税理士法人山田&パートナーズ(YP)に入社して3年目の井上さん。東京本部のプライベートアドバイザリー部に所属し、子育てをしながら働くお母さんです。もともと製薬会社に勤務されていましたが、長く働ける仕事に就きたいという思いで、会計業界を選んだそうです。コロナによって在宅勤務がしやすい環境になり、家庭と仕事のバランスがとりやすくなったとか。手に職をつけて長く働きたい、子育てと両立できる仕事をしたいと考えている人にも、ぜひ読んでいただきたい内容です。
【目次】
税理士になるまでについて聞いてみよう!
受験勉強と就職活動について聞いてみよう!
現在のお仕事とコロナ禍での変化について聞いてみよう!
お仕事と子育ての両立について聞いてみよう!
これからのキャリアビジョンについて聞いてみよう!
税理士になるまでについて聞いてみよう!
――会計業界で働くことになったきっかけは何ですか?
井上さん もともと製薬会社で働いていたのですが、将来を考えると、ずっと働ける仕事がいいなと思っていました。子どもが3歳になる前の夏に、合同説明会に参加したんです。そこで、たまたまYPに出会って、明るく活気のある雰囲気に惹かれました。
そして、アルバイトとして週3だけの勤務ができるということと、未経験でも経験が積めるということで入社しました。
また、相続税法の受験勉強もしていたので、相続に強いYPなら勉強した知識を実務にも活かせるのではないかとも考えたからです。
――なぜ「税理士」を目指されたのですか?
井上さん 製薬会社の仕事も面白かったのですが、朝が早く夜が遅いという特徴があり、子育てと両立するというイメージがしにくかったんです。
自分は「ずっと働き続けたい」と思っていて、夫が何人かの女性税理士と一緒に仕事をしたことがあり、年齢を重ねても活躍している人が多いと聞きました。それで、税理士の資格に興味をもって、「ちょっと勉強を始めてみようかな」と思ったんです。
大学では英文学を学んでいたので、「簿記のボ」の字もまったく知らず、知識ゼロで専門学校に申し込みをしました。
ただ、税理士試験のこともよくわからず、周りに相談することもなく自分で決めてしまったので、いきなり酒税法から勉強してしまい、「あ、こうじゃないんだ!」と、あとから自分で気がついて、修正しながら進めていきました。
その後、簿記論から勉強を始めようと取り掛かったものの、あまりに難しかったので、簿記2級の基礎に戻って勉強をしました。
そうやって紆余曲折を経たので、うまくやればもっと早く合格できたのかもしれませんが、10年くらいかけて合格にたどり着くことができました。
受験勉強と就職活動について聞いてみよう!
――酒税法は内容を見てみると面白くて、興味をそそられますよね。最終的な合格科目は何でしょう?
井上さん 簿記論、財務諸表論、法人税法、消費税法、相続税法に合格しました。
酒税法を受けた翌年に、簿記論と財務諸表論を受験し、財務諸表論に合格しました。その後、簿記論と法人税法、簿記論と消費税法と、簿記論プラス税法というスタイルで毎年2科目ずつ受験しました。消費税法、法人税法は合格しましたが、簿記論に苦戦してしまいました。
最終的に簿記論の合格まで5~6年かかり、4科目目で合格しました。その後、最後の科目として選んだ相続税法は、育児をしながら、そして働きながらの受験で4年ほどかかりましたね。
――会計業界への就職活動をされたのはいつですか?
井上さん 受験勉強していると、「早く社会に出たい、実務に携わってみたい」という気持ちが強くなりました。また、会計業界で勤めたことがなかったので、年齢を重ねることが「就職で不利になるのではないか」と感じる気持ちも出てきました。
そこで、30代の半ば、4科目に合格した段階で、就職活動を本格的に始めました。実は20代のころ、1科目合格時点で転職活動をしたことがあるのですが、そのときと比較しても、「年齢はあまり関係ない」と思いました。会計業界は、年齢に問わず挑戦できる環境にあると感じています。
現在のお仕事とコロナ禍での変化について聞いてみよう!
――現在はどのようなお仕事をされていますか?
井上さん 個人のお客様を対象に、相続税の申告や生前の相続対策、法人のお客様を対象に顧問契約や申告業務を行っています。割合としては、個人のお客様が7割、法人のお客様が3割くらいですね。
相続案件の場合は、スポットのお仕事として申告だけのお客様と、継続して相続対策をされるお客様がいらっしゃいます。
スケジュールとしては毎年だいたい決まっていて、年末から確定申告の時期に向けて忙しくなります。私の場合、法人の申告業務が1月、2月、5月、6月に1件ずつあるので、年末から年の前半は、所得税と法人税の申告業務が続きます。それが終われば、相続の対策の仕事に力を入れられるかなという感じです。ただ、スポット的にご相談の業務や税務調査の対応などが入ることもあり、そういう場合は、急に忙しくなることもあります。
――コロナ後のクライアントへのサポートとしては、どのようなことをされましたか?
井上さん 法人のお客様には、学習塾や小売業のお客様がいらっしゃって、昨年4~5月には、東京都の感染拡大防止協力金などに関する相談の対応や、実際の手続きをしていました。
また、地主のお客様からは、「テナントオーナーが賃料を払えないので、少し賃料を下げてあげたいのだけど」というご相談もありました。これについては、一度賃料を下げてしまうと、戻す時期が難しかったり、税務的には寄付金として扱われてしまうこともあったりします。なので、賃料の減額は慎重にして、また、「コロナの影響で賃料を下げているという条件を満たすことで寄付金ではなく損金に算入できる」といった対応を取れるようにアドバイスをしました。
ご相談の内容は多岐にわたるので、1つひとつ調べながら回答しています。すぐに答えられるのが理想だとは思いますが、本で調べたり、上司に相談したりしてお答えするというのを繰り返しています。自分の回答によって、大きなお金が動いたり、その後にも影響を残したりすることがあります。なので、話の前提をしっかり聞き、お客様のご意向を踏まえたうえで、その回答によるメリットだけでなくリスクまで考えながらお答えするようにしています。
また、YPのOBの方や国税庁出身の経験豊富な顧問の先生がアドバイザー的な存在として社内にいるので、困ったときには相談することができるんです。周りの方に相談すると、自分の経験にはないようなよいアドバイスをいただけることがあるので、いろいろとお話を聞くように心がけています。
――コロナによるその他の変化はありますか?
井上さん お客様との距離が近くなったということがありますね。時間や場所の制約を超えて、オンラインでつながることができるようになりました。
特に、50〜60代ではオンライン面談にも対応してくださるお客様も多いです。ただ、70代以上になると、パソコンを使い慣れていないお客様の割合が多くなるので、対面での面談を希望される方が多いです。
ただ、感染予防の面から、社内的にも、お客様とも対面での面談はできるだけ減らそうという動きがあったので、オンラインが難しい場合は電話で対応するなど、工夫をしていました。
とはいえ、やはり「直接お話しするほうが安心する」という声をいただくこともあるので、感染予防対策をしっかり取りながら、直接面談できる方法を模索していました。
また、顧問契約を結んでいる法人のお客様の場合は、月次の作業などのためにお客様の会社へ訪問することもありました。というのも、会計ソフトが会社にあって、そこでないとできない仕事などもあったからです。そんな状況でもお客様がご協力くださり、今まで紙でいただいていた資料をPDF化して、メールで対応してくださるなど、お客様との間でもなるべく時短、なるべくペーパーレスで行えるようになってきたなぁと感じています。
私の場合は、在宅勤務がメインなので、お客様のところへ訪問するときは、自宅から直行直帰をするケースもあります。週1回、事務所に行ったときには、在宅ではできない業務を中心にするようにしています。
相続対策の案件では、上司とタッグを組んで訪問することもありますが、顧問契約を結ぶ法人のお客様であれば、自分1人で訪問します。また、チームで担当しているときには、感染対策を考えて、そのうちの1人がお客様のところに訪問し、残りのメンバーはオンラインでつながるということもしています。社内のメンバーは、個々人の働き方について事情を理解して、お互いを尊重してくださる方が多いと感じています。
お仕事と子育ての両立について聞いてみよう!
――仕事と子育てをどう両立していますか?
井上さん コロナ前も今も時短勤務をとらせてもらっています。17時頃に上がって、急いで会社を出て、保育園まで子どもを迎えに行ってと、すごくバタバタと仕事をしていました。
でも、コロナがあって、在宅勤務ができるようになり、働き方が一変しました。たとえば、夕方にいったん仕事を中断して、子どもを迎えに行ったり、夜ご飯を作ったりして一緒に過ごし、子どもが寝てからまた仕事を再開するなど、時間のやりくりがしやすくなりました。
基本的に、紙の資料は自宅に持って帰ってはいけないルールがあるんです。ペーパーレス化が推進されていて、今まで紙で保管されていた資料がPDFとしてデータになったことで、パソコン1台あれば仕事ができるようになりました。
正直なところ、「ペーパーレスで仕事をする」ということには、最初は若干の戸惑いもあったんです。けれども、社内には新しいことを取り入れようという雰囲気もありますし、得意な人や推進する人がいて、「こういう方法があるよ」と情報交換する場もありました。
私自身は特にデジタル関係は得意なほうではないのですが、周りのメンバーから教えてもらいながら、時短ワザなどを取り入れました。
また、これまでは通勤に必要だった時間がカットできて、その時間を働く時間に充てられるようにもなりました。おかげで、お迎えでせかせかと動いていた時間がなくなったので、働くお母さんにとっても、「在宅勤務」という働き方は選択肢の1つとしてよいなと実感しています。
――在宅勤務と出勤は、どれくらいのバランスですか?
井上さん 週1で出勤をするようにしています。というのも、夫の仕事が平日1日だけお休みの日があるので、子どもの世話を任せることができるんですね。なので、夫のお休みの日に出勤して、たまに残業もすることがあります。
実家が遠方で、頼れるのは夫のみなので、家族の協力は本当に大きいです。特にいまは、コロナで他のところに預けるということも難しく、夫婦でバランスをとりながら協力しています。
実は、子どもの小学校入学式の日後すぐに、第1回目の緊急事態宣言が出て、学校が休校になってしまったんです。1年生なので、勉強の習慣などもまったくないまま、学校から時間割が渡されて、家で仕事をしながら子どもの勉強を見るという生活が2ヶ月くらい続きました。
さすがに、思うように仕事がはかどらず、そのときは「どうしようかな…仕事が期限までに終わるのかな」と不安に思っていましたが、いまは元気に学校に通えるという環境がとてもありがたいなと感じています。
――仕事と子育ての両立で大変だと思うことはありますか?
井上さん 不思議なもので、自分が忙しくなってきたときって、子どもが風邪を引きやすくなるんですよね。しかも、そういうときは夫も忙しくて。子どもにかまっている時間が減ったときに、体調を崩しやすいのかもしれません。
今は、子どもも大きくなって、身体も丈夫になってきましたが、小さいときほどそうだったような気がします。当然、看病の時間が必要なので、会社の方に迷惑をかけながら泣く泣くお休みをとるというのは、働くお母さんにかぎらず、お父さんにも共通していえることですよね。
今まではどうしても休まなければいけなかったんですが、在宅勤務ができるようになってからは、もし子供が風邪を引いてしまっても、休んで寝ている間に自分は仕事をすることができます。そういう環境は、ここ1~2年でガラッと変わったなと実感しています。
ただ、在宅によって、「仕事」と「家事・育児」の棲み分けが難しくなったという点もあるんです。子どもからすると、家にお母さんがいるのに仕事をしているという状況は、きっと寂しいのかもしれませんね。学校から帰ってきて、お母さんがせっかく家にいるのに、すぐにおしゃべりできなかったり、一緒におやつを食べたりすることができないので…。
子どもに、家で悩みながら仕事をしている姿を見せるのはいいのかどうか、ひそかに悩んでいることでもあります。
あと、テレビやゲームを見せていると静かにしてくれるので、それらに頼っていたときもあって、それはそれでよいものかと悩むこともありました。ですが、最近は、公園でお友達と一緒に遊ぶ約束もできる年齢になってきたので、小学校から帰ってきたら、公園に送り出し、仕事が終わってから、公園に迎えに行くということもできるようになってきました。
これからのキャリアビジョンについて聞いてみよう!
――税理士登録してからの変化はありますか?
井上さん 2020年12月に税理士登録をしましたが、「税理士」としての責任感はもちろんありますけれども、仕事自体は大きく変わっていません。
税理士になると、年間36時間の研修の義務があります。時間の制約があるなかで、36時間も研修に参加できるかなと心配していましたが、コロナの影響もあり、オンラインでの研修も充実していて助かっています。
登録時研修もマルチメディアの研修だったので、本来であれば、3日間研修会場に行ってみっちり研修を受けるところ、倍速・細切れ時間での時短研修がかないました。登録同期の方との出会いの場がなかったのは少し寂しく感じます。
――税理士のこれからについてどんなことを思われていますか?
井上さん コロナによって苦境に立たされた業界や人はたくさんいますが、そうした方を助けられる、サポートができるというのが税理士の魅力だなということを、改めて実感しました。どんな状況でも、税理士という資格は活躍の場があると思います。
コロナをきっかけに、お客様自身、病気のこと、健康のことを考えると同時に、生きること、将来のことなどについてじっくり考える時間ができたのではないかと思います。コロナがそういう原動力にもなったので、これからもっともっと人に会えるようになったら、お客様がいま考えていることを形にしていくお手伝いをしていきたいです。
税理士は、お客様のプライベートやお金のことをお聞きする仕事でもあります。お客様が抵抗感なくお話しいただけるよう工夫し、「話しやすいな」とか、「気軽に聞いてみようかな」と思ってもらえる存在になれたらいいなと思っています。
――YPで正社員として働かれて3年目と伺いました。これからのキャリアビジョンとして描かれていることはありますか?
井上さん キャリアビジョンですね、今のことで精一杯で、将来のことまで考えられていないなと思ってドキッとしてしまったのですが、3年目になり、少しずつできることが増えてきました。
これからは、申告業務だけではなく、お客様へアドバイスや提案するということにも時間をかけていきたいと考えていますし、そういうことが求められているとも感じています。
お客様の「こういうことがしたい」ということに対して、不安を取り除き、選択肢を提案して、アドバイザーとして背中を押していきたいです。
部署の中でも、「こういう仕事がしたいです」と手を挙げれば、自分の部署にそういった仕事がなくても、他の部署とコワークすることもできるんです。「やりたい」と言っていた仕事が入ったときに、「こういう案件があるよ」と声をかけてもらえます。
なので、自分の興味があることを積極的に口に出していれば、もちろん勉強しなければならない部分もありますが、会計業界は幅が広いのでいろいろなことにチャレンジできるのではないかと感じています。これからもう少し余裕ができたら、私自身もどんどん幅を広げていきたいですね。
〈お話を伺った人〉
井上 弘美(いのうえ ひろみ)
税理士法人山田&パートナーズ プライベートアドバイザリー部・税理士
山口県下関市生まれ。大学卒業後、製薬会社にて営業職として働く。税理士受験に出会う。育児専念期間を経て、子供が3歳になる時に、山田&パートナーズにアルバイトとして入社。相続税法の受験勉強をしながら、アルバイトとして2年間働き、その後、時短正社員として勤務して現在3年目。正社員になった年に、税理士試験官報合格。現在は、相続税申告、相続対策、法人税申告、所得税申告の業務に携わる。
【税理士法人山田&パートナーズ社員インタビュー】
File1:安岡 喜大「次の世代を担う人たちへ 税理士の仕事はこれからも社会に求められる」
File2:川村理重子「専業主婦から税理士へ! たくさんの仲間に支えられた働きながらの受験と大学院生活」
File3:井上 弘美「在宅勤務で子育てと両立! 税理士の資格は「長く働き続ける仕事」が魅力」
File4:土田 裕規「証券マンから会計業界へ! 公認会計士が「税理士法人」を選んだ理由」
File5:岩﨑 理恵「ロサンゼルスオフィスで奮闘した4年間! 帰国後も、税理士として日米の架け橋になる」
File6:山田 知佳「新卒で会計業界へ! 神戸⇄東京の「部門間交流」で得た経験を後輩たちにも伝えたい」
File7:阿部 佑大「自分の3本柱を意識! 地元・仙台で”お客様の近くにいる”存在になりたい」
File8:松田紗貴子「将来は海外で働きたい! 働きながらの受験生が活躍できる業界・組織の魅力」