【短答後の会計士受験生のお悩み 井上修先生に聞いてみた②】時間がないなか、論文式試験にどう向き合う?


こんにちは! 編集部です。

5月23日に令和3年公認会計士試験短答式試験が実施されました。

本特集の第1回では、福岡大学准教授・公認会計士で、受験指導にも熱心に取り組まれている井上修先生に、今年の短答式試験を振り返っていただき、次回の短答式試験を視野に入れている場合、どう対策すべきか、お話を伺いました。

2回目となる今回は、論文式試験への向き合い方についてお話を伺います。

5月に短答式試験、8月に論文式試験と時間がないなかでの対策。不安を感じたり、モチベーションが下がったりしている方もいらっしゃるかもしれません。

ぜひ本記事の内容を参考に、気持ちを高めて論文式試験の勉強を進めていってください!

短期間でも合格する可能性は十分にある

――今年は「短答式試験が5月のみ」とイレギュラーな公認会計士試験となりました。そんななか、論文式試験に不安を感じている受験生も多いと思うのですが、どのような気持ちで対策をしていけばよいのでしょうか。

井上先生 まず、8月論文式試験の「合格」を諦めないでください。たとえ租税法や経営学など、“論文科目の勉強が進んでいなかったとしても”です。

私が指導してきた受験生にも、5月末から租税法や経営学の勉強をスタートさせ、見事に論文式試験で一発合格を果たした方はたくさんいます。もちろん、間に合わずに不合格となった方もいますが、科目合格する方も多くいました。

そのため、勉強が進んでいなくとも、可能性はゼロではありません。うまくやれば、短期間でも合格する可能性は十分にあるので、自信をもって論文式試験の勉強を進めてほしいです。

「科目合格ねらい」はもったいないかも?

――“これからの勉強次第”ということですね。「科目合格をする方もいた」とのことですが、たとえば、「最初から科目合格を狙う」という戦略もあるのでしょうか。

井上先生 たしかに「最初から科目合格を狙う」という選択肢も1つの手です。実際、5月短答受験者で科目合格をするパターンは、監査論と企業法が多く、12月短答受験者だと、それらに加えて、租税法と経営学にも合格する方が数名います。

ただ、これまで多くの受験生を指導してきた立場からすると、公認会計士試験における科目合格は、あくまで「副産物」のように思います。つまり、勉強した末に「おまけ」として授かっている、というのでしょうか。

私が指導してきた科目合格者は、最初から科目合格だけを目指して論文式試験を受験していませんでした。結果として、そうなったといえます。

――副産物やおまけ……。

井上先生 受験生それぞれに事情があると思うので、一概に戦略としてどうとは言えません。ただ、あくまで個人的な見解ですが、最初から科目合格だけを狙った戦いは「もったいない」と考えています。

仮に、5月短答受験者で、会計学や監査論、企業法の科目合格を狙い、それだけを勉強して8月本試験に臨んだとします。しかし、これらの科目で“確実に”合格を狙うのであれば、かなりの勉強量が必要になります。率直に言うと、租税法や経営学を含めた全科目を勉強する場合と、トータルの勉強量はそれほど大きく変わらないと思います。

下の図を見てください。5月短答に合格した受験生を想定して作成しています。

お伝えしたいのは、一定レベルを超えた部分を極めていくのは非常に難しいということです。逆にいえば、標準的な部分に限定すれば、ある程度の集中した時間で達成できるかもしれないということです。

ご覧のとおり、科目合格は、ある程度の高い水準で結果を出すことが求められます。本試験では何が出題されるかわかりません。その不確実性を考えると、科目合格を狙うのであれば、縦軸の習得度を相当に高める必要があり、また横軸の学習時間(t)も多くなります。

これに対して、総合合格ライン(平均よりもちょっと上くらい)は、ある程度の習得度と学習時間で目指すことができそうです。

また、基礎的な部分や標準的な部分ほど、最初の段階で学習します。これらは、出題可能性が高く、相対試験である公認会計士試験では、合否に差がつく決定的な論点です。つまり、図でいえば左側であるほど、合格するために必要不可欠なところを学習しているといえます。

――なるほど。そう言われてみると、「総合合格」を目指したいところですね!

井上先生 そうですね。まだまだ勉強のやり方次第で一発「総合合格」の可能性は十分あります。もちろん、「不合格」となる可能性もあります。しかし、そのリスクは、「科目合格」を目指したところで同じです。だからこそ、諦めずに「総合合格」を目指してほしいと思います。

とはいえ、ここまでお話ししたことは私個人の考えであって、人それぞれの状況や事情もあります。そのため、まずは自分自身と向き合って、そのうえで論文式試験で目指すべきところを決めていってほしいです。

――自分自身と向き合う、大事なことですね。参考になるお話をありがとうございました!

★第3回(5月27日掲載)では、論文式試験の具体的な戦略をお話しいただきます。

〈お話を聞いた人〉
井上 修(いのうえ・しゅう)
福岡大学准教授・公認会計士
慶應義塾大学経済学部卒業。東北大学大学院経済学研究科専門職学位課程会計専門職専攻、同大学院経済学研究科博士後期課程修了。博士(経営学)。研究分野は、IFRSと日本基準の比較研究、特別損益項目に関する実証研究。福岡大学では「会計専門職プログラム」の指導を一任されている。当プログラムでは、現役の大学生が多数、公認会計士試験や税理士試験簿記論・財務諸表論に在学中に合格を果たしている。本プログラムから2018年は10名、2019年は5名、2020年は6名が公認会計士試験に合格。


関連記事

ページ上部へ戻る