こんにちは! 会計人コースWeb編集部です。
3月19日に、2021年度に適用される日商簿記検定の出題範囲(出題区分表)が公表されました。
この記事では、出題区分表の「どこが変わったのか」や、出題区分表に影響を及ぼすことになった「『収益認識に関する会計基準』の考え方」などについて、簡単にお伝えしていきます。
目次
☑出題区分表のどこが変わったの? 試験範囲が増えるの?
☑そもそも「収益認識に関する会計基準」とは!?
☑【まとめ】具体的な試験範囲の変更は?
☑今後の簿記検定試験の学習に向けて
出題区分表のどこが変わったの? 試験範囲が増えるの?
最初に結論からお伝えすると、2021年度の受験にあたっては、出題されなくなる論点はあるものの新しい論点が加わるわけではありません。つまり、追加でのフォローが必要な論点が増えるわけではないので、これまでの学習を継続すれば、2021年度の受験には対応できることになります。
ただ、これまでの日商簿記検定試験向けのテキストや問題集では、2021年度の検定試験では出題されなくなる範囲が解説されている可能性もあるため、その点は注意する必要があるかもしれません。
また、さらに1年先の2022年度以降に適用される予定の出題区分表では、主に2級・1級において新しい論点が出題される見込みのため、今後注意が必要です。
そもそも「収益認識に関する会計基準」とは!?
2018年に公表された企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」(収益認識基準)は、いよいよ2021年4月から実務で本格適用されます。
収益認識基準は、商品販売による売上やサービス提供による営業収益などの会計処理等を定めた会計基準です。これまで日本において、これらの収益の取り扱いを包括的に定めた会計基準がありませんでしたが、日本の会計処理等をIFRS15号(国際会計基準)へ可能な範囲で合わせる(コンバージェンス)ために設定されました。
収益認識基準が設定されたことにより2022年度以降の簿記検定の出題論点に大きく影響するのは、「いつ」「いくら」で売上などの収益を計上するか、ということです。
(1)「いつ」計上するの?
収益認識基準では、顧客との契約による「履行義務を充足した時」または「充足するにつれて」計上することとされています。
たとえば、3級から出題される単純な商品販売であれば、商品を顧客へ提供することが売手の履行義務に該当します。そこで、商品販売時に売上を計上することになり、今までと同じ処理となります。
取引条件にもよりますが、2級の論点である着荷基準や検収基準だけではなく発送基準も、今までと同様に適用できます。
それに対し、たとえば1級で出題される割賦販売については、今まで販売基準の他に回収基準と回収期限到来基準がありましたが、この基準では、あくまで履行義務を充足した時(販売した時)に収益計上することを定めています。つまり、回収基準と回収期限到来基準が認められなくなり、今後の簿記検定では、割賦について販売基準のみが出題される見込みです。
(2)「いくら」計上する?
収益の金額は、商品販売やサービス提供の見返りとして企業が権利を得ると見込む対価の額(第三者のために回収する額を除く)で計上することとされています。
3級で出題される単純な商品販売については、「いつ」計上するかと同様に「いくら」で計上するかについてもほぼ影響を受けません。
それに対し、現在2級の範囲である売上割戻や返品権付きの売上は影響が生じます。たとえば売上割戻では、今まで販売時に販売総額で売上を計上し、決算で売上割戻引当金を計上する出題がされていました。しかし、この基準では、割戻によって対価として得られないと見込まれる金額を控除して売上を計上します。つまり、売上割戻の見込額について決算で売上割戻引当金を計上することはありません。
【まとめ】具体的な試験範囲の変更は?
(1)収益認識基準による取引への影響
日商簿記検定では、2021年度から収益認識基準を踏まえた出題がされますが、特に会計処理が変わる論点は2022年度から出題されることとされています。
今まで示した取引を例にすると次のとおりとなります。
(2)2021年適用の出題区分表から減る論点
日本商工会議所から公表された出題区分表をご覧になっていただいてもわかるとおり、下記の論点がこれまでの出題区分表から削除され、2021年度では出題されないこととされています。
3級
・商品販売時の発送費の買手負担(売掛金または立替金とする処理)*
・分記法(収益認識基準とは直接関係ありませんが、受験者の負担を軽減するために2021年度から削除となります)
2級
売上割戻・売上割戻引当金、返品調整引当金、売上割引、消費税の税込方式、作業屑・副産物(工業簿記)
1級
工事契約、荷為替取引、割賦販売のうち回収基準・回収期限到来基準*、材料の有償支給(工業簿記・原価計算)*
* 出題区分表には明記されていませんが、同時に公表された区分表改訂の説明資料で出題されないこととされています。
今後の簿記検定試験の学習に向けて
繰り返しになりますが、2021年度の受験にあたっては、出題されなくなる論点はありますが新しい論点が加わるわけではありません。
また、ここまでに説明しきれなかった論点への影響もたくさんあり、商工会議所から公表された2022年度以降の暫定版の出題区分表には、「契約資産」や「一時点で充足される履行義務」など、今までにない新しい言葉も記載されています。
そのため、とりあえず簿記検定に合格したい方は、今までの学習内容で安心して2021年度の受験ができますし、今後の実務にも簿記を活かしたいという方は2022年度以降も2級以上の学習を続けるとよいでしょう。
受験生のみなさん、合格に向けて、張り切って学習を続けていきましょう!
【参考資料】
【簿記検定試験】2021年度の簿記検定試験に適用する出題区分表、および「収益認識に関する会計基準」の本格適用を反映させた2022年度以降の出題区分表検討状況について
企業会計基準第29号 収益認識に関する会計基準(企業会計基準委員会)