加藤久也
(税理士/名城大学大学院非常勤講師)
【編集部から】
受験生が理論学習を本格化させていく時期。
理論の勉強にあたっては、「インプット」と「アウトプット」の両方において、どんな方法が正しいのか、悩む方も多くいるのではないでしょうか。
特に、税法科目の場合は、内容の難しさやボリュームの多さから、理論学習に苦しむ受験生も少なくありません。
そこで、そんな皆さんの不安を払拭できるよう、税法理論の「インプット」と「アウトプット」のそれぞれにおいて知っておきたい「礼儀作法」(=学習の姿勢)を、大手専門学校で受験指導のご経験もある税理士の加藤久也先生にアドバイスいただきました。
今回は「インプット」を中心にお話しいただきます。
「出題のポイント」からみる、税法科目の受験生に求められていることとは?
国税庁は毎年度、「税理士試験出題のポイント」を科目別に公表しています。
令和3年度(第71回)税理士試験の消費税法を例に、出題者が「理論」の解答において何を求めているのか考えてみましょう。
次の問題は、令和3年度(第71回)税理士試験の消費税法の第一問・問1です。
〔第一問〕 問1 次の⑴~⑶の問に答えなさい。 ⑴ 課税売上割合が著しく変動した場合の調整対象固定資産に関する仕入れに係る消費税額の調整について述べなさい。 ⑵ 消費税法第45条の2第1項に規定する法人の確定申告書の提出期限の特例について簡潔に述べなさい。 ⑶ 消費税法第46条の2に規定する電子情報処理組織による申告の特例について、この特例の対象となる事業者にも触れながら簡潔に述べなさい。 (引用:令和3年度(第71回)税理士試験「消費税法 試験問題」) |
「○○について述べなさい」という、規定をそのまま答えるタイプの問題でした。いわゆる「ベタ書き問題」というものですが、この「出題のポイント」は何だったのかを確認してみましょう。以下がその「出題のポイント」です。
(前略) 本問は、この仕入れに係る消費税額の調整のうち、課税売上割合が著しく変動した場合の調整についての問題であり、調整対象固定資産の課税仕入れ等を行った課税期間に仕入れに係る消費税額を控除し、第三年度の課税期間に当該調整対象固定資産を有している場合には、課税売上割合が著しく変動しているかどうかを確認し、消費税額の調整の要否を判定することは実務においても重要なものであるから、制度の内容を正しく理解していることが必要であり、その内容を問う問題である。 (中略) こうした近年の改正事項についても、その適用対象となる事業者など、制度の内容を正しく理解していることが実務においても必要であり、その内容を問う問題である。 (引用:令和3年度(第71回)税理士試験出題のポイント「消費税法」) |
この問題の「出題のポイント」には同様の内容が2回記述されています。
「制度の内容を正しく理解していることが必要であり、その内容を問う問題である」
と
「制度の内容を正しく理解していることが実務においても必要であり、その内容を問う問題である」
です。
どうでしょう。覚えていれば答えられるような問題に見えても、出題者は「条文どおりに暗記する」ことを期待しているわけではないことがわかりますね。
税法をインプットする際には、「出題のポイント」にあるように、ただ文字を追うのではなく「内容を正しく理解」することを意識しましょう。
また、他の問題や科目に関しても「出題のポイント」を見ておくことをオススメします。受験する予定の税法科目がある方で、まだ前年度の「出題のポイント」を見ていない方は、今のうちに確認しておきましょう。
税法理論は「暗記」しなくてもよいのか?
上記の内容も踏まえて、「インプット」における礼儀作法をお話しします。
まず税理士試験の「理論」について、会計科目は「理解したことを作文で説明する」、税法科目は「暗記したことを一言一句間違えずに記述する」とよく言われます。
本当にそうでしょうか。たしかにそんな時代もあったような気がします。しかし、今は違います。
先ほど指摘したように、出題者は受験者に「条文どおりに暗記している」ことを期待しているわけではなさそうです。
それでは、会計科目のように、理解したことを作文して説明すればよいのでしょうか。暗記はしなくてもよいのでしょうか。残念ながら、そうでもありません。
税法は、法律です。法律には、その適用要件(たとえば「……した場合」には)と、その規定の効果(「……しなければならない」)が書かれています。この「要件」と「効果」を理解し、正しく解答できるのであれば、暗記は不要です。
しかし、試験時間は限られています。そんななかで問題を読み、適用されうる規定を選び、作文して解答することができるでしょうか。税法科目の出題内容、ボリュームから考えると「難しい」と言わざるをえません。
そこで、試験時間内に正しく無駄なく解答するために、「暗記」という手段が役に立つのです。
決して、最初から「暗記すればよい」ということではありません。お伝えしたいのは、ただやみくもに暗記するのではなく、すばやく正しく解答するために「暗記」という手段を使ってください、ということです。規定の内容を正しく無駄なく記述しているのは条文なのですから。
「内容を理解」したうえで、インプットに臨みましょう。
次回は、「アウトプット」についてお話しします。まだ「インプット」の段階だという方も多いと思いますが、その後のステップとして、ぜひご覧ください。
<執筆者紹介>
加藤 久也(かとう・ひさや)
税理士/名城大学大学院非常勤講師(消費税法担当)
1991年、富山大学理学部卒。1991年~1995年、株式会社日立製作所に勤務。1998年、税理士試験合格。2000年、税理士登録。2002年、愛知県春日井市に加藤久也税理士事務所開業。税理士業のほか、1998年~2019年に名古屋大原学園、2016年より名城大学、2019年より愛知淑徳大学にて非常勤講師を務める。2017年より東海税理士会税務研究所研究員、2021年より同研究所副所長に就任。2019年より日本税法学会所属。著書に『ワークフロー式消費税[軽減税率]申告書作成の実務』(共著、日本法令)がある。
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