけ)
公認会計士
2011 年公認会計士試験合格後、清和監査法人で監査業務に従事した後、 新日本有限責任監査法人及び有限責任監査法人トーマツでIFRSアドバイザリー業務や研修講師業務に従事。
その後、株式会社リクルートホールディングスで経理部に所属し、 主に連結決算業務、開示資料作成業務や初年度のIFRS有価証券報告書作成リーダーを担当。
2021年7月独立開業。現在は CPA 会計学院にて会計士講座(財務会計理論)や CPA ラーニングの講師を務め、近畿大学経営学部の非常勤講師として在校生向けの会計士講座を担当。
著書に「経理になった君たちへ」(税務研究会出版局)がある。
・Twitter(@Kuroi_CPA)
・YouTube「公認会計士YouTuberくろいちゃんねる」
・CPA会計学院ホームページ