河合塾KALS講師が教える 税理士になるための「大学院ルート」のいろは


令和3年度(第71回)税理士試験も終わり、手ごたえや自己採点の結果などによっては、大学院に進学して試験科目免除を受けることを考えはじめた方もいらっしゃると思います。

もともとの受験計画に「大学院進学」を組み込まれている方も多くいらっしゃるでしょう。

ここでは、河合塾KALSで税法免除大学院の入試対策講座を担当されてきた小林 幹雄先生に、「科目免除」に関するさまざまな疑問に答えていただきました。

「そもそも、どのような制度?」 そんな疑問も1から解説!
大学院進学を決めた方はもちろん、科目免除が気になっている方も必見の内容です。

実力・努力がそのまま結果につながる道!

大学院に行くと、税理士試験の科目が免除されるって本当ですか?

大学院で「租税法」に関する所定の単位を取得し、修士論文を書き上げると、その修士論文が国税審議会での審査を経たうえで、税理士試験の税法科目のうち2科目が免除されます。

税理士試験においては、会計科目では簿記論と財務諸表論の2科目、税法科目では選択する3科目(法人税法と所得税法のいずれか1科目は必須)に合格する必要がありますが、大学院で修士論文を作成する(修士の学位を取得する)ことで、税法科目については、上述のとおり2科目が「免除」となるのです。

残りの1科目は税理士試験に合格しなければなりませんが、必須の科目はなく、消費税法、相続税法、酒税法、固定資産税、住民税などから選択することもできます。

ちなみに、会計科目についても、会計学に関する修士論文を作成することで、同様の手続きを経て1科目が「免除」となります。

したがって、「大学院に入り修士論文を書く」ということは、運・不運に影響されることなく、実力・努力がそのまま結果につながる税理士への道といえます。

税理士試験とは違う力が求められる!

税理士試験と大学院とでは、どのような違いがありますか?

「税理士試験に合格すること」と「大学院で修士論文を書くこと」は、行為としてはまったく異なるものですが、このような制度が設けられているのは、「税理士という高度な専門的職業に必要な知識・技能を身につけているか」という点において、両者が同等のものと評価されているからです。

ただし、同等なものではあっても、同じものではありません。

大学院では、「学習」ではなく「学修」という文言がよく使われますが。これは、大学院では、「学ぶこと」ではなく「学を修めること」を目的としているからです。単に知識を身につけるのではありません。

すなわち、ある問題に対し、①何が問題かを提示する、②問題を解決するために調査する、③調査したことを分析・考察したうえで一定の所見を導き出す、という過程をすべて自ら行うのです。

ここでは、税理士試験とはまったく異なる能力や努力が求められます。今まで多くの大学院生の指導をしてきましたが、「税理士試験に合格する力があるのに修士論文がなかなか書けない」という人は少なくありません。逆に、「優れた修士論文が書けるのに税理士試験になかなか合格できない」という人もいます。

このように、求められる力は、まったく異なるものなのです。ただし、資格取得後、「税理士として活躍できるかどうか」には、特に差はありません。

得られるのは「法律を理解する力」と「ヨコのつながり」

大学院に行く意義は何でしょうか?

大学院に行った皆さんに共通しているのは、「税法という法律の専門家」である税理士として、税法は言うまでもなく他の法律も理解する力を身につけることができた、と認識していることです。

知識は税理士となった後にいくらでも身につけることができますが、法律を解釈する力は独学ではなかなか身につきません。大学院での研究・学修の意義はここにあります。

大学院で学修するもう1つの大きな意義は、同じ指導教授のもとで学んだ大学院生同士のヨコのつながりです。OB・OG会があるところは、先輩・後輩のつながりもあります。このような仕事を離れたヨコのつながりは、税理士として一本立ちした後でも大きな財産となります。この点は、税理士試験ではなかなか得られない特徴であると言ってよいでしょう。

ネームバリューにはこだわらないのが吉

大学院はどのように選ぶとよいですか?

「大学院の選択」は、たいへん難しい問題である一方、極めて簡単な問題でもあります。

なぜかというと、「科目免除」という目的からすれば、どこの大学院でもかまわないからです。その大学院で修士論文を作成し、申請書や指導教授の証明書を添付のうえ国税審議会に提出し、審査で問題がないとされれば、税理士試験の科目が一部免除されます。これは、「どこの大学院であるか」が問われるものではありません。

なぜ、このようにわかりきったことを言うのかというと、ときに大学院のブランドにこだわる人もいるからです。ただ、大学院のブランドを求めるのは自己満足でしかありません。税理士になればわかりますが、大学院のブランドはまったく意味をもちません。

たしかにブランドのある大学院の入試のハードルは一般的には高いといえるので、それを誇りに感じるということはあるかもしれませんが、不合格となる可能性が極めて高いにもかかわらず、入試対策に無駄な時間と費用をかける必要はありません。

この点は、河合塾KALSに過去のデータに基づく「大学院別の難易度」に関する資料があるので、無用な受験をしないためにも、参考にしていただければと思います。

このようにブランドはまったく無視することができますが、「原則2年間で修士論文を書けるか」という観点からすれば、大学院の選択は重要かつ難しいものです。

税理士試験の科目免除を受けられる大学院には、法学研究科だけでなく、経済学研究科、商学研究科、経営学研究科、ビジネス科学研究科など、さまざまな名称の研究科があります(大学院では「学部」ではなく「研究科」といいます)。

要は、その大学院に論文指導ができる教授がいるか否か、そして、租税法に関する講義科目が一定数用意されているか否かで決まります。

この点を前提に、大学院選択のポイントとしては、次の4点を指摘することができるでしょう。

大学院を選ぶ4つのチェックポイント

① 2年間通うことができる環境か

第一に、通学条件と時間割(開講曜日・開講時間)を必ずチェックしてください。特に働きながら大学院に通う場合かなりの負担を強いられるので、2年間の長丁場に耐えられるものでなければなりません。大学院に通うことに理解のある職場であれば、休暇や早退によるやりくりも可能ですが、職場の理解を得られない場合もあります。その点も含めてチェックしておくことが必要です。また、土日に開講している大学院もあるので、仕事をされている方はこの点のチェックも忘れずに。

② 教員や講義の数は充実しているか

第二に、できれば、租税法担当の教授、准教授、講師(以下、「教授等」といいます)が複数いるところが一般的には好ましいといえます。これは、受験時に希望する指導担当教授等を選択できる場合があるからです(大学院によっては教授等を選択できないところもあるので、入試案内などでチェックしておきましょう)。また、それだけ租税法関連科目が多くなるため、授業を選択する余地が広がり、科目免除に必要な単位の取得が容易となります。

③ どの研究科に入るのか

第三に、進学先の研究科です。科目免除できる研究科を挙げるならば、原則として、①法学(系)研究科、②経済学(系)研究科、③経営学(系)または商学(系)研究科、この3つです。どの研究科を志望するかで、入試対策や在学中の研究に大きな違いが出てくることでしょう。原則2年間で修士論文を書かなければならないことや、学問領域によって教授の指導方法が異なることもあるので、一般的には出身学部と同じ研究科に進学するほうがベターです。ただ、「税理士になる」というゴールは一緒なので、自身の大学院修了後のキャリアなども踏まえ、納得のいく研究科選びをしてほしいいと思います。

④ 指導教授との相性はどうか

第四に、修士論文を書くにあたって、指導教授等の影響は「決定的」といってもよいです。実は、大学院の選択は「指導教授等の選択」と言い換えることができるほどです。受験にあたっては、その大学院のアドミッションポリシー、カリキュラムポリシー、ディプロマポリシーを確認しておくことは言うまでもありませんが、指導教授等の経歴や著作物も確認しておくべきでしょう。受験前に指導教授等と面談ができるのであれば、積極的に面談をして自分との相性もチェックしておいてください。この相性とは、研究テーマなど特定の事項が合うか否かではなく、全体としてのもの、俗に言う「馬が合うかどうか」です。また、希望する大学院に先輩などの知り合いがいる場合には、指導方法などについて聞いておくとよいでしょう。

コロナ禍で「研究計画書」の重要度がさらにアップ!

新型コロナウイルスによって、入試に変化はあるのでしょうか?

新型コロナウイルスの蔓延が止まりませんが、これは大学院入試の形態にも若干の影響を及ぼしています。

新型コロナウイルスへの対応策は大学院や研究科によって異なりますが、たとえば、学内で実施する筆記試験や口頭試問をとりやめたり、オンラインでの入試に変更したりするところも出ています。

このような状況になると、おのずと出願時に提出する書類に基づく「書類審査」のウェイトが高まる可能性があります。そこで重要となるのが「研究計画書」です。実際、研究計画書の字数を大幅に増やしているところもあり、入試での「研究計画書」の比重が高まっていると認識すべきでしょう。

まず問題点(論点)を見つけよう

研究テーマはどのように探すとよいのでしょうか?

受験にあたっては、どの大学院も研究計画書の提出を求めます。ここでは、研究計画書を書くにあたって最初の関門である「研究テーマの選定」についてお話します。

研究テーマは、理想からすれば、租税法を学習(ここでは「学習」です)し、その過程で疑問に思ったこと、すなわち問題点(論点)を認識することで決まります。しかし、まだ租税法の学習が進んでいない段階では問題点の把握は困難です。何が問題かわかりません。

そこで、短期間に租税法上の問題点を認識する必要があります。一番手っ取り早いのは、租税法に詳しい先輩や知人などから「どんなテーマがあるか」を示唆してもらうことですが、ほかには金子宏先生の『租税法』(弘文堂)を読み、指摘されている論点を把握することも着実な方法です。特に、判例・裁判所の判示と金子先生の見解が異なる場合、そこに検討すべき問題(論点)があるといってよいでしょう。

このことは、研究テーマの選定法としてよくいわれているところです。ただし、この方法は、問題点を認識するのには効率的ですが、それが修士論文のテーマとして質・量(奥行きや広がり)ともに十分かどうかまではわかりません。租税法の学習がある程度進んでいる人はわかるかもしれませんが、そうでない人は詳しい人に聞いてみるのがよいでしょう(この点は、河合塾KALSでは講義や個別指導によってサポートしているところです)。

科目免除が受けられないケースもあるので要注意!

研究テーマは「税」に関連するものなら何でもよいのですか?

せっかく修士論文が大学院で認められたにもかかわらず、国税審議会の審査に通らないケース、または可否が争われるケースがあります。

聞くところによると、修士論文の内容が「財政論」や「経済政策論」などのケース、あるいは「法人税」についての修士論文が「税務会計論」という会計学に属する内容となっているケースなどです。

税法科目が免除されるためには、「租税法学」についての修士論文であることが求められます。よく「解釈論ではなく制度論は不可である」といわれます。

経済政策や社会政策の観点から税制を論ずるのは租税法学ではありません。しかし、そのような観点であっても、経済学研究科などでは修士論文として認められることがありますので、気をつける必要があります。また、「法人税」と「税務会計論」との関係も要注意です。たとえば、会計制度の観点から法人税制を論ずることが、これにあたります。

租税法学は「法学」なので、判例・裁判例を軸に学説を踏まえた「解釈論」が論文の中心となるのは自然の流れですし、それが無難といえましょう。

もちろん、制度論がすべて不可になるわけではありません。たとえば、憲法原理である租税公平主義の観点から税制を論ずる場合、これは立派な「租税法学」となります。

大学院を受験する人へのメッセージ

税理士試験になかなか合格しないので、大学院に行って科目免除を受けようという方も多いかと思います。

ただ、大学院を受験するきっかけに「税理士試験の不合格」があるとしても、「しかたがないから大学院に入る」という消極的な考えはもたないでください。

税理士試験に合格することと大学院で修士論文を書くこととでは、まったく異なる能力・努力が求められます。しかし、それぞれが税理士として必要な知識・能力を備えた者として評価されているのです。

おおざっぱに誤解をおそれずに言えば、税理士試験は知識を、大学院は応用能力(問題発見力や論理的表現力など)を身につけることが主となるでしょう。

論語の有名な言葉に「子白、学而不思則罔、思而不学則殆」があります。

学問は、知識だけあっても考えなければ理解したことにならないし、考えるばかりで知識がなければ危うい、ということですが、大学院はまさにこの言葉が当てはまるところなのです。

ですから、間違っても「しかたがない」といった消極的な理由で大学院を受験してはいけません。大学院に入ることの積極的な意義を認識し、入試(研究計画書の作成や面接)にあたっては、研究に対する旺盛な意欲を示すことが先に進むための第1歩となります。


【執筆者紹介】
小林 幹雄(こばやし・みきお)
河合塾KALS税法科目免除大学院入試対策講座での「税法」講師。東北大学経済学部卒。国税庁に勤務後、拓殖大学商学部および大学院商学研究科で租税法を担当(現在は、同大学名誉教授)。日本大学大学院経済学研究科非常勤講師。修士論文や研究計画書の指導実績も多数。

河合塾KALS
河合塾グループの㈱KEIアドバンスが主宰する、大学生・社会人を対象としたキャリアの予備校。大学院入試対策をはじめ、大学編入・医学部学士編入試験対策などの進学系講座を中心に、幅広いサポート・サービス提供を行っている。税法科目免除大学院の分野では、毎年100人程度の合格者を輩出、全国最大規模を誇る。
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