【税理士試験】簿・財同時合格を目指すためにやるべきことQ&A(前編)


【編集部から】
この9月から、来年度の税理士試験に向けて新しく簿記論・財務諸表論の学習を始めた方も多いと思います。

「簿・財同時合格」を目指すためには、何をすればよいのでしょうか。

今回、千葉商科大学「瑞穂会」で例年多くの合格者を輩出している渡邉圭先生に、簿記論・財務諸表論の受験生の素朴なギモンに答えていただきました。

前編は、出題傾向や基本的な学習方針、年内にやっておくべきことなど、当面の勉強を考えるヒントが満載です(後編はこちらから)。

Q 簿記論の出題傾向と学習方針を教えてください。

Q 財務諸表論の出題傾向と学習方針を教えてください。

Q 簿記論の計算と財務諸表論の計算の違いを教えてください。

Q 来年、簿記論・財務諸表論をはじめて受験しますが、年内にやるべきことは何ですか?

Q 簿記論・財務諸表論に再挑戦する場合は、どうすればよいですか?

Q これまで日商簿記検定の勉強をしてきましたが、税理士試験ではどのような心構えで勉強するとよいでしょうか。

Q 簿記論の出題傾向と学習方針を教えてください。

渡邉先生 簿記論は、推定問題、特殊商品売買や帳簿組織に関する出題が多いため、学習初期から個別問題集を使って対策する必要があります。

今年度の税理士試験では、第1問でキャッシュ・フロー計算書をベースとした推定問題、第2問で受託買付・委託買付、固定資産の減損、有価証券に関する個別問題、第3問で建設業及び不動産賃貸業を営む企業を想定した総合問題が出題されました。

なお、日商簿記検定では出題されない分記法、小売棚卸法、特殊商品売買、為替手形、特殊仕訳帳など、税理士試験に特有の論点や特殊な論点もあるため、そのような論点は問題集を解くだけではなくテキストを使って“理解しながら”学習していかないといけません。

Q 財務諸表論の出題傾向と学習方針を教えてください。

渡邉先生 財務諸表論は、理論で伝統的な企業会計原則に関する出題が多いため、学習の初期段階では期間損益計算を重視した会計思考の学習が大切です。

今年度の税理士試験では、第1問で収益認識に関する会計基準、第2問で企業会計原則及び連続意見書、資産除去債務、第3問で会社法及び会計計算規則に準拠した財務諸表の作成問題が出題されました。これらのうち、収益認識に関する会計基準のような、多くの受験生が対策をしていると思われる論点については外せません。

計算については、40点以上獲得したいところです。今年度は例年より計算の問題量が多かったので、120分のうち80分~90分をかけて優先的に計算を解き、残り時間で理論を解く、という流れがよかったかと思います。

Q 簿記論の計算と財務諸表論の計算の違いを教えてください。

渡邉先生 簿記論では、取引発生から帳簿記入までの「簿記一巡」について問われます。一方、財務諸表論では「財務諸表作成」について問われます。

財務諸表作成にあたっては、会社法と財務諸表等規則が適用される企業で表示科目が異なります。また、財務諸表論では、重要な会計方針などの注記についても問われるので、学習内容が違います。

ですが、決算整理事項など、計算する過程の共通点もあります。そのため、期中取引と決算整理事項については簿記論をベースに、財務諸表作成については財務諸表論をベースにしていくと、効率よく勉強できると思います。

Q 来年、簿記論・財務諸表論をはじめて受験しますが、年内にやるべきことは何ですか?

渡邉先生 簿記論・財務諸表論ともに計算は、個別問題集と基礎総合問題集を演習してください。

それにあたって直近でやるべきことは、日商簿記検定と税理士試験では出題範囲が違うので、どこが違っているのかを把握し、そこを重点的に学習することです。これまで日商簿記検定の学習をしていた方、この9月から税理士試験の学習を始めた方は、テキストや問題集に「大陸式決算法」など新しい用語が出てきて戸惑っているのではないでしょうか。まずは、そのような未学習論点をピックアップし、テキストを使って勉強していきましょう。

理論は、伝統的な論点である企業会計原則、棚卸資産、有形固定資産(減価償却)、資産・負債の定義と評価、引当金、繰延資産については、年内に学習を終わらせましょう。

その際、「理解する」というよりは「イメージする」という意識をもってほしいです。たとえば、伝統的な論点は「損益計算」の思考、新しい論点は「資産負債アプローチ」の思考というように、「どのような考えのもとでルールが作られているのか」をイメージすることからスタートすると、今後の理論の勉強もしやすくなると思います。

Q 簿記論・財務諸表論に再挑戦する場合は、どうすればよいですか?

渡邉先生 自己採点の結果にもよりますが、すでに復習を始めている方は、その調子で学習を続けてください。試験が終わってからまだ手をつけていない方も、この9月中に復習を始めるようにしましょう。

理論は1ヵ月単位で教材を1回転し、計算は個別問題集や基礎総合問題集使って復習します。余裕があれば、応用総合問題集も年内に2回転したいところです。

専門学校が公表している解答速報で自己採点がボーダーライン付近の方は、応用総合問題集を年内に2回転することを目標にしてください。

Q これまで日商簿記検定の勉強をしてきましたが、税理士試験ではどのような心構えで勉強するとよいでしょうか。

渡邉先生 日商簿記検定、特に1級を経ると、簿記論・財務諸表論の学習を段階的に進められることが強みとなります。

というのも、3級や2級、またはゼロから税理士試験に進むと、1級で勉強するような特殊論点を一から学習しなければいけませんが、それを1級で学習しておけば、税理士試験では「復習」という形でカバーすることができます。

日商簿記検定、特に1級まで学習してきた方は、既習論点の再確認にプラスアルファで新しい論点を学習する、というイメージで学習を進めるとよいでしょう。

また、税理士試験では工業簿記(原価計算)そのものは出題されませんが、日商簿記検定では工業簿記を学習するので、たとえば子会社が製造業であるようなニッチな連結会計の問題にも対応できます。

税理士試験では、税理士試験のみの学習だけでは対応しきれない問題も十分に考えられるので、そのような問題を知っているというのは、日商簿記検定を学習してきたことの大きな強みです。

自信をもって、これまで身につけてきた知識を存分に活かしてください。

(後編はこちらから)

<執筆者紹介>
渡邉 圭(わたなべ・けい)

千葉商科大学基盤教育機構で准教授を務める傍ら、会計教育研究所「瑞穂会」で税理士試験講座(簿記論・財務諸表論)と日商簿記検定1級~3級講座を開講し、ともに多数の合格者を輩出している。

千葉商科大学 会計教育研究所 瑞穂会ホームページ


関連記事

ページ上部へ戻る