第1回「資金繰りに失敗するとどうなる?」はこちら
利益は順調に増えていても、手元資金は同じように増えていきません。
「勘定合って銭足らず」という言葉をよく耳にするのですが、どのような意味なのでしょうか?
「利益が増えたことはうれしいが、税金を納めるのに資金をかき集める苦労をしなければならないのはなぜ?」という経営者の悩みや愚痴をよく耳にします。
「勘定=利益」はあっても「銭=資金」が足らない、ほとんどの企業はこのような状態になっているといっても過言ではないでしょう。
では、なぜそのようなことが起こるのでしょうか?
これは、利益を計算する「損益計算」と資金の増減を計算する「資金計算」は必ずしも一致しないことが原因です。
以下、その理由をみていきましょう。
理由①:信用取引(売掛金、買掛金)
すべての取引の決済を現金で行えば、
収益 = 現金収入
費用 = 現金支出
となり、収益 - 費用 = 利益は、現金の増減額と同額になります。
つまり、勘定合って銭も合います。
しかし現代社会においては、このような決済取引はむしろ稀ですね。
信用取引が常となるので「売掛金」や「買掛金」という勘定科目が表れてきます。
売上が計上されても掛取引ともなれば、収益(売上)=現金の増加にはなりません。
同様に掛取引で仕入れると、費用(仕入)=現金の減少にはなりません。
理由②:在庫
在庫は、販売しなければ資金になりません。
機会損失を考えると在庫をなくすことはできませんが、「在庫」=「資金の固まり」であるという意識をもち、いかに必要最低限の量にとどめるか、という改善策が販売効率や資金効率を高めるうえで必要です。
在庫を
①よく売れて回転率が高く儲けにつながる「財庫」
②一般的な「在庫」
③陳腐化・損傷し儲けにつながらない「罪庫」
に分類し、持てば持つほど価値が下がる在庫は、タイミングよく処分し資金に替えましょう。
また決算の時だけでなく、月次試算表にも在庫を毎月概算計上し、常にその存在を意識づけることが大切です。
理由③:資産の取得
決算間際に新車を現金で買って節税したい、という経営者は意外に多いものです。
原則10万円(青色申告の場合は30万円)以上の資産を購入した場合、一度に費用にはならず資産に計上しなければなりません。
購入時に多額の現金支払いがある一方、減価償却費という費用は耐用年数のもと使用した月数で計算するので、支出と費用には大きな差が生じてしまいます。
理由④:借入金
「節税のために借入金を一括返済したい」とおっしゃる方がいます。
「そうですか、では借入をした時には一気に売上が上がって大変ですね」、と応えると困惑した表情になります。
借入をする、返済する、これは損益計算に反映されない資金のみの増減となるのでご注意ください。
理由⑤:減価償却費、引当金
減価償却費や貸倒引当金などの引当金は、資金の支出はなくても費用になります。
簡易キャッシュフローは、利益に非現金支出費用である減価償却費を加えて計算します。
決算書が赤字であっても、それが減価償却費によるものなのかどうか、要チェックです。
→第3回「資金繰り表って何?」
〈執筆者紹介〉
増山 英和(ますやま・ひでかず)
税理士・CFP
1988年、中央大学大学院経済学研究科博士前期課程修了。現在、増山会計事務所、増山総研、相続・事業承継支援センター代表、NPO法人相続支援協会理事長、茨城県中小企業家同友会代表理事、TKC全国会中小企業支援委員会委員長。常磐大学短期大学部非常勤講師を歴任。認定経営革新等支援機関として徹底した財務・経営指導や、ファイナンシャルプランナーとして事業承継・相続対策には定評がある。わかりやすくためになる著書・講演やラジオ番組が好評。
(主要著書)
『中小企業金融における会計の役割』共著、中央経済社、2017年
『中小企業BANTO認定試験 公式テキスト』共著、中央経済社、2019年
『実践!経営助言』共著、TKC出版、2012年
『中小企業の事業承継戦略(第3版)』共著、TKC出版、2017年 他
◆本特集は、増山 英和著『4つのステップで社長の悩み解消!資金繰りなるほどQ&A』(中央経済社刊)の一部を要約したものです。
増山 英和 著
定価:1,980円(税込)
発行日:2021/04/30
A5判 / 160頁
ISBN:978-4-502-38491-2
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