【編集部から】
士業の魅力は、独立開業できることにもあります。「将来は独立」を目標に合格を目指している方も多いのではないでしょうか。
そこで、「わたしの独立開業日誌」では、独立した先輩方に事務所開業にまつわるエピソードをリレー形式でお話しいただきます(木曜日の隔週連載)。
登場していただくのは、税理士・会計士をはじめ、業務で連携することの多い士業として司法書士や社労士などの実務家も予定しています。
将来の働き方を考えるヒントがきっと見つかるはずです。
独学で突破した社労士試験
はじめまして、京都で開業しております社会保険労務士の稲葉知秋と申します。
公認会計士や税理士に比べると世間一般の認知度は高くない印象ですが、今回、社労士についても掲載頂けるということで大変うれしく思っています。
私は社労士試験を受験するまで別業界での経験しかありませんでした。
その後、ある事をきっかけに社労士試験の受験を決意。およそ8ヵ月猛勉強したのち、独学で一発合格を勝ち取りました。イノシシのように猪突猛進するタイプです。
そして、そのまま社労士事務所で実務経験を積むことなく独立開業。未経験での開業を勧めるわけではありませんが、やむを得ずその状況になった場合でも、なんとかなるものです。
実務の勉強ではなく実務が勉強、そう思って日々業務に携わっています。
そんな私の現在に至るまでを、独立開業日誌として書いてみようと思います。
異業種から、社労士の世界へ
大学を卒業後、いくつか職を転々としました。その後、関西の制作会社に就職。27歳の時に結婚し、生活拠点を京都へ移しました。
今ほどテレワークも普及していなかったため、地域で出ている求人に応募し、定型作業ばかりの職に就いたこともあります。
その後、第一子を出産。翌年、第二子を妊娠。第二子妊娠中も、第一子を抱えながらテレワークで仕事を続けていましたが、急遽、切迫早産で寝たきりになりました。
その際に在籍していた会社に、「産休育休は取れない」と告げられ、無知だった私は退職する事に。現金3万円と菓子折が送られてきました。
なぜ産休育休を取れなかったのか…
出産予定日まで1ヵ月。「絶対安静に」と医者から言われていたにも関わらず、布団を抜け出し、日商簿記3級を受験しました。何も無かったので良いですが、反省しています。
その後も寝たきりの状況が続き、悶々としていました。
「なぜ、私は産休育休を取得できなかったのだろう…」と疑問に感じ、社労士試験のテキストをAmazonでポチリました。そこから1日4時間程、テキストとにらめっこする日々が続きました。
社労士試験のテキストに出会って1ヵ月程で、第二子が無事に出生。
出産時には出血過多のため、気を失いながらも、気がついた時には社労士試験のテキストを握っていたことは覚えています。もちろん赤ちゃんも抱いていましたよ。
その後、1歳児と0歳児を抱えながら、数ヵ月自宅で勉強しました。テキストは大手出版社のものをパッケージで購入し独学。
昼夜問わず3時間おきの授乳もありますし、まとまった時間も取れないため、合間時間に勉強。眠気があると認知機能が落ちるので、時間の捻出に苦労しました。
社労士試験は現在、記述式の問題はないので、机に向かって勉強する時間がなくても、テキストや過去問アプリを片手に合間時間でも勉強できます。
その後、なんとか8月に実施される本試験を受験できました。
試験会場では、隣の方は何度もお手洗いに行くし、前の方は一日中汗だくだし、気になることばかりでしたが、なんとか受験を終え、自己採点で合格を確信。その年の11月に合格発表があり、満足できる成績で合格となりました。
合格後は少し気持ちに余裕ができたので、日商簿記2級を取得。これも独学でしたが、工業簿記も案外楽しく勉強できました。
簿記の勉強が面白かったので、調子に乗って簿記1級と税理士試験簿・財のテキストを購入しました。
しかし、日商簿記2級と1級の難度の差や、日商簿記検定問題と税理士試験問題のニュアンスの違いに愕然…。早々に諦めました。
完全在宅で仕事復帰、そして開業へ
翌年、子供が2歳と1歳となり、保育園に預けて現役復帰しようと考えました。近隣で募集している社労士事務所はフルタイムのみだったり、経験者のみだったり、なかなか小さい子がいる環境で応募することが難しい状況でした。
なんとか面接して頂けることになったため、「社労士事務所なら手書きがいいだろう」と手書きの履歴書を何度も書き間違えたのち、2日かけて完成させ、面接に挑みました。
残念ながら、条件が合わず選考辞退。帰宅途中に、「子供を人に預けて私は何をやっているんだろうか…」と西友のトイレで泣いたような。
その後、社労士事務所に就職することは諦め、東京に本社のある会社に完全在宅で勤務。ベンチャー企業のバックオフィス業務や研修事業、新規企画など、いろいろな経験を積みました。
今でも一緒に仕事をさせていただいた先輩方とのご縁は繋がっています。
そして2020年。もともとテレワーク勤務だったので、私自身の生活に変化はありませんでした。
しかし、引きこもりの私でも、世の中のために何か出来る事があるのではないか。
社労士として今、人のために出来る事があるのではないか。
そう思い、開業を決意しました。
開業から1年半を振り返って
開業後は前職の先輩や、地元でお付き合いのあった方から、少しずつ仕事を頂くようになりました。
最近では、情報収集のために始めたSNSからも、仕事の依頼を頂くようになりました。主に、TwitterとFacebookにて発信しています。
開業当初は、右も左もわからずの状態で、自宅にポスティングされた飲食店や接骨院オープンのチラシを見て「オープンおめでとうございます」と、逆に営業電話をかけていました(笑)。
開業後、数ヵ月は自宅開業としていました。
しかし、ホームページや名刺に住所が掲載されることに抵抗があり、数ヵ月して、別に事務所を構えました。
社労士の中では、最近、シェアオフィスやバーチャルオフィスでの開業を検討される方もいます。月額数千円から事務所住所として利用でき、郵便物の転送や電話応対といったサービスもあるようです。
私自身は、近隣に事務所を構えましたが、事務所をどうするかだけでも、いろいろな選択肢があります。
そして、開業後は未経験分野にどう対応するのかという課題が残りました。法律や手続きに関することは書籍やネットで調べたり、行政機関に問い合わせることができます。
しかし、士業の仕事にはイレギュラーなことのほうが多く、顧客への向き合い方といったところについても、いくら調べても解決できません。
そういった時には、やはり「横の繋がり」が重要です。皆さんには、とにかく横の繋がりを大切にして頂きたいなと思います。
開業後の仕事
現在は、顧問先様の相談をお受けするほか、無年金者の年金請求支援を行っています。
労働社会保険関連の手続きや就業規則の作成については、他士業の先生からご紹介を頂くことが多いです。
その他、セミナー企画を多く手掛けています。昨年は、1年で企画したセミナーへの参加者が1,500名を超えました。
本年は、2月時点でそれを超える勢いです。ビジネスとして成立しているわけではないですが、会計士や税理士、医師などさまざまな方々とコラボする機会もあり、よい繋がりが生まれています。
今後は、「素晴らしい知見や経験をお持ちだけれども、情報発信が苦手」といった方々を、裏でフォローしつつ、情報を必要としている人に届けたいと考えています。
今後の展望と目標
社労士の仕事の幅は本当に広いのですが、大きく分けると「年金」に関するものと「労務」に関するものがあります。
どちらもこなすゼネラリストもいれば、専門分野に特化したスペシャリストもいます。社労士の働き方は、100人100通り。
仕事は3年目から面白くなると聞きます。ですので、3年は現状のまま、3年経過した時に本当に面白い、やりがいを持てると思った道へ特化していく予定です。
また、私が特化型になるのであれば、それ以外の分野に対応できる人材の雇用や教育も必要になってきます。その辺りも、子供の成長にあわせて、そろりそろりと進めていく予定です。
【執筆者紹介】
稲葉 知秋(いなば ちあき)
社会保険労務士。2018年社労士試験合格。2020年京都で開業。5歳&3歳児の母。特技はデザインとイベント企画。新米社労士や、独立開業を目指す社労士のためのサポートミュニティである「ひよこの学習塾-社労士教室-」発起人の一人。ひよこのためのセミナー等多数開催。
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