渡邉 圭
(千葉商科大学基盤教育機構准教授)
2022年度より日商簿記検定試験の出題範囲が改定され、それに伴い、新しい学習項目が追加されます。
ただ、出題範囲を示した出題区分表や勘定科目表には、新しく登場したり意味がとりづらかったりするワードが見られ、2022年度に受験を検討する人にとっては悩みどころかもしれません。
そこで、そんなワードのうち、受験生からの疑問の声が多い以下の5つについて、簡単な例やイラストに基づいて解説します。
① 契約資産・契約負債
② 出荷基準・着荷基準・検収基準
③ 役務収益・役務原価
④ 変動対価
⑤ 営業外電子記録債権・債務
※ ①・②は3月9日、③・④は3月10日、⑤は3月11日に記事を掲載します。
最後には、出題が考えられる設例も載せておりますので、あわせて挑戦してみてください。
本記事では、「出荷基準・着荷基準・検収基準」について取り上げます。
用語のポイント
- 出荷基準:得意先へ商品等を発送した時に、収益(売上)を認識する。
- 着荷基準:得意先に商品等が納品(引渡)された時に、収益(売上)を認識する。
- 検収基準:得意先から発送した商品等について、検収完了の連絡を受けた時に、収益(売上)を認識する。
問われる知識
- 収益(売上)をどの時点で認識するかを理解しているか。
- 着荷基準または検収基準を採用し、決算日時点で商品等が出荷済みで、得意先に引渡されていない、または、未検収の場合は期末商品棚卸高となることを理解しているか。
用語解説
以下に、当社の商品を発送し、得意先へ納品されて検収の連絡が行われる、という一連の流れを示しました。
出荷基準では、当社が商品を発送した時に売上が計上されているのがわかります。
着荷基準では得意先へ商品が納品され引渡しが完了した時に、検収基準は引渡し後、商品が検収完了した時に売上が計上されています。
検収基準の場合、発送された商品のうち、得意先で検収完了したものが売上として計上されます。
ただ、決算日に得意先へ商品の引渡しが完了していても、未検収の商品があることも想定できます。得意先に未検収の商品がある時は、売上原価ではなく期末商品棚卸高となります。
さらに、問題例として、商品有高帳の払出欄は、モノの流れを把握するために出荷時に払出の記帳をしていたとして、残高欄には当社に在庫となっている手許商品の数量のみが記載されているという内容が考えられます。
以下、こちらの設例で確認しましょう。
設 例
次の資料に基づいて、期末商品棚卸高を答えなさい。会計期間はX1年4月1日からX2年3月31日(決算年1回)とする。
<資 料>
<決算整理事項>
期末手許商品棚卸高:87,000円(帳簿棚卸数量290個 原価 @300円)
当社は検収基準を採用しているが、商品のモノの流れを把握するために出荷時に売上を計上(払出記録も行う)しており、決算時点で適正な売上高に修正をしている。得意先へ発送した商品の検収について問い合わせたところ、10個×300円=3,000円(売値5,000円)が未検収であることが判明したため、売上取消の会計処理を適正に行ったが、帳簿棚卸数量には反映されていない。なお、減耗と収益性の低下はなかった。
解答・解説
〈解 答〉
期末商品棚卸高 90,000円
〈解 説〉
帳簿棚卸数量は商品有高帳の残高欄に記載されており、本問では商品出荷時に売上を計上しているため、払出欄には出荷時の販売数量が記帳されています。
そのため、帳簿棚卸数量は当社に在庫となっている手許商品の数量が記帳され、得意先へ発送した未検収分の商品は払出数量に含まれているので修正が必要です。
本問では売上取消に関する会計処理(仕訳)は行われていますが、商品有高帳への修正は、帳簿棚卸数量が売上取消について反映されていないため未記帳です。
290個+10個=300個が期末商品棚卸数量となります。
計算式:300個×300円=90,000円