社会人が1年で公認会計士試験に独学合格!  決め手は自分に合った「教材」と「勉強法」


日本三大難関国家試験に数えられる公認会計士試験。独学で、ましてや働きながら合格することはできるのでしょうか。

今回、令和3年公認会計士試験に独学で一発合格された会社員の親子さん(「親子」はTwitterネーム、@oyako_BS)にインタビューをさせていただきました。

公認会計士試験の勉強を始めたのは2020年9月。そこから、およそ1年でのスピード合格。

使っていた教材や勉強法など、独学する受験生だけではなく、すべての受験生が気になるお話をたっぷりと伺いました。

数学を専攻していた学生時代。社会人になってから「会計」の道へ

――公認会計士試験に挑戦したきっかけや合格までの経緯を教えてください。

親子さん 現在、会社員で入社3年目です。業務で会計に触れる機会は多いのですが、学生時代は数学を専攻していて、当時は会計士試験を受けるなんて夢にも思っていませんでした。

会計の勉強を始めたのは、大学院修了後の2019年4月、入社後に簿記を取るように言われたことがきっかけです。そこで6月に日商簿記3級、11月に2級に合格しました。それまで会計に対するイメージは無味乾燥というか、ただ仕訳をするだけという先入観があったのですが、ここではじめて会計を勉強するのが面白いと思うようになりました。

そして自己研鑽のつもりで1級を受けようと思ったのですが、2020年6月の試験は新型コロナウイルスの影響で中止に。なんとなくぼんやりしていたところで、それなら会計士試験に挑戦してみようと思いました。

そこから教材探しなど準備を進め、9月に会計士試験の勉強を本格的に始めました。その後、2021年2月に1級も受けて合格し、2021年5月に短答式試験、8月に論文式試験に合格しました。

親子さんの受験歴
2019年6月 日商簿記3級 合格
2019年11月 日商簿記2級 合格
2020年9月 会計士試験の勉強を開始
2021年2月 日商簿記1級 合格
2021年5月 短答式試験 合格
2021年8月 論文式試験 合格

――簿記を勉強していくなかで次第に会計の魅力を感じていったのですね。

親子さん そうですね。もう1つは、部署内でこれといった強みがほしかったというのもあります。

仕事で会計に触れる機会も多いので、資格があれば「会計トピックについてはこの人に聞こう」と思ってもらえるのかなと思いました。

――なるほど。ちなみに、働きながら勉強するとなると税理士試験のほうが受験しやすいと思うのですが、税理士という選択肢はなかったのでしょうか?

親子さん 両方調べていて少し迷いました。ただ、会計士試験はどちらかというと「短期突破型」。自分もいつまで勉強を続けられるかわからなかったので、なるべく短期で合格できる試験がいいなと思いました。

また、身につけられる知識の広さも理由の1つでした。

もちろん税務に関しては、会計士で税理士登録した人より税理士試験に合格して税理士になった人のほうが、はるかに深く理解していると思います。

ただ、会計士試験のほうが経営や法律まで幅広く勉強できるように思い、その点に魅力を感じました。実際、企業法などは会計とはまた違う分野ですが、ビジネスパーソンとして役に立つと感じています。

――そのようななか、独学で会計士試験に挑戦した理由は何だったのでしょうか?

親子さん 正直なところ、一番は金銭的な負担です。恥ずかしながら、当時お金を使うイベントが集中していて、なかなか予備校の受講料を捻出できませんでした。

もう1つ言うと、この試験では「独学なんて無理だ」と最初から言う人が多いですよね。たしかにその通りかもしれませんが、そもそも前例が少ないからそう言われているだけなのかなとも思うんです。

それなら、本当にいい教材を見つけて、自分に合った勉強さえすれば合格できるのではないかと考え、独学に挑戦することにしました。

――独学するにあたって不安は感じませんでしたか?

親子さん 独学で合格した人のブログがいくつかあって、先駆者がいることもわかっていたので、不安はあまり感じませんでした。

また、大学受験や簿記も独学だったので、それに対する「慣れ」は正直なところあったと思います。同じタイミングで複数の科目を勉強するのも苦ではありませんでした。

これまで独学をしたことがない人が会計士試験でいきなり独学に挑戦するのは大変かなと思うのですが、大学受験や簿記などを自分1人の力でやってきた人は独学も不可能ではないと思います。

自分の状況や目標に合わせて教材を選ぶ

――1日の学習時間を教えてください。

親子さん 時期によるのですが、全期間をならすと平日は1日1~2時間程度でした。休日は5~6時間くらいですね。大学受験のときからそうだったのですが、1日10時間以上とか根を詰めて勉強することができず、仕事と勉強以外の時間は遊びに行ったり、飲みに行ったりもしていました。

ただ、1日のうち勉強する時間だけは絶対に決めていました。仕事と勉強を両立するためには、1日の動きをルーティン化するのが非常に大事です。仕事が終わる時間は読めなかったので、朝に勉強する時間を固定化していました。

――教材は何を使っていましたか?

親子さん 独学ではありましたが、基本的には予備校の教材をインターネットで入手していました。

メインにCPA会計学院のテキストと「コンプリートトレーニング」という問題集、短答直前にはCPA会計学院の「コンパクトサマリー」という総まとめテキストとLEC東京リーガルマインドの「一問一答問題集」、論文対策としてはCPA会計学院の「論文対策集」を使いました。

◆自宅の本棚

――教材はどのように選んだのですか?

親子さん 自分のなかで「総合的」・「短答向け」・「論文向け」とカテゴリを分けて教材を選びました。

総合的というのは短答・論文のどちらにも対応できるような教材で、CPA会計学院のテキストと「コンプリートトレーニング」がそれにあたります。テキストでいえば、どの予備校も網羅性を重視していると思いますが、問題集の「コンプリートトレーニング」は特にそれが重視されていました。

「仮にこれさえできれば絶対に合格できる」という教材がほしいと思っていたので、CPA会計学院の校舎に立ち寄って20分ほど立ち読みし、インターネットで購入しました。

また、総合的な教材を選んだのは、本試験まで時間がなかったので、短答式試験ギリギリまでは短答に特化した勉強はしたくなかったというのもあります。

とはいえ、さすがに直前期は特化した勉強が必要なので、短答向け・論文向けの教材をそれぞれ買って、知識を補強するといった感じでした。

――教材以外で使っていたツールで効果的なものはありますか?

親子さん Twitterと「情熱タイマー」というアプリです。Twitterはもっぱら情報収集に使っていて、予備校の先生のプチ解説動画や「この時期には何ができているといいね」といった発信を参考にしていました。

ただ、Twitterにはデメリットもあって、やはり頻繁に見てしまうので、時間泥棒にならないように「情熱タイマー」を使っていました。一部の受験生の間で話題になっていた勉強時間を計るアプリなのですが、登録したアプリ以外は開けない設定にできるんです。それを使って、Twitterをはじめ勉強に関係ないアプリは、基本的には開けないようにしていました。

◆アプリ「情熱タイマー」のスクリーンショット

試験3ヵ月前まで「インプット」を中心

――普段はどのように勉強していましたか?

親子さん 特徴的かもしれませんが、2月くらいまでずっとテキストを読んでいました。

普通だとインプットとアウトプットを並行していくと思うのですが、勉強を始めたのが前年9月で、時間がないなかで周りに追いついて、さらに追い抜かないといけない状況です。そのため、他の受験生のやり方をトレースしているだけでは、絶対に追いつくことはできないと思いました。

そこで自分に合った勉強法を考えたところ、アウトプットも大事だけれど、インプットをちゃんとすればアウトプットの時間は削減できると思ったんです。

インプットに自信がないままアウトプットに進んでも、わからないことを確認するためにインプットに戻ってしまいますよね。それを繰り返すよりは、最初にインプットに集中したほうがよいと考えました。

テキストを読むにしても、たとえば「AだからBである」という文章があったときに、本当に「AだからBである」と言えるのか?と考え抜くんです。数学を勉強している人は「行間を読む」と言ったりするのですが、それくらいテキストを熟読していました。

その結果、3月くらいには、「これってこういうことだよな」と、テキストを見なくても自分の口でスラスラ言えるようになりました。

――インプットしていてわからないことがあったとき、どう対処していましたか?

親子さん まずは、もう一度テキストを読みます。テキストをしっかり読めば理解できるのに、表面的にしか読んでいないからわからない、そういったことがないかを確認するようにしていました。

それでも理解できないときはインターネットで調べたり、市販の本を読んだりしました。特に私の場合、企業法でつまずくことが多く、そんなときは『はじめての会社法』(TAC出版)や他の法律書を読みました。

監査論も『はじめてまなぶ監査論』(中央経済社)を読み、あまり細かいことは書かれていないのですが、市販の本でエッセンスを確認してからテキストを読むというのは、理解が深まってよかったと思います。

――インプットがメインだと、本当に覚えているのかと不安になると思うのですが、この点はどう考えていましたか?

親子さん そんなに記憶力がよくないので、その点については自分もどうしようと考えていました。

よかったと思うのは、休日に家で勉強した後に散歩に行ったことです。そこで歩きながら学習内容を振り返りました。

たとえば、
「今日は監査論で二重責任の原則を勉強しました。二重責任の原則って、ざっくり言うと経営者と監査人に別々の責任があるということ。経営者の責任は財務諸表を作成することで、監査人の責任はそれを監査して意見表明すること。じゃあ、なんで二重責任の原則がないとダメなんだっけ?」
と、誰かに講義をするようなイメージです。

そのとき忘れていることがあればスマホのメモアプリに残しておき、帰ってからテキストを見返しました。

これが自分のなかでのアウトプットだったのかもしれないのですが、「散歩しながらの1人講義」は知識の定着に役立ったと思います。

わからない問題を放置せず、丁寧に向き合う

――本格的なアウトプットは3月くらいから始めたのですね。

親子さん そうですね。正直なところ、5月の短答式試験に間に合うはずはないと思っていたのですが、この頃から「もしかしたらいけるかも」と思うようになりました。

というのも、12月くらいにTACの「過去問題集」を買っていて、最初は見てもわけがわからなかったのですが、改めて見返してみたら、解けるかどうかはわからないけれど、問題の言っていることはわかるという状態になっていたんです。

それなら、そろそろアウトプットを始めないとまずいと思い、3月くらいから問題集を解きはじめました。

――過去問を早くから見ていたようですが、最初にある程度、出題傾向を知ったうえで勉強していたのでしょうか?

親子さん そうですね。テキストでもA~Cと論点がランク分けされているので、最初から意識づけはできていたと思いますが、過去問を見るようになってからは「この論点は過去に何回出ているな」と分析していました。

独学だと、何をどこまで勉強すればよいのかわからず悩んでしまいますが、12月の時点で過去問を見ておいたことで、その後の勉強にメリハリがついてよかったと思います。

――模試は受けていましたか?

親子さん 3月にTACの短答模試を1回、7月にCPAと大原の論文模試を1回ずつ受けました。会計士試験は相対評価で合否が決まるので、自分の立ち位置を知るのは絶対に大事だと思います。

また、本番形式の練習をするという意味でも、受けておいて損はないです。私は普段、時間を計って問題を解くということをしていなかったので、本番慣れのためにも受けていました。

――ということは、過去問はどう解いていたのでしょう?

親子さん 直前は時間を計って解きましたが、基本的には「つまみ食い」です。時間を計らず、1つ1つの論点を理解できているかどうか、確認するために過去問を解いていました。普通の問題集と同じような感じですね。

下手に時間を計ってしまうと、わからない問題を放置してしまう可能性があると思いました。「よし、制限時間内に解くぞ」と思っても、「この問題はわからないから、あとで解こう」と飛ばしてしまったら、その問題を振り返ることはないだろうと思ったんです。

結果、わからない問題が積みあがってつらくなると思ったので、最初から「理解する」ことを目的に、時間無制限で1問1問を丁寧に解いていました。

とはいえ、時間配分の練習も必要なので、短答も論文も、2週間前になったら時間を計って過去問を解きました。受験期間全体で、短答は過去5回分、論文は過去8回分は解いたと思います。

得意科目は管理会計論、コツは「なぜそうなるのか」を理解する

――得意だった科目はありますか?

親子さん 管理会計論です。数学を勉強していたアドバンテージもあったと思うのですが、管理会計論の計算はすべてのステップに意味があって、筋道に沿って考えることができるので好きでした。

――管理会計論が苦手な人は多いですが、克服するコツはありますか?

親子さん 他の科目もそうかもしれませんが、「なぜこのように計算するのか」を自分の言葉で説明できるまで理解することが大事だと思います。

個人的には、管理会計論でつまずく要因は2つあると思っています。1つは計算が遅いとか、ケアレスミスが多いとか計算力が低いパターン。もう1つは理屈を理解していないパターンです。

財務会計論も管理会計論も苦手な人は、1つめの計算力が弱い可能性がありますが、管理会計論だけ苦手な人は、「なぜそうなるのか」という考え方をつかめていないのかなと思います。特に狭義の「管理会計」のほうで顕著ですが、管理会計論では理屈を理解することが最も効果的です。

また、管理会計論は1つ1つの計算が重いんですよね。そのため、計算で勉強時間を食ってしまう人も多いのかなと思います。

ただ、電卓を叩くだけで勉強時間を消費してしまってはもったいないので、私の場合は、計算式やボックス図まで書いたら終わりにし、すぐに解答を見て合っているかどうか確認していました。

勉強しているのは管理会計論を理解するためであって、答えを導くためではありません。答えを導くための計算練習は直前にすればいいと考えていました。

管理会計論に限らず、「今この時間は何をする時間なのか」ということは常に意識していました。

◆受験前日に買ったお守りとおみくじ。おみくじには「学業:人にたよるなかれ」の文字が。独学で正解だったのかもしれません。

独学だからこそ気づけた大切なこと

――独学で会計士を目指す受験生にメッセージをお願いします。

親子さん 独学は難しい選択で、本当に合格できるのかなとか、孤独感に耐えられるのかなとか、とにかく不安だと思います。

ただ、自分に必要な教材がどのようなものか、その判断基準を決めて、それに合った教材さえ見つけることができれば、独学も不可能ではありません。

また、これは先の話、かつ実務補習所に通ったばかりの人間の意見で恐縮ですが、実務補習所ではよく「一次情報にあたれ」と言われます。会計基準とか適用指針とかですね。

会計士としてプロになったら、「予備校のテキストに書いてあったからこうなります」とは言えませんし、「会計基準でこうなっているからこうなります」「その理由はこういうものです」と、もととなる情報を根拠にしないといけません。

私も基本的に使っていたのは予備校のテキストではありましたが、つど一次情報に触れたり、その道の専門家が書いているような本を読んだりもしていました。

自分の意思で何を読めばいいのかを考えて、それを探して読むというのは、独学の人にしかできないことです。これに慣れておくことで、合格した後の勉強もしやすくなると思います。

マイナスなイメージもある独学ですが、長い目で見たらいい選択です。頑張ってください。

――励みになるメッセージをありがとうございました! 親子さんの会計士としてのご活躍を応援しております♪


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