【税理士試験】財務諸表論の理論で点を獲る「答案構成」テク


井上 修
(福岡大学准教授・公認会計士)

「答案構成」の重要性

財務諸表論の論述解答は「答案構成」でほぼ勝負が決まるといっても過言ではありません。勉強を始めたばかりの頃は時間的に余裕があるので、模範解答の全文を押さえることが可能です。人によっては、実際に文章を書く、といった丁寧な勉強も可能です。しかし直前期になればなるほど、学習が進んで多くの論点を押さえなければなりません。そのため、模範解答の全文を押さえる方法は、効率性と網羅性に欠けてしまいます。

そこで「答案構成合格法」の登場です。答案構成は、文章全体の「論理(ロジック)」を示すもの、すなわち、解答する答えを導くための「道筋」を示すものです。実は、論述解答の配点は、この「道筋」に付されているのです。

定義を書けば「3点」、この言葉を書いていれば「3点」、といった予備校的な採点は、本試験では期待しないでください。むしろそのような解答を非常に嫌う傾向にあります。ぜひ、本記事の「答案構成合格法」をマスターして合格を確実なものにしてください。

例 題

【平成28年第66回第二問 問1,2(2)改題】
「外貨建基準」において、在外支店の財務諸表項目の換算についてはどのような考え方が採用されているか、理由とともに述べなさい。

① あるべき論(規範)

在外支店の財務諸表は本国の本店の財務諸表の構成要素

↓(∴そのため、したがって、だから、)

本店の外貨建項目の換算基準と整合的であるべき

② テンポラル法の説明(あてはめ)        

テンポラル法=外貨測定時(テンポラル)の為替相場によって換算する方法

↓(∴そのため、したがって、だから、)

本国の本店が取引した場合(テンポラルに)に付される換算数値と同様となる。

⇓ (∴そのため、したがって、だから、)

③ 結 論:在外支店の財務諸表項目の換算は、テンポラル法の考え方が採用

「∴」は「理由→∴結論」という論理を意味します。この記号をひっくり返すと、「∵」となりますが、これは「結論→∵理由」となるので、「なぜなら(理由)」を意味します。この「理由」の部分が論点となっており、論述解答はこの論理のつながり部分に配点されているのです。

そして、答案全体の構成は、①→②→③と流れていますが、その論理のつながりは、①規範定立→②あてはめ→③結論となっています。

さらに、Aを在外支店の財務諸表項目の換算、Bをテンポラル法とした場合に、本問の解答はA=Bを説明する問題となります。このAとBの関係を結びつける論理が、両者の共通点といえるCの部分です。

すなわち、「①A=、②B=、∴③A=B」という論理のつながりがCの部分となります。

よく勉強しているのに合格しない理由

ここで、よく勉強しているのに本番で苦戦してしまう受験生の解答例を示します。

【受験生Aの解答】
外貨建基準において、在外支店の財務諸表項目の換算方法にはテンポラル法の考え方が採用されている。ここで、テンポラル法とは、外貨測定時(テンポラル)の為替相場によって換算する方法をいう。在外支店の財務諸表項目は、本国の本店の財務諸表の構成要素となるので、テンポラル法の考え方を採用すべきである。
【受験生Bの解答】
在外支店の財務諸表項目は、本国の本店の財務諸表の構成要素となるため、本国の本店が取引した場合と同様の換算数値となる必要がある。このことから、外貨建基準では、在外支店の財務諸表項目の換算方法についてはテンポラル法の考え方が採用されている。

これらは実際の受験生の解答例です。しかも、ものすごーく典型的な(よく勉強している)受験生の解答例です。模擬試験という制限時間のある中での解答ですので、ここまで書ければ大したものです。よく勉強していないとここまでの内容は書けません。

予備校的な採点だと、まず、結論に5点、キーワード「本国の本店の財務諸表の構成要素となる」とか「テンポラル法の定義」とかに5点、といった感じになります。すると、この2人の解答にはまずまずよい点がつくわけです。

しかし、この2人の受験生は本試験で苦戦する可能性があります。模擬試験の点数もよいので、本質的に何が欠けているのかわからないままです。できたと思い込んでいるのです(暗記して覚えているものをとりあえず書いた可能性があります)。

すでに答案構成のエッセンスを示していますので、これを読んでいるみなさんはこの2人の解答に違和感があるはずです。これが「答案構成合格法」で期待される効果なのです。論理になっていないのです。書いていることはそれっぽいですし、よく勉強していることはわかりますが、説明になっていないのです。

採点者は、「在外支店の財務諸表項目は、本国の本店の財務諸表の構成要素となるので、テンポラル法の考え方を採用すべきである。」という文章を見ると、「Why!?」となります。本国の本店の財務諸表の構成要素となることと、テンポラル法を採用することとが論理でつながっていないのです。

同様に「本国の本店が取引した場合と同様の換算数値となる必要があるから、テンポラル法を再代すべき」という内容も、テンポラル法の中身の説明とともに、その内容が「本国の本店が取引した場合と同様の換算数値をもたらす」という点を説明していないため、全体として論理的な説明になっていないのです。

すると、この解答には大きな「×」が付されて「0点」と書かれる可能性があります。極端ですが、これらのそれっぽい解答は、説明になっていないので0点なんだなと、思ってください。

ここで一つ重要な点を。「定義は、ある結論を導くために必要な場合にのみ書く」という点です。

テンポラル法の定義の位置づけに注目してください。受験生Aの解答では、用語の説明としてテンポラル法の定義を書いています。これに対して、答案構成では、②あてはめの「C」の部分を導出するための論理としてテンポラル法の定義を書いています。

「単に用語の説明をしろ」という問題であれば定義を書けば解答になりますが、論理に関わりのない単なる説明であれば、読み手にとって論理を破断させる邪魔な存在となってしまうことに留意してください。

「答案構成」の『答案構成』

解答の道筋(論理)を示すものが「答案構成」です。なんと、ここでこの答案構成にさらに画期的なものが加わります。「答案構成の答案構成(フレームワーク)」です。フレームワークは「骨組み」です。まずは、「箱」だと思ってください。その箱の中でマニュアルどおりに実際の道筋を立てます。

よく使うフレームワークは、すでに紹介した「①規範定立→②あてはめ→③結論」や、三段論法「A=C、B=C、ゆえに、A=B」です。もっともシンプルなのは、「△△であるため(そのため)、○○である。」というフレームワークです。このシンプルな箱は一番重要視してください。「理由→結論」という論理の道筋をもっとも端的に示しています。

その他にも、「○○の必要性」という問いであれば、「もし○○がなかったら、××という問題が生じる。ゆえに、○○は必要」という背理法も便利です。

まとめ

ある2つの概念の整合性や関係を問う論点は、三段論法によって両者の共通点となるCの部分、すなわち「共通している部分」を明示するように論述することがポイントとなります。

問題点の指摘といった論点は「規範定立→あてはめ→結論」が使えます。あるべき論(規範)があるからこそ、問題点が浮き彫りになるからです。

重要な概念や方法の必要性の論点は、「もしその概念や方法がなかったら→問題点の指摘」といった背理法が便利です。

みなさんの手元にある「論述問題の模範解答」についても、文章全体を読み込んで写経するのではなく、まず論理のフレームワークを構築し、それぞれのパートがどのような論理で結びついているのかを分析し、答案構成をつくってください。その答案構成だけを繰り返し確認することで十分に合格答案を書く力が養われます。

〈執筆者紹介〉
井上 修(いのうえ・しゅう)
福岡大学准教授・公認会計士
慶應義塾大学経済学部卒業。東北大学大学院経済学研究科専門職学位課程会計専門職専攻、同大学院経済学研究科博士後期課程修了。博士(経営学)。研究分野は、IFRSと日本基準の比較研究、特別損益項目に関する実証研究。福岡大学では「会計専門職プログラム」の指導を一任されている。当プログラムでは、現役の大学生が多数、公認会計士試験や税理士試験 簿記論・財務諸表論に在学中に合格を果たしている。本プログラムから2018年は10名、2019年は5名、2020年は6名が公認会計士試験に合格。

※ 本記事は、会計人コース2019年6月号掲載「点を獲る「答案構成」テク」を編集部で再編集したものです。バックナンバーでは、例題を使ったすべての実践例をご覧いただけます。ぜひこちらからお買い求めください。


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