飯田先生のアドバイス
お客様には、税務調査で感情的にならないように、事前にいってはいけない言葉を伝えておきましょう!
今できることは何かを考えましょう!
お客様には、いろいろなタイプの方がいらっしゃると思います。
お客様の状況が自分の事務所に合わないと思うのであれば、契約しなければいいのですが、Rさんは、それを決めることが出来る立場ではないんですよね。
そこが一番悩ましいところかと思います。
本連載を読んでくださっている方は、若い税理士さんやこれから税理士の資格を取ろうと勉強中で税理士事務所で働いているという方が多いのではないかと思っています。
今勤務している税理士事務所の良くない所が目についているかもしれません。
それを今の立場で改善できるならするに越したことはないと思うのです。
でも、一職員ができることとできないことはあります。
Rさんが、自分の担当のお客様を選ぶことができないこともその1つですよね。
そこで、今ある状況でできることを考えることが必要になってくるわけです。失敗したことは必ず後で同じようなことが起こったときに役に立つように、うやむやにせず、どうすればよかったのか振り返ることです。
“税務調査のリハーサル”が大事!
まずは、事前通知があって臨場調査までの間に、調査対象者となったお客様のところに行って、税務調査のリハーサルをすることが大事です。
その際、しっかりヒアリングをしましょう。
そうすると、お客様が話に詰まるところが出てくるかもしれません。
そこのところは、他人に聞かれたくない話なんですね。
たとえば、私が調査官をしている時もこんなことがありました。
飯田:「息子さんはどうされてるんですか?」
経営者:「なんで、そんなこと答えなあかんねん。わしの仕事とは関係ないやろ!」
“えっ、これで何がわかるんですか?”と思われたでしょうか。
調査官は常に想像力を働かせています。
息子さんの話は普通の世間話です。
“わしの仕事とは関係ないやろ!”なんていわずに普通にどこで何をしているか答えればスルーするでしょう。
でも、関係ないやろと答えをはぐらかそうとするから、不正を発見するには息子さんのことを突っ込んで聞いていけば解明できるだろうと推測するのです。
この案件では、息子さんは、成人しているにも関わらず定職につかず、引きこもりをしていました。
しかし、インターネットで稼いでいて、その収入については全く申告をせず、父親が息子を扶養に入れて所得控除をしていたのです。
父親自身の所得も少なく申告していたし、息子に至っては無申告だったわけです。
税務調査でいってはいけない言葉とは?
調査官はあの手この手で調査対象者から話を聞き出そうとします。
それで、税理士としては、お客様である経営者に、事前にお伝えしておくべきことがあります。
それは、いってはいけない言葉があるということです。
調査官は、
「この領収書は何ですか?」
「この小切手に耳は何も書いてませんけど、どちらの分ですか?」
「この見積書って、破っているページがありますけど、どうされたんですか?」
などなど、即答できないことを選んでは、次々質問を浴びせることがあります。
それはなぜか
「そんな何年も前のこと覚えてるわけないだろ!」
という言葉を誘発するためなのです。
さて、「そんな何年も前のこと覚えてるわけないだろ!」という言葉を受け取った調査官はその次にこういいます。
「そうですよね。そんな何年も前のこと聞かれても覚えてるわけないですよね。じゃあ、ここは仕事をされる場所ですよね。ここに思い出せるヒントになるものがあると思うので、一緒に探しましょうか。この机の引き出しを開けてもらえますか?」
と言って、引き出しをあけさせるんです。
え~、そんなことするんですか?って思われましたか?
これは、私が、調査官をしていた時に使っていた手法です。
「そんな何年も前のこと覚えてるわけないだろ!」と啖呵を切ってしまった手前、抵抗できなくなるのです。
税理士さんが立ち合いをしていても、私の現況調査を阻止できる人はいませんでした。
経営者は、
「プライベートなモノが入っているかも知れないのに、見せられません」
といったりします。
でも、そういわれても調査を進めることができるように次の言葉を用意しています。
「一応、ここはお仕事をされる場所ですよね。仕事に関係のあるものか、そうでないものかは、私がこの目で判断させていただきます。調査を拒否されるというのであれば、そのように署に帰ったら上司に報告します。その際は、取引先に聞きに行くという調査になるかもしれませんが・・・。」
文字に起こしてみると、調査官当時、手荒なことをしていたなと思いますね。
こうした際、税理士さんはどうすればよいでしょうか。
「私の方で調べて連絡させていただくので、現況調査は勘弁してもらえませんか」
と助け船を出すんです。 そうすることで、お客様は、自分の味方になってくれていると思い、信頼度がアップするというわけです。
税務調査は経営者と親密になれるチャンス!
Rさんは、今回の件で、税務調査は嫌なもの、苦手なものと感じてしまって、もう無理かもという話をしてこられました。
でも、ずっと書いているように経営者は孤独なんです。
家族に相談するんじゃないのと思われるかもしれませんが、お金や税金に関することは配偶者である奥様にも話せないことがあるのです。
一発逆転勝負をかけたいと思う反面、家族に心配をかけたくないという思いも常にあるからです。
何かをアドバイスするというのではなく、その時の心の内にそっと耳を傾ける。
それだけでも、経営者は勇気づけられたりするのです。
Rさんは、きっと優しい性格の人だと思うのです。
語気を強めて話すことは得意ではなくても、うんうんとうなずきながら静かに話を聴くことならできるのではないでしょうか。
税務調査は、実は、疎遠だったお客様と親密になれるチャンスなのです。
“ピンチはチャンス”
お客様と一緒に税務調査を乗り切れば、絆を強化することになるでしょう。
<著者プロフィール>
飯田 真弓(いいだ まゆみ)
元国税調査官”おかん税理士”
飯田真弓税理士事務所 代表税理士
一般社団法人日本マインドヘルス協会 代表理事
◆経歴
昭和57年3月 京都府立城陽高等学校普通科卒業
昭和57年4月 初級国家公務員試験採用(普通科女子一期生)
税務大学校大阪研修所に首席で入校
昭和58年7月~平成20年7月 大阪国税局管内の税務署で勤務
税務調査の最前線で延べ700人あまりの経営者の調査を行う。
平成14年4月~平成18年3月 放送大学教養学部に在籍、卒業
平成20年7月 国税を退職
平成20年9月 税理士として独立・開業
平成24年3月 内閣府の支援事業者に選ばれ一般社団法人を設立し代表理事に就任
国税調査で培ったノウハウと大学、その他で学んだ知識と持ち前の感性で、日本の中小企業とそれをサポートする税理士及び税理士事務所・税理士法人等の企業力(人間力・交渉力・コミュニケーション力・傾聴力)をアップさせるための業務を行う。
◆資格
税理士、産業カウンセラー、健康経営アドバイザー、日本芸術療法学会正会員
◆近況
全国の法人会、納税協会、税理士会、商工会議所、経営者団体で税務調査の講演やセミナーを行う傍ら、個別カウンセリングや傾聴トレーニング、企業に出向きコミュニケーションが活性化し離職率が低下する研修も実施。
2021年2月、NHKあさイチ「ことしの確定申告」を監修。週刊ダイヤモンド2021.5/1.8合併特大号に『持続化給付金、食事宅配、あと一つは?税務署が狙うコロナ禍「三つの急所」』、『元国税調査官が教える 要注意!「ダメ税理士」図鑑』を寄稿。
著書に『税務署は見ている。』、『税務署は3年泳がせる。』(ともに日本経済新聞出版社・累計9万部を超えるロング&ベストセラー)、『B勘あり!』(日本経済新聞出版社)、『調査官目線でつかむセーフ?アウト?税務調査』、『「顧客目線」「嗅覚」がカギ!選ばれる税理士の回答力』(ともに清文社)がある。
●バックナンバー
第1回 毎日領収書の貼り付け作業ばかりやらされてるんです・・・。