【税理士法人山田&パートナーズ社員インタビュー】File5:岩﨑理恵「ロサンゼルスオフィスで奮闘した4年間! 帰国後も、税理士として日米の架け橋になる」
税理士法人山田&パートナーズ(YP)に入社して8年目の岩﨑さん。アメリカのロサンゼルスオフィスに約4年間、赴任されていました。インタビューは6月某日。8月末に帰国予定とのことですが、編集部としては初の“海外とのインタビュー”となりました。仕事や働き方で受けたカルチャーショックからロックダウン下での奮闘まで、特に「国際」分野に興味のある受験生は必見です!
【目次】
現在のお仕事について聞いてみよう!
日米における仕事文化の違いについて聞いてみよう!
これまでのキャリアについて聞いてみよう!
コロナ禍での働き方について聞いてみよう!
今後の展望と受験勉強について聞いてみよう!
現在のお仕事について聞いてみよう!
――おはようございます! 日本はいま朝9時ですが、ロサンゼルスは何時ですか?
岩﨑さん こちらは夕方の17時です。そろそろ業務終了と言いたいところですが、ちょうど日本の事務所がこれから開くので、これからメールが来たり、連絡が入ったりして忙しくなるときもあります。
日によりますが、たとえば日本時間の午後にお客様とのアポイントがあると、夜の22時、23時まで対応することもありますよ。
とはいえ、普通の日は日本と同じで、残業したとしても21時頃には帰宅しています。
――ロサンゼルスオフィスではどのようなお仕事をされていますか?
岩﨑さん ロサンゼルスオフィスは10名弱で日本人スタッフが中心です。YPは母体が日本ということもあり、それほど大きくはありません。
お客さまの7〜8割が、日本人で個人の方です。法人の申告業務やコンサルティングも行っていますが、我々の事務所は個人の富裕層のお客様が中心です。
たとえば、日本に住んでいてアメリカに賃貸不動産を持っている方は、アメリカで不動産の申告が必要になってきます。
また、アメリカにお住いの日本人であれば、日本に帰国するとどういった相続税・贈与税がかかるか、帰国するまでにどんなプランニングをしたら日米両方の相続税・贈与税が軽くなるかといったご相談もあります。日本から渡米するときの出国税や、逆に日本に帰国する時の出国税など、そういった国際税務に関するサポートをしています。
なので、アメリカにいても日本の税務のベースがわかっていないとできない仕事なんです。私の場合、日本のYPに5年ほどいてからアメリカに来たので、日米両方の税務がわかって面白いところです。
日米における仕事文化の違いについて聞いてみよう!
――日本とアメリカで違いを感じたことはありますか?
岩﨑さん それはもう、ギャップはいろいろとありましたよ。これは文化の違いなのかもしれませんが、業務の開始時間が決まっていないんです。
ロサンゼルスオフィスに赴任する前に、現地の会計事務所で1年間トレーニーとして働いていたんですが、「何時までに会社に来なさい」というのが特に決まっていなかったです。ロサンゼルスは車での通勤が一般的なのですが、渋滞を避けるために早く来る人もいますし、家族に合わせて少し遅めに来る人など、本当に自由でフレキシブルです。
あとは、スーツをあまり着ていないですね。また、終業時間になったらピタッと帰る人もいて、自分や家族の時間を大切にするという風潮がありますね。
――そういった違いに慣れるまで、困ったことはありませんでしたか?
岩﨑さん 困ったことももちろんあります。たとえば、現地の弁護士などと一緒に仕事をすると、けっこうルーズで、質問をしてもなかなか返事が返ってこないことがありました。依頼しても遅く、最初はギャップを感じて大変でした。
私たちのクライアントは日本の方なのでタイムリーに対応しないといけないのに、弁護士からは返事がこない…。当然、お客様には私から謝るしかありません。
徐々に、「こちらの専門家はそういうものだ」と割り切るようになり、お客様にご案内するとき、事前にどれくらい時間がかかりそうかリスクを含めてお伝えしたりするように改善しました。
もちろん、すぐに返事をしてくれることもあるのですが、気に入る仕事と気に入らない仕事で差があったりもするのかなと思い、そういう時は「文化の違いなのかな〜」と割り切るようにしています。
――他にも違いを感じたことはありますか?
岩﨑さん 実は、政府機関もすごく対応が遅いんです。日本だと、税務署に電話して繋がるまでに10分かかると「遅いな」という感じですが、アメリカは30分とか、1時間くらい待たされるんです。
やっと繋がったと思っても、転送している間に切られてしまうこともあって、お役所仕事も適当だなと感じました。
そう思うと、日本の役所はとても親切ですよね。10分で繋がるなんて、こちらでは基本的にあり得ないですよ。
もっとびっくりしたのが、IRS(いわゆるアメリカの国税庁)から、「税務申告書を紛失したのでもう一度送ってくるように」と連絡があったことです。
日本では大問題になりますよね。でも、これはこちらではよくあることなんです。
電子申告をすればデータが残っているのですが、紙で申告すると役所で紛失されてしまったり、処理されなかったりすることもあります。特に今はコロナ禍なので、半年や1年くらい処理されずに放置されていることもありますよ。
日本は期限や時間もきっちりしていますし、電話で問い合わせても丁寧に対応してくれますが、こちらはそうではありません。
でも、我々のお客様は日本の方なので、その違いをわかっていただく必要もありました。その点も、最初すごくギャップがありました。
――それは日本の感覚では考えられないですね! 他にも驚いたことはありますか?
岩﨑さん 税務面ですと、「税金が複雑」ということがありました。日本の税金はまだ簡単だなと感じました。
日本だと、個人の申告書は多くて5枚や10枚程度ですよね。でも、アメリカでは多い人だと、200枚も300枚も提出する場合があります。
というのも、連邦税といわれる国の税金以外に、州ごとの税金の制度があるので、その州ごとに申告書を提出する必要があるからです。つまり、どこの州で仕事をしている、どこの州に住んでいるなどを確認して、関係するすべての州に提出しないといけません。
たとえばスポーツ選手のように、複数の州で試合をして収入を得ているといった人であれば、複数の州で申告をしないといけないのです。そのうえ、州ごとに税金の計算方法も違ってくるので、それがどんどん増えると、個人の申告書が200枚以上にもなることがあるのです。
複雑なのは、個人の申告だけではありません。
日本だと、ほぼ株式会社だと思いますが、こちらだといろいろな形態があります。さらに、パススルー課税(ざっくりいうと、株主に利益が帰属して、法人ではなく株主で課税される制度)などが組み合わさってくると、混乱しそうなります。
――200枚…! 医療費控除で確定申告書を数枚作るだけでも面倒だと思ってしまうのに、多すぎますね。
岩﨑さん 申告書の作成システムが連動しているので、州ごとの調整などがないようなシンプルな申告内容であれば、それほど日数も必要ありませんが、州ごとに特別な調整等が必要な場合は、かなり手間もかかってしまいます。
通常、日本の確定申告期限は3月15日までですが、アメリカは4月15日。それにプラスして、半年間の延長申請ができます。手続きが複雑になる人は、延長申請するのが一般的なんです。
――税制のキャッチアップはどうされていますか?
岩﨑さん アメリカは税制改正が多いのも特徴的です。日本は、1年に1回改正されるのが例年の流れですが、アメリカは大統領がサインすればいつでも変わります。
今回、バイデン大統領に変わったときも大きな改正案が出ていますし、4年前にトランプ大統領(当時)に変わったときも大きく税制が変わりましたが、それ以外でも不定期に変わります。
そのため、常にキャッチアップしておく必要があります。日本より大きな改正も多いので、我々のビジネスにはなりやすい面も多いです。
これまでのキャリアについて聞いてみよう!
――アメリカに赴任するきっかけは何ですか?
岩﨑さん 日本で仕事をしていて、「日本の税制のことは他の事務所でも詳しい方が多く、差別化がしにくい」と思い始めていたんです。
そんなときに、国際税務に関するご相談も増えてきていて、それにすぐ答えられずに悔しく思ったことがありました。
そんな経験から、「国際税務」というのを自分の武器にしたくて、この機会にアメリカ赴任をしていと思い手を挙げました。
――不安はありませんでしたか?
岩﨑さん 日本で国際税務をバリバリやっていたわけではなく、アメリカの税制のことはまったく知りませんでしたから「私が本当に行っていいの?」といった不安はありました。
もっと言えば、英語力もなかったため、まさに1からヨチヨチ歩きでスタートしました。
そういった不安はありましたが、個人のお客様がメインであることは聞いていましたし、私も日本で働いていたときは約7割が個人のお客様だったので、「自分の国際税務スキルを強化できる」といった期待のほうが大きかったです。
コロナ禍での働き方について聞いてみよう!
――日本では、コロナの蔓延により働き方が急激に変わりました。アメリカではロックダウンと厳しい対応がとられましたが、どのような状況でしたか?
岩﨑さん こちらでは、完全な外出禁止令が数ヶ月続きました。お店も持ち帰り専門のみで、遊び場所やビーチも入れなくなったので、家で仕事をしていましたよ。
こちらのオフィスでは、もともとペーパーレス化が進んでいて、資料はすべてPDF化してデータ保存しています。パソコンがあればどこでも仕事できる状況ではあったので、ロックダウンになったときも、すぐに対応はできました。
仕事はパソコンがあればできるのですが、やはり1人でずっと家にこもって仕事をするのは辛かったですね。お客様との面談も全部オンラインでした。
今はワクチンの接種も終わり、事務所に戻って業務を行うことができています。
――普段、日本側とはどのようなコミュニケーションを取っていますか?
岩﨑さん 私たち駐在員は、日本のYPメンバーなので、会議やお客様の案件等で普段から頻繁に連絡を取っています。
1つの案件を、日本の申告は日本のYP、米国の申告は私たちというように一緒に対応している案件も多いので、日本のメンバーとメールやチャットツールなども活用して、こまめにコミュニケーションを取っています。
日本で仕事をしているのとそんなに変わらないようなやりとりができています。
――クライアントへのコロナの影響はありましたか?
岩﨑さん たくさんありましたね。飲食店のお客様はお店を閉めざるを得なかった方もいて、その清算のお手伝いをしました。
一方で、不動産の価値が下がっているので今のうちに買いたいというお話もありましたし、日本の企業から、今がチャンスなのでアメリカに進出したいといったようなお話もありました。
また、アメリカでもコロナ給付金支援策も多く打ち出されたのでそれらに関する相談も多く、いろいろな問い合わせがありました。
今後の展望と受験勉強について聞いてみよう!
――今後の会計業界への展望は?
岩﨑さん 日本にお住まいの方も、アメリカを含め海外に目を向けている人が増えているように思います。
これから受験勉強する方は、「日本の税制」をまず勉強しないといけないのですが、そこから広がる可能性もあります。日本の税務をベースにしてプラスαの知識があると専門性が高まり、より可能性が広がるのではないかなと感じています。
アメリカのプロフェッショナルになるにはまだまだ時間がかかり、毎日が勉強の日々ですが、少し知っているだけでお客様にプラスαの話ができます。それが付加価値であって、他との差別化ができると考えています。
「税理士は独立しても稼げない」なんていう話も耳にしますが、まだまだいろいろな可能性がありますよ。帰国後も日米の税務知識を武器にして、日本にいてアメリカの仕事を広めたいと考えています。
――受験勉強でのアドバイスは?
岩﨑さん 受験勉強も大変だと思いますが、実務でいろいろな可能性を見つけるほうが楽しいです。なので、受験はできるだけ早めに終わらせて、ぜひ実務の世界に入ってきてください!
私自身、大学卒業後もアルバイト生活をしたり、保険の営業をしたりして、27歳から税理士試験の勉強を始めました。大学院ルートで税理士資格を取るのと、試験に合格するのとどっちが早いかというのを計算して、すべてうまくいったら試験のほうが早いなと思ったので、試験を受けました。30歳までには試験を終わらせたかったので、2年半で取ることができました。
試験が何年も続くとモチベーションも下がってしまいますので、頑張って短期で集中して早めに試験を終わらせるのがいいと思います。
〈お話を伺った人〉
岩﨑 理恵(いわさき りえ)
2013年9月税理士法人山田&パートナーズの大阪事務所に入所。主に事業承継や資産税業務に従事し、銀行での税務サポートの出向経験も経て、2018年より山田&パートナーズの米国現地法人のロサンゼルスオフィスに駐在。米系の現地アカウンティングファームで1年の研修経験を経て、日米の税務専門家としてクライアントの日米における税務問題の対応を行っている。国際相続や国際資産承継コンサルティングを強みとしている。
【税理士法人山田&パートナーズ社員インタビュー】
File1:安岡 喜大「次の世代を担う人たちへ 税理士の仕事はこれからも社会に求められる」
File2:川村理重子「専業主婦から税理士へ! たくさんの仲間に支えられた働きながらの受験と大学院生活」
File3:井上 弘美「在宅勤務で子育てと両立! 税理士の資格は「長く働き続ける仕事」が魅力」
File4:土田 裕規「証券マンから会計業界へ! 公認会計士が「税理士法人」を選んだ理由」
File5:岩﨑 理恵「ロサンゼルスオフィスで奮闘した4年間! 帰国後も、税理士として日米の架け橋になる」
File6:山田 知佳「新卒で会計業界へ! 神戸⇄東京の「部門間交流」で得た経験を後輩たちにも伝えたい」
File7:阿部 佑大「自分の3本柱を意識! 地元・仙台で”お客様の近くにいる”存在になりたい」
File8:松田紗貴子「将来は海外で働きたい! 働きながらの受験生が活躍できる業界・組織の魅力」