もうすぐ春、新しいチャレンジをする季節。
会計人コースWeb読者の皆さんのなかには、「公認会計士」の資格に興味のある方も多いのではないでしょうか。
そこで、「この春から始める公認会計士試験」と題して、CPA会計学院を運営する国見健介先生(公認会計士・CPAエクセレントパートナーズ代表取締役)にインタビューをさせていただきました。
新刊著書『親子で目指す公認会計士受験ガイド』(中央経済社)では、受験生本人に必要な努力はもちろん、親や家族など周りの人がどのようなサポートを求められるかがまとめられており、まさに、公認会計士試験の受験生活から、学習法や合格後の就活のことまで、まるっとわかる1冊です。
「会計士になりたい!」と思っている高校生・大学生・専門学校生とその保護者の皆さん、さらには現在勉強中の会計士受験生も必見です。
受験勉強で「成果を出しやすい環境」をどう作るか
―—本書のテーマが「親子で目指す公認会計士受験」。難関といわれる公認会計士試験において、この「親子関係」はどれくらい重要なものなのでしょうか?
国見先生 これは公認会計士受験に限った話ではなく、人が目標に向かって進むとき、困難なものを達成しようとするとき、自分の周りの人たちとの関係はすごく大事になってくると思っています。
受験とは少し違うかもしれませんが、たとえば仕事でも、同僚とか上司や部下と良い関係性を築けていないと、本来の目的を達成すること以外に時間やエネルギーがとられてしまいますよね。
難関なものに臨むときって、お金や時間、環境、精神的なもの、そういったことが足を引っ張るかどうかということがあると思うんです。公認会計士試験の場合、ここに親との関係が大きく影響してきます。
経済的なものがわかりやすいのですが、やはり受験するにはお金が必要ですし、それを自分でアルバイトや仕事をして稼ぐとなると、勉強する時間がとられてしまいますよね。
また、精神面でも、「勉強して意味があるの?」とか「受からないんじゃないの?」とか、そういったことを言われてマイナスな方向に進んでしまう、このようなことは親子間でも起こりやすいんです。
逆を言うと、親子関係によって、勉強を「どんどんプラスの方向にもっていける」ということでもありますね。
やはり、公認会計士試験という難関なものに挑むには、前向きに進み続けるエネルギーが大事になるので、そういったところは、受験生の一番身近にいる保護者の影響が大きいと思います。
もうひとつ言うと、親が「よかれと思ってしたこと」が、逆に本人にとってはマイナスに働いてしまうこともあります。
保護者の方にとっては、こういったことを意識しながら、「子どもが成果を出しやすい環境」を作るのが非常に大事になってくるのではないかと思います。
――公認会計士試験の場合、大学受験などと情報がまた違ってくるので、親にとってはわからないことも多いのではないかと思うのですが、どのように子どもをサポートしていくとよいのでしょうか。
国見先生 もともと私たちの意識には、大学進学や就職というものが強烈に植えつけられていると思うんです。「大学に入れば大丈夫」とか、「いい企業に入れば大丈夫」というように、大学進学や就職という1点の目標に主眼が置かれているように感じます。
ただ、公認会計士試験であったり、自分のために生涯学び続けたりするということに関しては、そのチャレンジや学びを通して、「答えのないもの」を選びながら、「結果を出す力」を身につけていきます。そういった意味で私は、公認会計士試験は正解のないチャレンジだと思っています。
ですので、1つの正しさを押し付けたり、合格しないとダメだと思ったり、そういった視点はもたないほうがいいのかなと思います。
私の知り合いで、10年以上司法試験に受からず、30代過ぎからキャリアチェンジをした方がいますが、その経験を踏まえて、現在は経営者としてすごく活躍しています。司法試験に受からなかったという1点だけを見れば失敗で、時間を無駄にしたと捉えることもできるのですが、その方はその過程でいろんなことを学んだと思うんです。
こういう視点がないと、長い人生のなかで短期的に結果が出るチャレンジしかできなくなってしまいます。ですので、正解のないチャレンジであることを意識して、受験生をサポートしていくことは大事だと思いますね。
――公認会計士試験に合格する受験生と保護者の関係性に共通点はありますか?
国見先生 これについては、実はあまりありません。たとえば、両親の手厚いサポートのもと勉強を進めている方もいれば、サポートゼロですべて自力で進めている方もいます。サポートがゼロどころか、いろんなことに足を引っ張られながらも合格する方もいるので、共通点というものは特にないんですね。
ただ、やはり保護者との関係でプラスがどんどん生まれている方のほうが合格しやすいのは間違いありません。最初にお話ししたように、良好な関係を築けているほど本人もモチベーションを維持できますし、目標達成の確率も上がると思うんです。
たとえばオリンピックを目指している選手も、一族が大反対していて誰も援助してくれないなかでチャレンジするのか、家族の応援があってチャレンジするのか。メダリストの方は家族が熱烈にサポートしている印象がありますよね。
ですので、こういった家族や親子の関係で目標達成の確率が変わってくる、というのはあるのかなとは思っています。
公認会計士試験は「自分で選ぶ」チャレンジ
――本書では「公認会計士試験の学習法」についても解説されています。公認会計士を目指す受験生は大学生が多いですが、大学受験と公認会計士受験の大きな違いは何ですか?
国見先生 いくつかあるのですが、たとえば、大学受験の場合は第一志望から滑り止めまで複数の学校を受けられますよね。対して公認会計士試験は、「第一志望1本勝負」のようなところがあります。
大学受験でも、第一志望に合格した人の割合はそこまで高くないと思っています。ただ、「第一志望ではないけれど、どの大学も素晴らしいと思うから」という視点で進学先を選択することができます。しかし公認会計士試験では、第一志望に受からなければいけません。
ということは、それに必要な「努力」と「改善」をしていかないといけないわけです。まずはそこが大学受験との違いかなと思います。
それ以外で言うと、大学受験ではAO入試や推薦入試があったり、科目を絞ることができたり、いろんなルートがあります。一方で公認会計士試験は、「全科目を一括で受ける」という1つのルートしか基本的にありません。
暗記が得意とか、努力は苦手だけれど理解さえすれば大丈夫とか、そういった理由で科目の好き嫌いはあるかもしれません。大学受験ではその好き嫌いに合わせて対策できる面もありますが、公認会計士試験では「暗記」と「理解」の両方に向き合わなければいけません。
ひたすら暗記すればなんとかなるわけでもないですし、理解力があるから努力しなくていいというわけでもないんです。そういった意味で言うと、国立大学を目指して全科目を勉強してきた方などは、こういった訓練を高校時代からしてきているのかもしれませんね。
そういった訓練を一切してこなかった方もいると思いますが、公認会計士受験を通して、努力はもちろん、理屈を理解して効率よく力を上げていくことは社会に出てからも必ず役に立ちます。
こういった力を鍛えられるというのも、大学受験とはまた違うところなのかなと思います。
――他にも違いはありますか?
国見先生 他で大きいことと言えば、本来は大学受験や就職は自由なものですが、言ってみると「みんなしているからする」というように、世間にひかれたレールに乗っているという面もあると思うんですね。
対して公認会計士試験は、別にそういうレールがひかれているわけではなく、数ある選択肢のなかから「自分がやりたいものを選んでいる」のです。
「大学受験なんてするな」と言う人は少ないと思いますが、公認会計士試験の場合は反対する人もいるんですね。
ただ、どの道が正解かなんていうものはありませんし、そういった声に惑わされることなく、自分が選んだ道を正解にしていくことが大事です。
公認会計士試験は、本来やらなくてもいいのに自分がやりたいからやるというチャレンジの要素が強いので、ここで「自分」というものをもっていないと、隣の芝生が青く見えてしまいます。周りが遊んでいたり、もう働いていたりしていて、自分と比べてしまうと、無難な道に行きたくなってしまう。ただ、そこで人と同じような道を進むと、結果も人と同じようになってしまう可能性が高いです。
オリンピック選手でもノーベル賞受賞者でもいいのですが、人とは違う結果を出している方というのは、おそら人とは違う道を進んできたと思うんですね。
ですので、「自分で選んでやっている」、「人と同じじゃなくてもいいんだ」、こういった感覚をもてないと、チャレンジを継続することは少し難しいかもしれません。これも大学受験との違いですね。
プロに頼るほうが圧倒的に学習効率がよい
――公認会計士受験を決めたとき、専門学校に通うという選択肢が出てきます。専門学校で学ぶことのメリットや効果を教えてください。
国見先生 まずは何倍も効率的ということです。たとえばテニスプレーヤーを目指すにしても、ずっと自分1人で練習するのと、スクールで経験のあるコーチに習うのとでは、進み方が違います。
自転車も、誰にも習わなくても乗れるようにはなると思いますが、習ったほうが圧倒的に早いですよね。
これは公認会計士試験に限らず、コミュニケーションのスキルとか、論理的な思考力とか、世の中のすべてのものにはノウハウがあるので、それを学ばないというのは、人生の限られた時間では非効率になってしまいます。
当然、学費は安くありません。ただ、スクールに通って1年早く受かるだけで、それだけ早く公認会計士になることができて1年分の年収が変わります。受かるのが2年遅くなれば、2年分の年収が変わります。
かつ、仮に同じ「合格」でも、やはり誰かに習ったほうが圧倒的に正しい理解ができると思うので、その後の活躍ぶりも違ってくるのではないかと思います。
人生という長い目で見た費用対効果としては、専門家に頼ったほうがよほど効率がいいですし、より多くの時間を自分が結果を出すために使っていけます。
ただ、暗記する要素が強いものは、独学との相性が結構いいんですね。暗記は結局、「自分の力」なので。
たとえば、英語も、スピーキングは独学では難しいかもしれませんが、英単語のインプットといったような、「知識を知るか、知らないか」といった勉強は独学に向いていますね。
一方で、数学や物理のようなロジックを理解しないといけない科目は、独学だとなかなか効率が悪いんです。
こういった点でいえば、司法試験は独学をする人が比較的いる国家試験です。これは、法律というのが読めば納得しやすいという面もあるのではないでしょうか。
対して、公認会計士試験で独学をする人がほとんどいないのは、知識を覚えるというよりは、理解が求められる試験であり、その理解が大変だからです。
当然、司法試験も難関なので独学は少数派ですが、やはり司法試験のほうが公認会計士試験よりもまだ多い。「独学」がテーマの書籍も、司法試験のほうがニーズがあるので、書店に行ってもある程度の数が本棚に並んでいますよね。独学の向き不向きは、科目の性質にもよるのかなと思います。
勉強は「正しいやり方」ができているかどうか
――大学生活との両立、社会人生活との両立ができている受験生は、学習面や生活面においてどのようなことを意識していますか?
国見先生 学生か社会人かに限らず、大事なのは「合格に必要な時間」を必ず確保することですね。試験委員は「この受験生は仕事で大変だったから、特別に100点下駄を履かせてあげるね」とかいったことは当然ないので。
ですので、まずはスケジュールの中に合格に必要な勉強時間を組み込んでいく。そうすれば、スパンは人それぞれですが、合格に値する実力がついてきます。
受験勉強に専念している方でも、そういった計画を立てないばかりに、本来は時間があるのに必要な時間を確保できていないこともあるので、やはりそこを自分の中でどうしていくかは大事です。
よく言うのですが、1日24時間のうち7時間寝るとしたら、残り17時間の使い方が勝負なんですね。仮に仕事が8時間あるとしても、実は9時間残っている。この9時間をどれだけ効率よく使えるか。
大学の授業とか仕事とか、絶対に動かせないものは仕方がありません。それ以外の時間を振り返ると、意外に稼働率が高くない部分があるので、そういった「何に使ってしまっているんだろう」というところを削って、公認会計士試験の勉強に充てていくのが大事です。
そうなると、友人と過ごしたり、インターネットを見たりというのは、なかなか時間的に厳しくなってきます。ただ、そこは受験を2年と決めたら2年は勝負する、空いた時間で自分を追い込む、そういった覚悟をもって臨んだほうが合格の確率も上がります。
また、日本人は効率を上げるという意識が弱く、どうしても「量」をやってしまいがちです。たとえば、公認会計士だけでなく税理士の受験生でも、「何時間勉強している」ということにこだわる方は多いと思いますが、「どれだけ効率よく勉強できているのか」というやり方に意識を置いている方は少ないと思うんですね。
私はやはり、この「効率」が大事だと思っていて、どれだけ費用対効果のいい努力をできるかという話なのですが、勉強も仕事も、もっと「いい努力」をしたほうがいいと思うんです。努力は大事なことですが、無駄な努力していてもなかなか結果が出ません。
よく受験生に言うのは、「25メートルのプールが2つ並んでいて、1つは満タンで、もう1つは空っぽ。この水を移し替えてください。」
そういう例を挙げたら、皆さんは絶対にやり方、すなわち「質」が大事だと思うはずなんですね。
スプーンで水を移しても、頑張っているのはわかるけれどバケツのほうがまだいいよね。もっと言えば、ポンプとかあったほうがいいよね。
このように、効率はやり方次第で10倍、100倍、1000倍と変わる可能性があるんです。
ただ、今の例は当たり前の話なのですが、結果が出ないときって意外と、スプーンを使っていたり、ポンプで早く成果を出す人に対して「あの人は特別だよね」とか言ったりします。
量も大事ですが、それ以上にやはり、正しい方法を選択しているかが大事です。社会人のように勉強と仕事を両立している方は特に、こういった「やり方」を意識する必要があります。
逆を言うと、多くの人が効率の悪いやり方をしているので、正しいやり方さえ実践すれば結果は出やすくなる、というのもあると思います。
公認会計士の魅力、受験生へのメッセージ
――これからの社会において、「公認会計士」にしかない専門性や魅力は何でしょうか?
国見先生 おそらく将来的には、個人の能力がスコア化されるような時代になっていくと思います。信用力などもそうですが、個人の能力がゲームのキャラクターのように数値化されてしまう。
公認会計士は、ビジネスに関する幅広い知識を学ぶことができるので、そういった時代になっても活躍できる場面は非常に多いのではないかと思います。
また、勉強する過程で計画力、判断力、修正力、論理的思考力、忍耐力、目標設定力など、さまざまな結果を出すためのパーソナルなスキルも磨くことができます。
もっと言うと、公認会計士は試験に合格した後も学び続けなければいけません。公認会計士試験合格は自信にもなりますし、学ぶ方法や学ぶ意欲など、そういった力を手に入れられるというのも大きな魅力かもしれませんね。
――この春から公認会計士を目指す方に向けてメッセージをお願いいたします。
国見先生 まずは、これから何十年と無限の可能性があるので、素敵な人生を送ってほしいというのが1つですね。
もう1つは、難関なので全員が合格できる試験ではありません。ただ、受からなければ無駄というわけではなく、本気でチャレンジした経験がすべて自分の力になりますし、すべて自分の財産になっていきます。
たとえば、甲子園を目指していた高校球児が甲子園に出れなかったからといってすべてが無駄になるのかというと、そんなことはなく、その過程で人として大きく成長できると思うんです。
当然、結果が出るに越したことはありませんが、やはりどんなに素晴らしい人でも、おそらく2回に1回は失敗しているはずなんですよね。そういった意味では、自分の興味のあることにチャレンジを続けることが、一番の財産になるのかなと思います。
公認会計士試験も、そのようなチャレンジとして向き合えば、結果として手に入れられるものが多いと思います。合格もしやすくなると思いますし、仮に合格という結果が出なくても、それは次のチャレンジに大きく活きていくはずです。これが公認会計士を目指す方には伝えていきたいことですね。
――励みとなるメッセージをありがとうございました!
【お話を聞いた人】
国見 健介(くにみ けんすけ)
公認会計士/CPAエクセレントパートナーズ株式会社代表取締役。
1978年東京都生まれ。1999年公認会計士試験合格、2001年慶應義塾大学経済学部卒業。
2001年9月にCPAエクセレントパートナーズ株式会社を設立し、代表取締役就任。
2003年1月公認会計士登録。
2015年4月にCPAキャリアサポート株式会社を設立し、代表取締役就任。現在に至る。
主な著書に『公認会計士の「お仕事」と「正体」がよ~くわかる本』(秀和システム、2014年)がある。
運営するCPA会計学院は、2021年公認会計士試験(全合格者数1,360名)において、510名の合格者を輩出した。
【書籍紹介】
『親子で目指す公認会計士受験ガイド』
国見 健介 著
定価:1,760円(税込)
発行日:2022/02/22
A5判 / 144頁
978-4-502-41831-0
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