渡邉 圭
(千葉商科大学基盤教育機構准教授)
2021年2月28日、第157回日商簿記検定が実施されました。受験された皆さま、おつかれさまでした。
前記事では、2級の合否を分けたポイントと今後の対策をお話ししましたが、今回は1級です。1級は、全体的に問題量が多く、近年は公認会計士試験レベルの問題も一部出題されるようになってきました。
どの論点を学習すれば合格につながるのか、効率的に学習するにはどうすればよいのか、第157回試験を振り返ったうえでアドバイスをさせていただきます。
第157回を受験された方はもちろん、今後1級を受験される方も、ぜひ参考にしていただければ幸いです。
商業簿記
第157回では、「商品売買」に関する論点が出題されました。販売数量と仕入数量を使って、売上原価の金額から仕入単価の金額を算定しないと解答できない問題でした。「商品売買」は、多くの解答時間が必要な論点ですので、全体のうち解答できた受験生がどれほどいるのか気になるところです。
このほかには、「減価償却」、「資産除去債務」、「自己株式」、「株式交付費の償却」、「退職給付引当金」、「費用の前払・未払」、「収益の未収」、「法人税等の確定」が出題されました。これら「商品売買」以外の論点で得点できたかが合格の条件となるでしょう。
会計学
第157回では、「減損会計」、「リース会計」、「連結会計(材料・仕掛品・製品の未実現利益の消去)」、「ストックオプション」、「株式交換(逆取得)」が出題されました。
各論点で一部、解答が難しいところもありました。たとえば、リース会計。3%と4.2%どちらの利率を使えばよいかを理解していないと、解答ができなかったかと思います。株式交換も、「逆取得」は学習する機会はあまりないと思いますので、解答は難しかったでしょう。
そのため、「減損会計」と「ストックオプション」で得点できたかが合格の条件となります。
工業簿記
第157回では、「労務費の差異分析」の難易度が特に高かったです。また、短期利益計画と標準原価計算のうえで労務費をどのように取り扱うかなど、従来と異なる形式で問われたことから、解答が難しい部分がありました。
「予算の貢献利益と営業利益」、「損益分岐点売上高」、「販売活動に関する差異分析」、「実際の営業利益」で点数を獲得することが合格の条件となるでしょう。
原価計算
設備投資の意思決定では、「回収期間法」、「正味現在価値法」、「単純投下資本利益率」、「内部利益率」など、指標に関する論点が出題されました。「内部利益率」以外の論点は、比較的点数が獲得しやすい問題でした。しかし、正味現在価値を計算する過程で、「投資額を引き忘れる」といったケアレスミスを引き起こしやすい問題も見受けられました。
また、最適セールスミックスでは、「リニアプログラミング」が出題されました。販売数量を2:1で区分し、そこから売上高を解答する論点もありましたので、こちらもケアレスミスをせずに解答しなければなりません。
原価計算は、計算問題で7~8割程度の解答が合格の条件になると思います。理論問題は未学習項目のほうが多かったと思いますので、こちらが解答できなくても合否に影響はないものと想定されます。
今後の1級対策
商業簿記・会計学は、基本的な論点をまんべんなく学習しましょう。特に会計学は、難しい計算問題と、一連の取引を理解しているかどうかを問う問題が出題されます。これらを意識して、問題集を使った学習をしてください。
「企業結合」と「連結会計」に関しては、余裕がありましたら、公認会計士試験で出題される論点を学習すると、他の受験生と差をつけることができます。テキストレベルでかまいません。企業結合の「逆取得」、連結会計の「子会社株式を取得した際の付随費用」といった論点が該当します。
工業簿記・原価計算は、問題文をしっかり読み、金額を算定するためのまとめ方を整理しながら学習しましょう。まとめノートなどを作成する際は、計算式の根拠を文章で記録しておくと、効率よく復習できます。補足論点としては、「シャドープライス」、「正味運転資本」、「キャッシュコンバージョンサイクル」などがあります。余裕がありましたら学習しましょう。