日商簿記1級に合格するには?
いざ日商簿記1級を取得しようと考えたとき、そのボリュームの多さにびっくりされる方は多いのではないでしょうか? 私自身も日商簿記1級を勉強したとき、学習範囲の広さに呆然とした記憶があります。しかし、自らの受験経験や長年の講師経験、直近の試験傾向から、重点的に学習を進めたい論点や学習のコツを見出したので、科目ごとに紹介させていただきます。
商業簿記
商業簿記の総合問題は、工業簿記とは異なり、個別論点が集積したものです。そのため、独立した論点の問題が出題されているということを忘れないようにしてください。つまり、解きやすい独立した個別論点を見つけ出し、そこから確実に点を拾っていくのです。
そして、商業簿記には得点源になる典型論点があります。合格ラインを突破するためには、まず以下に挙げる典型論点を優先的にマスターし、部分点を確実に取れるようにしておきましょう。
商業簿記の典型論点
① 現金預金の処理(現金過不足や残高確認証との不一致) ② 期末棚卸資産の評価 ③ 貸倒引当金 ④ 有価証券 ⑤ 固定資産関係(減価償却・リース・減損・資産除去債務など) ⑥ 退職給付引当金 ⑦ 新株予約権・ストックオプション ⑨ 自己株式 など |
なお、「商品売買」や「売上債権」、「仕入債務」といった論点は、複数種類の商品や処理方法、取引方法(割賦とか委託とか)を組み合わせた出題ができるので、いくらでも問題を難しくできます。どういうことかというと、どんなに勉強しても本番で解けるかどうかはわからないということですね。
そのため、費用対効果を考えると、普段の学習でも、試験本番でも、こういった複雑な問題に時間を割くのは得策ではありません。よって、上記の典型論点で確実に得点できる実力をつけ、「商品売買」などは、“出たとこ勝負”がよいでしょう。試験時間内に解けるようなら解き、解ききれないようなら部分点(たとえば、期末商品の評価損や減耗損とか)を拾うという戦略が重要です。
会計学
会計学は、さまざまな形式の問題が出題されます。そのため、問題集でどんなに練習しても、本試験では見慣れない出題形式に変えられたりすると、とたんに解けなくなることもあります(これを「転移の失敗」といいます)。
これを避けるためには、本番と同じ形式の問題を解き、特有の言い回しや出題形式に慣れるほかありません。意識的に、過去問で会計学のさまざまな問題にあたってみてください。
工業簿記
日商簿記1級の工業簿記は、過去に何度も非常に練られた問題が出題されており、「現場思考の応用問題」に対処できる学習をする必要があります。
たとえば、直近で行われた第157回試験(2021年2月28日実施)で、直接労務費の差異分析が出題されたのですが、「予想遊休能力差異」という聞きなれない言葉が出てきました。このような初見の問題には、「覚えている」だけの学習では対応できません。学習内容を理解し、そこからヒントを見つけ出し、思考しながら解いていく必要があります。
原価計算
日商簿記1級で「意思決定会計」は頻出の論点で、第157回試験でも出題されています。今後の対策としても、「単純回収期間法」「正味現在価値法」「単純投下資本利益率法」「内部利益率法」は、テキストレベルの基本的な内容なので、それぞれの長所・短所とともに計算方法をしっかりと押さえておきましょう。
また、第157回試験では「シンプレックス法」に関する理論が問われていました。この論点は、テキストでも名称が紹介される程度で、解説がないものがほとんどなので、できなくても仕方がない問題でした。
日商簿記1級の工業簿記や原価計算は「受けてみないとわからない」というのでしょうか、「水もの」要素が強いです。そのため、とにかく「基本レベルの問題を確実に得点する」ことが重要なので、しっかり基本レベルの問題を「理解」し、「暗記」するようにしてください。