わたしの独立開業日誌 #税理士・榮前田慶太


【編集部から】
士業の魅力は、独立開業できることにもあります。「将来は独立」を目標に合格を目指している方も多いのではないでしょうか。
そこで、「わたしの独立開業日誌」では、独立した先輩方に事務所開業にまつわるエピソードをリレー形式でお話しいただきます(木曜日の隔週連載)。
登場していただくのは、税理士・会計士をはじめ、業務で連携することの多い士業として司法書士や社労士などの実務家も予定しています。
将来の働き方を考えるヒントがきっと見つかるはずです。

リクルートの営業から税理士へキャリアチェンジ

神奈川県は湘南、江の島の目の前で開業している税理士の榮前田です。
今年で開業して3年目になります。​​
なかなか書くことは得意でなく、この原稿も締め切りギリギリで書いていますが、何か皆さんの役に立つことがあれば嬉しいなと思います。

まず、簡単な自己紹介から始めると、私は神奈川県で育ち、神奈川県(湘南)に住んでいます。大学卒業後、カナダに留学してスポーツマーケティングを専攻しました。
帰国後は株式会社リクルートに入社して求人広告(リクナビNEXT)の新規開拓営業をしていました。
神奈川県の中小企業を担当し、約2年半勤務しましたが、リーマンショックの中、求人広告の仕事も激減し、お客様の経営状況も悪化していくのを目の当たりにし、このまま仕事を続けることに不安を感じて退職しました。

ひたすら行動しろと言われる激務が正直しんどかったのもあり、「専門性を持って仕事をしたい」、また、営業の仕事では数々の中小企業の経営者の方にお世話になったのもあり、引き続き「中小企業の支援がしたい」と考えてたどりついたのが税理士の仕事でした。

いったんは公認会計士経由での税理士登録を考え、公認会計士試験に専念するも不合格。その後、税理士事務所で働きながら税理士試験を受験しました(合格まで8年かかりました…)。
そして、
2019年4月に税理士登録(所属税理士)
2020年1月に独立開業
2020年5月に中小企業診断士登録、という流れで今に至ります。

◆開業後のプロフィール写真

開業する前〜昔ながらの小さな事務所で働いた9年間

開業するまでは都内の小さな税理士事務所で9年間勤務していました。
地元に根ざした2代目の所長の事務所で、地元の顧問先を中心としながらも様々な業種・規模の顧問先があり、法人・個人・相続とまんべんなくやっていました。 しかしながら、特化した業務というのはなく、税理士としての専門性・特徴がないというのが悩みどころでした。

また、時代の流れについていけているとはとても言い難い事務所でした。
職員のPCはインターネットにつながらず、共用のメールアドレスがひとつ、インターネット専用のPCが1台だけという環境。 電子申告もしていませんでした。

業務は標準化されておらず、内容や進め方は担当者に任せられている状況。
悪く言えば放置なのですが、かなり裁量を持ってやらせてもらえていて、いろいろな顧問先のために何ができるか、あれこれ考えて試したり挑戦したりできる環境ではあったと思います。
そんななかで独立を考えたとき、「果たしてやっていけるのか…」という不安な気持ちもありました。

開業までに取り組んだ2つのこと

そこで、独立するまでにできることをやっておこうと思い、主に2つのことに取り組みました。

(1) 特徴をつくる

税理士としての特徴をつくる意味で、中小企業診断士試験を受験しました。
会計や税務だけでなく、「経営の視点も持って顧問先を支援できるようにする」というのは、それまでに自分が考えてやっていたことではありましたが、目に見えるかたちで表すために中小企業診断士の資格取得を目指しました。

また、事務所を江の島の目の前にしたのも特徴づくりの1つです。
自宅事務所での開業や、県内でもオフィスの多い場所である横浜や藤沢といった場所での開業も検討しましたが、最終的に江の島が目の前に見える海沿いの物件を借りました。
個人の趣味的な部分もあるのですが、「検索したときに目立つこと」や「自己紹介したときのわかりやすさ」で選択しました。

◆事務所の大きな窓からは湘南の海と江ノ島が見える。

(2) 他の事務所を知る

税理士業界や他の事務所について全くの無知で、時代遅れであることを感じていたのもあり、税理士業界のいろいろな方とつながれるツールとしてツイッターを始めました。 
結果としてツイッターで声をかけてもらい、福岡の税理士法人アーリークロス、税理士法人glad、エンジョイント税理士法人という税理士業界でも先進的である事務所、経営支援に取り組んでいる事務所を訪問してお話を聞く機会をいただくことができました。 
快くいろいろとお話を聞く機会をいただけたのは今考えてもとてもありがたい経験でした。

また、クラウド会計ソフトfreeeのユーザーコミュニティである「freee”マジカチ”meetup!」にも福岡、名古屋、東京で参加し、その後マジカチ名古屋でLT(ライトニングトーク:5分程度の短いプレゼン)に登壇、全国会であるマジカチJAPANでもLTに登壇させていただきました。
おかげでクラウド会計ソフトやその他のITツールについての知識を得ることができ、業界の方とのつながりを作ることができました。

開業した後〜コロナ禍で状況が激変した1年目

2020年1月の開業後まもなく、新型コロナウイルス感染症が拡大し、状況が大きく変化しました。
外出して人に会うのも難しく、顧問先を見つけるのも難しい状況になってしまいました。
自分の気持ちとしても、「待ち」の姿勢になり、積極的に動けなくなっていました。

また、ターゲット設定が曖昧なまま、なんとなくやっていたのもよくなかったと思います。
停滞している状況をひしひしと感じ、不安な状態で開業1年目を過ごしました。

そんななかでもマジカチでのLT登壇経験からセミナーのご依頼をいただくなど動きが出てきて、だんだんとホームページからも顧問契約のご依頼を頂けるようになってきました。

今も、顧問契約はほとんどがホームページからのご依頼です。
ご依頼をいただく要因としては、
・クラウド会計(freee)を使える税理士
・若い(30代)
・リクルート出身
・中小企業診断士
といったことを挙げていただくことが多いですね。

開業して変えたこと

(1) ターゲット設定

まず大事なのはターゲット設定をしっかりすることだと思います。
どんな人たちにどんな価値を提供したいのか、どうなってほしいのか。
私の場合は、あまりこの点を考えずにスタートしてしまいましたが、途中から「湘南で起業する人」というターゲットを軸にして、特に会計に関してあまり自信がない方に、「現状把握→予測→計画作成」というように会計リテラシーを高めていってほしいと考え、それに沿って戦略を練っています。

(2) 雰囲気づくり

聞いてもらえる、話しやすいと感じてもらえることは顧問先にとっても税理士の業務にとっても大事なことだと思っています。
ホームページを優しい雰囲気になるようにしてみたり、柔らかい印象を持ってもらうために髪型(パーマをかけました(笑))や服装(スーツのようなカチっとした服装ではなく、シャツなどカジュアルだけどきちんとした服装)も変えてみたりしました。

これからの課題

(1)新しいつながりづくり

コロナ禍ですっかり出不精になってしまい、新しいつながりをつくることをさぼってしまっています。
湘南の人は地域でのつながりを大事にしている人が多いのもあり、湘南での士業ネットワークのようなものができたらいいなと妄想しているところです。
また、今後の組織化を見据えて「湘南クラウド会計事務所」と名称変更して2022年をスタートしました(自分の気持ちを切り替える意味もあります)。

(2)サービス設計について

顧問業務をメインにやっていますが、細分化したり逆に業務範囲を広げたりとサービスの設計についてはまだまだ検討の余地があります。
価格設定は本当に難しくて、今も悩みどころではあるのですが、自分が設定した価格に自信を持って、価格以上の価値を感じてもらえるようにクライアントに向かい合うことが大事だと感じています。

最後に

開業してから暇な時間もたくさんあったので、「自分と向き合う時間」がたくさんあったなと感じています。
不安はたくさんありましたが、どんな仕事がしたいのか、どんな人たちと仕事がしたいのか、などよくよく考えるのは必要なことでした。
「彼を知り己を知れば百戦殆(あやう)からず」と言いますが、顧問先のことを知ることはもちろん、自分を知ることが大事だなと改めて思います。

また、仕事は大切ですが、「家族も当たり前に大切」だと思っています。
現在、10歳と2歳の2人の娘がいますが、共働きのため次女の保育園の送り迎えは私が担当しています。
私の家は父が帰ってくるのが遅く、平日の時間を一緒に過ごした覚えはほとんどありません。
海外でホームステイをしたときにホストファーザーが夕方には家に帰ってきて、家族と一緒に夕食を食べて団らんしているのを見て素敵だなと思ったことがずっと印象に残っています。

時間がすべてではないですが、家族と一緒に過ごす時間をたくさん持つことは私にとって大事なことです。
毎朝、保育園に行きたがらない次女と家でワーワーしているのも幸せな時間だと感じています。

自宅から事務所までは自転車で15分くらいで、9時〜17時の定時の中で仕事ができる環境にあります。
顧問先と自分の責任で向かい合って仕事にやりがいを感じながらも、家族と過ごす時間を大事にできるのは独立して仕事をしているからこそと思います(次女を膝の上に乗せたまま原稿を書き終わりました)。

【執筆者紹介】
榮前田慶太(えいまえだ けいた)

湘南クラウド会計事務所代表 税理士・中小企業診断士。
1983年生まれ。神奈川県出身。藤沢市在住。
駒場東邦中・高等学校から上智大学経済学部を卒業後、
カナダGeorge Brown Collegeにてスポーツマーケティングを専攻。
帰国後、㈱リクルートにて求人広告の新規開拓営業に従事。
数百人の経営者と話をする中で中小企業の経営に興味を持ち、
より深く経営者の力になりたいと考え、税理士を目指す。
その後、都内税理士事務所で約10年間の勤務を経て独立。
プライベートでは2人の女の子の父。
好きなものは建築・デザイン・スポーツ全般(週末テニスプレーヤー)

事務所ホームページ
Twitter(@keitazeirishi)

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