公認会計士・税理士 加藤大吾
本連載では、税理士試験の簿記論・財務諸表論において、執筆者の指導経験上、誤答が多かった論点を取り上げます。【問い】に対する【解説】のなかに誤りを含む部分があるので、「ここが間違いじゃないかな?」と指摘してください。電卓をたたかなくても、スキマ時間に間違いさがしは可能です。この連載を解くことで、簿記の勉強はもちろん、実務において取引記録を見ながら誤りを発見するという職業体験もすることができます。ぜひチャレンジしてみてください。
本連載は、会計人コース2020年3月号別冊付録「読んで考えて総復習 間違いだらけの計算問題」を再編集したものです。
難易度 | ★★☆☆☆ |
問題15 退職給付引当金
【問】 次の〔資料Ⅰ〕および〔資料Ⅱ〕に基づき,当期(X1年4月1日~X2年3月31日)の損益計算書の退職給付費用はいくらか,求めなさい。
〔資料Ⅰ〕 決算整理前残高試算表
〔資料Ⅱ〕 決算整理事項
1.当社は,確定給付型退職一時金制度を採用している。残高試算表の退職給付引当金は前期末残高であり,仮払金は当期中に支払った退職一時金を処理したものである。
2.前期末の退職給付債務の実績額は120,000円である。また,前期末の未認識数理計算上の差異は20,000円(借方残高)であり,すべて前期末に発生したものである。
3.当期の勤務費用は10,000円である。また,割引率は1%である。
4.当期末の退職給付債務の実績額は135,200円である。
5.数理計算上の差異は,発生年度の翌期より10年の定額法により費用処理する。
【間違いを含む解説】
1.退職給付費用
(1) 利息費用
120,000円(退職給付債務の前期末残高)×1%(割引率)=1,200円
(2) 退職給付債務の当期末残高
120,000円(前期末残高)+10,000円(勤務費用)+1,200円(利息費用)-8,000円(一時金支払額)=123,200円
(3) 数理計算上の差異の当期発生額
135,200円(実績額)-123,200円(当期末残高)=12,000円(貸方残高)
(4) 数理計算上の差異の当期費用処理額
{20,000円(期首残高)-12,000円(当期発生)}÷10年=800円
(5) 退職給付費用(解答の金額)
10,000円(勤務費用)+1,200円(利息費用)+800円(費用処理)=12,000円
2.決算整理仕訳(参考)
(借) | 退職給付費用 | 12,000 | (貸) | 退職給付引当金 | 12,000 |
(借) | 退職給付引当金 | 8,000 | (貸) | 仮払金 | 8,000 |
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ココが間違い!
数理計算上の差異の当期発生額は,貸方差異ではなく,借方差異である。
また,数理計算上の差異の費用処理の開始時期は,問題文の指示により翌期からであり,当期発生額については,費用処理できない。
1.退職給付費用 (3) 数理計算上の差異の当期発生額 135,200円(実績額)-123,200円(当期末残高)=12,000円(貸方残高) (4) 数理計算上の差異の当期費用処理額 {20,000円(期首残高)-12,000円(当期発生)}÷10年=800円 (5) 退職給付費用 10,000円(勤務費用)+1,200円(利息費用)+800円(費用処理)= 12,000円 2.決算整理仕訳(参考) (借)退職給付費用 12,000 (貸)退職給付引当金 12,000 (借)退職給付引当金 8,000 (貸)仮払金 8,000 |
【正しい解説】 1.退職給付費用 (3) 数理計算上の差異の当期発生額 135,200円(実績額)-123,200円(当期末残高)=12,000円(借方残高) (4) 数理計算上の差異の当期費用処理額 20,000円(期首残高)÷10年=2,000円 (5) 退職給付費用 10,000円(勤務費用)+1,200円(利息費用)+2,000円(費用処理)= 13,200円 2.決算整理仕訳(参考) (借)退職給付費用 13,200 (貸)退職給付引当金 13,200 (借)退職給付引当金 8,000 (貸)仮払金 8,000 |
チェックポイント
数理計算上の差異の費用処理について,発生した期から費用処理する場合と,翌期から費用処理する場合の両方が認められている。
なお,過去勤務費用については,発生した期から費用処理するので,翌期から費用処理することはできない。
〈執筆者紹介〉
加藤 大吾(かとう・だいご)
早稲田大学大学院会計研究科非常勤講師・公認会計士
2003年早稲田大学政治経済学部経済学科卒。2005年公認会計士登録。東京CPA会計学院にて公認会計士講座(簿記)・日商簿記検定講座の講師業務の傍ら、監査法人にて監査業務にも従事。2015年より早稲田大学大学院会計研究科非常勤講師。著書に『税理士試験 簿記論・財務諸表論 総合問題なるほど解法ナビ』(中央経済社)がある。